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コンプレックス


「依田先輩」


「あれ、香織ちゃん?」


意外と早く成海は捕まった。

一人で3年生の教室に来るのは人見知りの香織にとって

戦場に赴くかのようなものだったが事が事だけにそんなこと言ってられない。

どうしても、昨日のことについて成海の話が聞きたかった。

成海が公園から出て行った後の出来事を要領悪く話してるうちに

昼休みが終わるのでは、とドキドキしたが成海が話の要点を上手く掴んでくれたので

なんとかちゃんと経緯を話すことが出来た。


「へぇ、佑介くんがね」


「あの、藤本先輩は・・」


「うーん、まぁ図星だよね。

 佑介くんの言う事に異なる点はないよ」


少しムッとする。成海は佑介の肩を持つというのか。

不満気な顔の香織に気付いたのか成海は「ごめんごめん」と笑った。


「でも俺は千尋が好きだ。

 それに、化学部にとって有益な人物だと思ってる」


「・・フォローですか?」


「そうだね、事実は確かに千尋は学園の理事長の息子でコネで入学した。

 千尋は高校には進学したくなかったみたいだから不本意だったろうね。

 その反抗の現れがあの派手な見た目だよね。学年からは浮いた存在だし。

 頭に血が上りやすくてよく嫌味を言われては喧嘩してた。

 でも千尋はある人にその運動神経を買われて助けられたんだ。

 その人は化学部を発足して千尋を入部させたよ。

 最初は千尋も反発しまくってたけどなんか慣れてたね、最後の方は」


「それって、依田先輩ですか?」


「ううん、違う。もう卒業しちゃった人。

 俺の先輩でもある。千尋が先輩と呼んで慕う数少ない1人だね」


「でも佑介くんは何で知ってたんですかね・・?」


それを聞いたときタイミング悪くチャイムが鳴る。

成海は「またそれは後日ね」とお茶を濁すと別れた。






「やっほー、どうリレーの調子はっ?」


昼休み後の4時間目の授業が終わると智香が話しかけてきた。

その問いかけに計算など裏はなさそうで

本気で心配して質問してきたのが伝わった。


「バトンは落とさなくなったよ」


「へぇ、放課後特訓のおかげだね」


「おかげさまで。智香もいろいろアドバイスありがとうね」


「いやいや、私はなーんにもしてないよ。

 あれでしょ、あのちょっと悪そうなお兄さんのお陰じゃん?」


「あぁ、藤本先輩」


「そそ、あの人ってなんなの、もしかして彼氏?」


「ち、違うよ!!部活の先輩」


「ふぅん、それにしてはすごく熱心だったよね。

 あながち香織に好意あったりするんじゃない?」


そうか、分かった。

確かに智香は生徒会としてこの質問はしてきてない、・・けど!

放課後のリレー練習に付き合ってくれてた千尋との関係が気になって聞いてきたのだ。

その野次馬根性を包み隠さない様子に感服すら覚える。


「ないよ、生徒会と同じで活動資金に必死なだけ。

 部活の費用稼ぐために頑張ってるんだよ」


「ふぅん、そんなもんかね。でも中身は良い人じゃない?

 それに金髪が目立って仕方ないけど顔はカッコいいじゃん。

 化学部は黙ってりゃイケメン揃いだよねぇ。

 1年女子の中でも密かに人気あったりするしね。

 まぁ、私は依田先輩の方がタイプなんだけどさぁ」


「金髪はどう考えてもナシだよっ!」


最後は半ばヤケクソに近かい。

そう言って振り切って購買にお昼を買いに行くために立ちあがった。

智香は「ごめーん、怒んないで。着いていくよ」と走ってきた。

それを横目で見ながら教室の扉をガラガラと音を立てて開けた。


「・・・!」


固まった私より後ろにいた智香が早くに声を上げた。


「あ、藤本先輩だっ!」


目の前には放課後すっかりお馴染みとなった金色の髪の人が立っていて

今はすごく眩しく見える。やばい、さっきの会話・・聞こえてた?

思いっきりその眩しいやつを批判しちゃったんですけど。

ていうかどうしてこんなときに限ってそこにいるんですか、あなた。


私の気分とは裏腹に教室の奥で小さな悲鳴が上がる。

智香の言うとおり密かに人気があるっていうのはあながち本当みたいだ。


「ねぇねぇ、藤本先輩に質問でーす!

 依田先輩には彼女いますか?」


すっとんきょんな智香の質問に千尋は軽く怪訝そうな顔をして


「いや、聞いたことない・・。

 でもこの前、公園で女と歩いてた」


「えぇー残念だなぁ!」


「てゆうか、お前生徒会のとこの奴じゃねーか」


「嫌だな、そんな敵意丸出しの目で見ないでくださいよ!

 生徒会ではありますけど香織のお友達です」


そう言って智香が私の腕を取る。

バランスを失って転びそうになったのを千尋が支えてくれて目が合った。


「あの、藤本先輩なんでここに?」


「いや・・」


少し罰の悪そうな顔をして聞きとれるかどうか微妙なラインの声で


「この前のアレ間違っても先輩には言うなよ、ていう忠告しに来た。

 つか忘れてくれ。そのでも本当に・・悪かったな」


すみません。もう報告しちゃいました。

藤本先輩、一足ほど遅すぎます、とは言えない。


「あ、はい。こちらこそ」


「それだけだ、じゃあな」


最後まで気まずい雰囲気を残してそそくさと去って行った。





「いやん、なになにっ?

 この前のアレってなにがあったの!」


購買で昼ご飯を買った帰り道、案の定というべきなのか

智香が聞かれたくないアレを聞いてきた。


「いや、いろいろあってね。

 まぁ説明すると長いから勘弁してよ」


「えぇー」


「ていうか生徒会の佑介くん、性格悪いよ!」


話を逸らすためとっさに共通の話題を出す。

智香は不満がると思ったが案外すんなり乗ってくれた。


「あぁ、あれね。

 あいつはいろいろと複雑らしいよ。

 先輩に聞いたんだー、ブラコン?」


「え、ブラザーコンプレックス?」


「そそ、なんかお兄ちゃんと比べられちゃうんだって!」


「・・それ意味が違うと思うけど」


「気にしない、気にしない。でもわざわざ同じ高校来ちゃって

 なんかすっごく天の邪鬼なんだよね。性格もクール装ってるけど

 本当はめちゃくちゃ子供って感じ。いちいち人の勘に触るようなことばっかり言う」


「あぁ、そうだね」


「あれ、香織も何か言われちゃった?気にしないほうがいいよ」


「・・うん」


やっぱり生徒会でも問題児扱いなのか。

これ以上何かないといいんだけど、と香織は少し不安になった。



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