一
「冬は寒いね」
と誰かが言いました。
「家から出たくないね」
と誰かが答えました。
「冬は雪がいっぱい降るね」
と誰かが言いました。
「歩きにくいね」
と誰かが答えました。
「冬だね」
と誰かが言いました。
「冬は嫌いだよ」
とみんなが答えました。
この国は、いま冬です。あたりには、身を切るような冷たい風が吹いています。
どの家も外の寒さを防ごうと、戸を固く閉ざし、窓を閉め、カーテンを閉めています。国の人たちは、その家の中で小さくなって、あたたかい春を待ちわびるのです。
外に出ても良いことはありません。寒い上に、たくさん降る雪で髪も服も濡れてしまいます。
仕事や学校や買い物や――。どうしても外に出ないといけない人たちは、みんな分厚いコートを着て、長靴を履いて、毛糸の帽子を深くかぶっています。そうしながら、猫のように背中を丸め、足元のぬかるんだ雪をにらみつけて歩くのです。
「寒いから学校に行きたくない!」
と子どもは玄関で泣きわめきました。
「雪のせいで野菜が高いわ!」
と主婦は台所で憤慨しました。
「人が来ないから商売あがったりだ!」
と店主は店先で頭を抱えました。
この国の人は、みんなみんな、寒い冬が嫌いでした。
「そうかなぁ?」
とある少年が言いましたが、誰も聞いていません。
雪がキラキラしてきれいなのに。と少年は思いますが、みんな転ばないようにぬかるんだ足元ばかりを見ています。
「早く春が来てほしいよ」
みんながみんな、口をそろえてそう言いました。




