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スカウト


一方その頃、黒瀬智香・・・。




緊急招集だった。

なんでも吉川先輩が初めて部に顔を出すらしい。

智香としては入学式以来の対面となるわけで

それはもうドキドキと胸が高鳴っていた。


智香が陸上部に所属する傍ら

所謂スカウトを受けて生徒会に所属した理由は

その吉川先輩にあるのだから。

どういった経緯で吉川先輩が智香をスカウトしたかなんて

智香には知るよしもなかった。

(まぁ、それに関しては智香以外は全員が知ってることだったが。)


放課後になると隣のクラスに在籍して

同じ生徒会のメンバーでもある

持田佑介を誘いにいった。


彼はまた生徒会からスカウトをうけた人物であり

本人としてはやる気の片鱗もなかったが

阿部先輩の熱心な誘いで渋々入ったらしい。


「佑介、行こうっ」


「え、今日って生徒会?」


「嘘、知らないの?

 今日は吉川先輩が来るんだってよ」


「へぇ」


その言葉に佑介が興味を示す。当たり前だ。

吉川先輩はすごく忙しい、という理由で

週2回ある生徒会をいつも欠席する。

だから1年の生徒会メンバーである

智香と佑介は会ったことない人だった。





「あら、今日は早いのね」


部室に入ると阿部先輩がいた。

彼女は3年生の先輩で吉川先輩と同期なわけだが

すごく嫌味ったらしい人で智香は苦手だった。


今だって

いつもは陸上部を優先し生徒会には遅れてくる

智香への嫌味だということはすぐに感じた。


佑介はそれには取り合わず阿部先輩に聞く。


「生徒会長は?」


「・・高校生に入って敬語使えないなんて問題よ。

 隆久なら遅れてるわ、用事があるんだって。

 まぁ、今日は必ず来るって言ってたから大丈夫よ」


「あの人っていっつも用事用事って休むよな。

 ほんとにそんなに忙しいのかね。

 仮にも一介の高校3年生だぜ?ありえねー」


「ちょっと、佑介・・」


そんな言い方しちゃダメだよ、

と智香が続けようとすると佑介は強引に肩をつかまれた。

佑介が振り向くとそこには大柄な男の人・・

2年で唯一の生徒会メンバーである高橋学だった。


「持田、生徒会長からのスカウト受けて

 自分が特別待遇かなにかだとでも?

 だとしたら、それは大きな勘違いだ。

 持田は生徒会のメンバーにしかすぎない。

 よって、トップのことを悪く言うのは良くない。

 それに事実、生徒会長は忙しい。

 1年である持田にそれを知るのは難しいだろうが・・」


「わかったよ、うっせーな」


触るな、と佑介は高橋先輩の手をどける。


智香は高橋先輩の言葉で

佑介も吉川先輩を通じて阿部先輩からスカウトを受けたのを知った。


「でも、あれだろ。

 どーせ今日も部活動対抗リレーの話だろ?

 最近の話題もっぱらソレだもんな。

 生徒会が金に汚いってどうなんだ」


佑介の言葉に高橋先輩が眉をひそめる。

また怒られるんじゃないか、と智香はヒヤヒヤしたが

それは避けられた。なぜなら・・



「活動資金って言ってよ」



その言葉に4人が一斉に振り向く。

それは入学式で1回しか見たことないが

吉川隆久・・生徒会長だった。


突然の登場に4人は押し黙る。

吉川先輩は続ける。


「活動資金は大切だよ。

 今後の部がどうなるか決まるからね。

 それに生徒会の方針次第で生徒の学園生活が

 どうなるかも決まってくる。そうだろう?

 だから俺たちは100%勝たなきゃいけない」


「生徒会がそんなにエラいわけ?」


佑介が噛みつく。

高橋先輩が何か言おうとしたが

それを吉川先輩が制した。


「エラいかどうかは分かんないけど

 生徒会が学校の中心組織であることには変わりないよ。

 それに、生徒会が負けるなんて醜態晒したら

 一般生徒に面目ないだろう?」


「・・去年、負けたって聞いたぜ。

 それも発足して1年足らずの化学部にな。

 醜態晒しまくりじゃねーか」


「おい、持田!

 何も知らないくせにそんなこと言うな。

 あいつら化学部はな・・っ!!」


「ちょっと学は黙って。

 そうだよ、去年負けたのは事実だ。

 でも、その借りは必ず返してみせる」


「そうよ、恩知らずの化学部に目に物見せなきゃ。

 それに隆久が手を回したおかげで

 生徒会の勝利は確実よ」


阿部先輩が智香を見る。

智香の県大会2位の実績を知ってる佑介は笑う。


「確かに今年は勝てるんじゃない?

 でも汚いね、生徒会は」


「汚くて結構だよ。

 これで成海の悔しがってる顔が見れるならね」


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