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活動費


図書館でスポーツに関連する図書を探していた。

こんなもので足が速くなれるとは想像しがたい。

というか、千尋がどれだけすごいのかは知らないが

相手は県大会2位の実力者だ。

そういえば、智香は推薦入学の筈だ。

だから頭の方は正直よろしくない。

それであんな馬鹿みたいな理由にもホイホイ乗って生徒会に・・

香織は頭が痛くなった。そんな相手に勝てるのか、と。


「あら、こんなとこで会うなんて偶然ね」


その言葉は香織に向けられていた。

相手は知らない女の人。多分、3年生だろう。

どうせ、化学部だから・・。

部活に入って香織は智香や隆久などいろいろ声を掛けられるようになった。


「あなたは?」


「阿部さゆり。よろしくね」


「・・はぁ」


「隆久には聞いてたけどほんと普通の子なのね。

 成海の秘蔵っ子っていうくらいだからどんな子かと思ったけど」


「生徒会の方ですか?」


「そうよ、3年生の副生徒会長。

 部活動対抗リレーそちらは苦戦してるみたいね」


「ずるいですよ、陸上部入れるなんて・・」


「たまたま生徒会に入った子が兼部で陸上部にも所属していた。

 ただそれだけの話なんだけど。ずるいとは人聞きが悪いわ」


よくも抜け抜けと、誘ったくせに。

なんか感じの悪い人だ。


「成海くん、どうするのかしらね。

 彼、すごく困ってるんじゃないかしら」


「・・ですね」


「せいぜい、おバカな猿の力にでも頼ることね」


「それって、藤本先輩のことで・・」


「おい、てめ-

 どういうつもりだコラ」


振り返ると千尋がいた。

なんだこの人、もしかしてつけてきてんのか?

よくいつもいつも都合の良いタイミングで現れるものだ。

怪訝そうな香織に気付いたのか罰が悪そうに千尋は言った。


「俺の行くとこにお前がたまたまいんだよ」


「噂をすれば何とやらね。

 今年の優勝は我ら生徒会のものよ」


「勝手なこと言ってんなよ、

 まだ分かんねーだろ」


「やだ、冗談は見た目だけにしてよね。

 ほんとに頭の悪い猿みたいよ」


「・・やんのかっ!」


千尋の頭に血が昇ったのが分かる。

慌てて香織が間に入るが

その様子見てさゆりは余裕たっぷりの笑みを浮かべた。


「せいぜい、仲良く頑張りなさい」


そう言い残すと図書館から出て行った。





「そうか、県大会2位か。

 それはヤバいな、すごく」


「私、すごく足が遅くて・・。

 あの、阿部先輩の言うとおり無理なんじゃ」


「それ以上は言うな。

 先輩も何か考えてるはずだ。

 あの性悪女の言うとおりにはなんねー」


口では強がっているが

化学部は圧倒的に不利なのに変わりない。

リレーの走者の順番でどうこうなる問題ではない。

千尋もすごく不安なのだろう。

頭を抱え込むように座っている。


「ちなみに、どんだけ遅いんだお前」


「50メートル走、10秒くらいです」


愕然としたような顔になる。

当たり前だ、下手すりゃ小学生の方が早い。

罵倒される、と思ったが意外にも千尋は優しくこう言った。


「リレーのバトンの受け渡しくらいはスムーズになるように練習しよう」






それから放課後は

毎日のようにリレーの練習に明け暮れた。


余裕からなのか

それとも単純に好意なのか智香もいろいろとアドバイスくれた。


最初はバトンを受け取るとき上手く取れず

何回も地面に落として千尋に怒鳴られたが

今では3回に1回の割合で成功するようにもなった。


走りのタイムも少しではあるが

千尋との特訓のおかげで速くなった。


そうして

あっという間に5月が終り6月を迎える。






「よし、マシになったんじゃねえか」


すっかり放課後にリレー練習するということが習慣になり

怖い千尋とも少し打ち解けて親しくなってきたころだった。

その日の練習で1度も香織はバトンを落とさなかった。


「はい、ありがとうございます。

 でもあれから依田先輩から連絡ないですね。

 諦めてしまったんでしょうか」


「馬鹿野郎、先輩は諦めてねーよ。

 ああ見えてすんごく貪欲だ、吉川と同じくらいにな。

 金の亡者と言っても過言ではない」


「活動費ってそんなに大切ですか?」


「あ、あーまぁな。

 お金はいくらあっても邪魔にはなんねーだろ」


歯切れが悪い。それに引っかかる。

ここまで化学部は活動という活動をしてない。

どこに活動費が必要なのか分からない。

それはやっぱり化学部が何らかの・・。

香織は思いきって聞くことにした。


「あの、藤本先輩」


「なんだ」


「化学部ってなんなんですか?」


「あ?化学部は化学部だろうが。バカか」


「あらぬ噂しか聞きません」


千尋はちょっと困ったように虚空を見つめたが

すぐに香織に向き直るとわしわしと頭を撫でた。


「気にしなくていいよ。

 どうせ俺がいるから変な風に見られてんだ。

 俺ってどう考えても化学部なんて面じゃねーだろ。

 至ってどこにでもある普通の化学部だよ。

 みんなが面白がっていろいろ言ってるだけだ」


「・・はい」


そんな寂しいことを言われると何も言えない。

素直に頷くことしか出来なかった。

そのとき千尋の携帯の着信音が鳴り響いた。


「おい、先輩からだ。集合だってよ」




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