縁談、断っておいたからな。
わたしはポルティカ。
そこそこ豊かな村に住んでいる。
今日は村の長である長老に、母からお使いを頼まれた。
「いつも悪いね~」
「たしかに届けましたよ。さようなら~」
物を届け終えたからすぐに、長老の家を後にした。
「おーい」
帰り道を歩いていたら長老に呼び止められてしまった。
「げっ」
せっかく長老の長話を聞かなくて済むと思ったのになあ。
「げってなんじゃ」
長老は悲しそうにうなだれた。
仕方なく長老の家にまたいって、話を聞くたいせいになる。
「そういえば」
立ち直りの早い長老は話を切りかえて話を始めた。
「お前さん、こないだどこぞの国からの縁談あったじゃろ?」
なんで、長老がそれを知っているの!?と叫びそうになる。
けど、長老だから知っててもおかしくないか、と言葉をのみこんだ。
「あれ、断っておいたからな」
髭を生やした老人の笑顔につられて笑いそうになったが、それよりも突発的な怒りが込み上げて来る。
「長老!!どういうことですか!?」
わたしは木製のテーブルを強く叩き、それを破壊しそうになった。
「これこれお前さんが怒るたび机はボロボロなんじゃ。乱暴はやめんか」
わたしを必死になだめる長老、でも原因はあなたよ。
「なんか気乗りしてないように見えてな」
それは長老の主観でしょうが。
「そんなわけないじゃないですか!!」
わたしがテーブルの端に手をかけてひっくり返したことで、吹き飛んだテーブルはまっぷたつになる。
「いや、ワシにはそう見えた」
テーブルがなくなったのに気にせずお茶を飲む長老。
いつの間にカップを持ったのよ。
「おいーっす」
少年はドアを足で開けた。
「よく来たのう。茶でも飲むがよい」
わたしがやると怒るのにあの少年には怒らないのね長老。
「こんにちは」
「おーあんたがポルティカか」
少年はわたしの顔を見て、うんうん頷く。
「本当にかわいいじゃねえか“兄ちゃん”!」
兄ちゃん?誰のこと?
「そうじゃろそうじゃろ」
長老、兄ちゃんなんて年じゃないでしょ?
「実はワシ、昔悪い魔女に魔法をかけられてしまったんじゃ」
そんな話聞いたことないわ!。
「誰ですかその悪い魔女って」
長老は少年と顔を見合わせる。
「お前さんじゃよ」
わたしが悪い魔女!?
「あんたは忘れているかもしれないけどあんたは小さな頃におれと兄ちゃんに魔法をかけたんだ」
少年が説明してくれた。
「なんで?わたしが魔法を!?」
魔法を習ったことなんてないのに。
「お前さんの母が魔女なんじゃ」
えええ!?そんな話も聞いたことないわよ!?
「あ、あんたの親父は普通に人間だから安心してくれ」
ああよかった。他はともかく普通の人がいてよかった。
「それとな」
長老、これ以上わたしを驚かせるなにかがあるというの?
「わしそろそろ寿命が近い」
「えっ!?」
長老が死ぬ―――?
「と言う話の一部は嘘じゃ」
「一部?」
長老が立ち上がり顔に手をやる。
「どうだ?」
突然若い青年の姿になった。
「長老なのに…悔しいけどかっこいい」
あの髭おじいさんがどこかに行って、突然美形の男になってしまうなんて。
「縁談の事、許してくれるだろう?」
「それとこれとは話が別です」
というか何がどうなってるのよイケ長老。
「俺、もうすぐ死ぬんだ」
「えっ!?」
冗談だと思っていたのに、本当に?
「まあ嘘だ」
「そうですか」
わたしはほっとした。
「だから椅子を投げようとするのはやめようか」
仕方無い美形に免じて許そう。
「まったく昔から変わらん。嫁の貰い手がないな」
急につけあがった。嫁の貰い手を潰したのはあなたよ。
「いっそそいつを貰ってやってくれないか?」
少年はなにやら照れている。
「え~おれ彼女いるし~兄ちゃんがもらえよー」
「なんだ彼女いるのか~」
下手にまわれば調子にのるんじゃないわよ美形長老め。
「よし、俺が結婚してやる」
「どうしてそうなるんですか!」
冗談にしてももう少しまともなのにしてほしい。
「縁談を断ったと言ったな」
「まさか嘘なんて言うんじゃ?」
実は嘘だったなんて言われたら拍子抜けしてしまうほど、つまらないジョークだ。
「断ったんじゃなく断られた。と言ったらお前が悲しむと思ってな」
長老、少しは気遣いが出来るんじゃない。
「俺は本当は、お前が―――」
「え?」
まさか、告白?
「怒って村を破壊したら大変だと思っただけなんだがなあ」
「長老ぉ!!」
「それにしても長老はどうして若くなったんですか?悪い魔女って?」
「昔、魔女に貰った謎の薬のせいだ」
「はあ」
「飲んだ者に運命の相手が現れたら老化し、運命の相手が自分と結ばれる道が開けたとき、元に戻る。というなんとも馬鹿げた薬だ」
「運命の相手?わたしが?」
なんとも不思議な話ね。
「そういうことになる」
「つまり縁談が断られなかったら」
「ヨボヨボのまま死んでいたな」
「…それは嫌かもしれません」
たとえ老人の時でも長老が死ぬのは嫌だと思う。
「ともあれ、元に戻れた。お前は好きな奴と好きなように生きろ」
「じゃあ長老、結婚してください」
わたしはどきどきしながら手を差し出す。
「俺は元に戻れたし俺にとって運命の相手でもお前の運命の相手が俺とは限らないだろう」
「貴方が結婚してくれないと嫁に貰ってくれる人がいませんから!」
わたしは長老を後ろから抱き締めた。
『おにーさん独り身?』
『関係ないだろ…』
『じゃあわたしが大きくなったらお婿さんにもらってあげる』
『なんでだ?』
『お兄さんかっこいいから』
『俺が結婚するのが早いかお前が大きくなるのが先か…』
『ぜーったいお兄さんのお嫁さんになるんだから!!』
「ありがとう」
「なんでお礼を言うんですか」
逆にこっちがいうところじゃない。
「いや、俺も嫁にもらう相手がお前しかいないからな」
「長老…」
格好いい。長年老人だったとは思えないほどに。
「名前で呼べいつまでも長老じゃあ、格好がつかない」
「…ヴィーロさん」
なんだか照れる。
「ポルティカ、好きだ」
「ヴィーロさん、愛しています」