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封筒


それはもう憎らしいほどに晴天だった。

この日に体育祭をしなかったらいつやるの?と思う程の。

香織は天気とは裏腹な思いを抱いて登校した。


体育祭の準備は主に運動部が取り仕切っており

香織が着いたころには準備万端だった。

唯一、文化系の部活で準備を行っている生徒会の面々とも遭遇する。

ちなみに智香は陸上部の方をしているのでいなかったが、

隆久が「よっ、良い天気になったね」と挨拶してくれ

さゆりが「今日はせいぜい情けない面を拝ませてもらうわ!」を息を巻き

佑介が昨日のことは何もなかったように知らんぷりを決め込んでいた。

あとなんか面識のない体格の良い人は、智香の話に出てくる2年生だろうか。


高校生初めての体育祭はさすが私立だけあって

公立中学の冴えないものとは一味も二味も違っていて

運動が苦手でこういうのに積極的でない香織にとってもワクワクさせるものだった。


あと、香織がしなければいけないのは2つ。

リレーを全うすることと、そのリレーの前に陸上部部長の丸山先輩に封筒を渡すこと。

とりあえずヘマだけはしまい、と心に強く誓う。






『プログムナンバー12番、3年生100メートル走』


その案内放送が鳴ったのは昼食を食べてから1時間くらい経過したころだった。

覚悟は決めていたがドキッとする。次のプログラムは部活動対抗リレー文系部活の部だ。

慌てて封筒の存在を確認して陸上部部長の丸山さんを探しに立ちあがる。

智香に「どこ行くのよ?」と声を掛けられる。

一瞬、智香に居場所の見当を聞こうかと思うけど止めた。

もし、あとで自分の渡した封筒が原因だと考えれば智香は落ち込むだろう。

そんな思いはさせたくないし、させるつもりもない。

「何でもない」と言うとそそくさと離れた。


「香織ちゃん」


声を掛けられる。

聞き覚えのあるその声は隆久だった。


「吉川先輩」


「偶然だね、こんなとこで会うなんて。

 俺ってけっこう会えないことで有名なんだけど

 この前も含め、偶然2回も会っちゃうてすごいわ。

 香織ちゃん何か持ってんじゃない?運かなにか」


「そうですかね・・。あのすみません、急いでるんで」


「へぇ、どこに?」


「・・トイレです」


「そっかそっか、場所分かる?連れてってあげようか」


「分かります、大丈夫です。ありがとうございます」


「そんな遠慮しないで?一飯の恩もあるわけだし」


「一飯?」


「そそ、パン奢ってもらったじゃん」


「あぁ、そんな気になさらないでください」


「いいじゃん、送るよトイレまで。

 それとも別のお礼がいいかな?例えば化学部が出来た理由・・とか」


「え?」


「どーせ、成海のことだから『正式な部員になってから』とかなんとか言って

 今日の今まで適当に流されてきたんでしょ?あいついいそうじゃないもん。

 それで、成海の言わないことは千尋くんも言わないからねー、従順キャラじゃん。

 聞きたいんじゃないの?自分の所属してる部活だもんね。気になるよね」


気になる、すごく気になる。

是非ともすぐにでも教えてほしい情報だ。

でも、今は時間がない。横目でトラック内を確認すると

もう4分の1は終わってるように見える。急がないといけない。

陸上部部長の丸山先輩がどこにいるかも探さないといけないのに。


「あの、出来ればまたの機会に・・」


「ツレないね、香織ちゃん。

 さっきも言ったけど俺はなかなか会わない人物だよ?

 ラッキーパーソンだよ?この機械逃したらないよ。

 それとも生徒会だから俺のこと嫌いとか?」


「いえ、そういうわけでは」


「ならいいじゃーん、どうせトイレって嘘でしょ。

 さっきからそんな素振り全然ないし」


「・・それは、あの」


「いいよいいよ、香織ちゃんには恩があるしね。

 いつかは返さなきゃなーと思ってたんだ。

 俺の為でもあるよ、これは。ね、お願い」


「・・・」


どうしよう、半分くらいはもう走り終わってる。

次は部活動対抗リレーなのに。間に合わない。

ていうか、今日に限ってなんでこんなしつこい絡み方するのよ。


香織は内心パニックになってた。

成海の恐い笑みが浮かぶ。失敗なんて許されない。


「生徒会長じゃないですか、ちわっす」


香織の前に金色の髪の毛がなびく。

よく見知った金髪だ。ていうか学校内に1人だ。

隆久の顔が歪むのが分かる。


「・・千尋くんじゃん。

 ヒロインのピンチにヒーロー登場ってとこ?」


「どうですかね、・・まぁ。

 生徒会長が悪の親玉っていうのは間違いないと思いますけど」


「人聞き悪いなぁ、それってどういうこと?」


「どうせ、コイツのこと足止めして計画パーにしようとか企んでるんでしょ」


「わー、バレちゃってるわ」


「ふん、あっさり認めるんすね。

 ・・ほら、何やってんだよ。丸山はさっき第2テントにいた」


「え、あの藤本先輩」


「早く!先輩に殺されてぇのか。ダッシュしろ」


その言葉で香織は我に返る。

そうだ、早くしないと作戦が全部無駄になる!

千尋と隆久をそのままにして走り出した。


「んで、どっからバレたんすかね」


「いやいや、成海のことだから作戦するなら

 目立たない香織ちゃん選ぶだろうなぁ、てさ。

 だから今日はずっと香織ちゃんの監視だよ、俺。

 ようやく動いたのがさっきって話。分かりやすいね、彼女」


「良くも悪くも先輩のことは良く知ってるんすね」


「嫌な言い方だな、千尋くん。

 俺、仮にも君の【元】先輩なのにな」


「俺の先輩は2人だけっす。

 つか、その話アイツにしたんすか?」


「香織ちゃん?・・安心して、言ってないよ」


「そう、ならいいんすけどね」


もう用はないと言わんばかりに千尋は背を向けた。

隆久も特に引きとめるような真似もしない。


「上手くやれよ、あの馬鹿」


少し頼りない同じ部活の彼女のことを思い小さくそう呟いた。






「え、これを僕に?」


「そうです、丸山先輩に」


陸上部部長の丸山先輩はすぐに見つかり

香織も余裕がないので直ぐに封筒を差し出す。


「困ったなぁ、僕には彼女がいて。

 ラブレターとか貰うのはマズイっていうか。

 いや、もちろん気持ちはすごく嬉しいんだけど!」


「いや、多分ラブレターとかでは・・」


「え、じゃあ何なんだよー」


そう言って封筒の封を切る。

もちろんだが香織も中身は知らない。

だが、丸山の顔色がみるみる青くなる。

そして次は赤くなる。忙しい人だ。


「これは、君が・・?」


「違います、急に男の人が渡してきて。

 これを丸山にって言ってきてですね・・」


ちゃんと指示通りの用意された回答をする。

丸山の顔がどんどん赤さを増す。これは怒ってるのだ。

そして香織を置いて掛け出した。


さすが陸上部部長と言えばいいのかすごく足が早くて

みるみるうちのその背中は見えなくなってしまった。

果たして彼はどこに向かったのか?そしてあの封筒には何が?


疑問を抱えて見えなくなったあともその背中の行方を想像してると声を掛けられた。


「任務お疲れ様、香織ちゃん」


「あ、依田先輩」


「なんか途中邪魔が入ったみたいだね、千尋から聞いた。

 でも良かったよ、無事に終わってくれたみたいで」


「あの、あの封筒の中身って何だったんですか?」


「あーあれ、聞いちゃう?」


「・・はい」


「あの中には千尋の撮った写真が入ってたの」


「もしかして、公園で撮ったやつ・・」


「そうそう。あのとき一緒にいた女の子はね

 丸山くんの彼女なんだよね。

 いやー、1年も続いてる子だったからさ落とすのには苦労したよ。

 こう言ってしまうと傲慢かもしれないけど俺は役者になれそうだ」


「え、それってどういう・・」


「丸山くん、彼女が浮気してたとなると落ち着いてリレーなんか参加出来るかな?」


満面の笑みだ。曇りのない純真な笑みだ。

その表情に香織は凍りついた。


「・・男が依田先輩ってバレるとヤバいんじゃ」


「彼女の顔だけ見えて、尚且つ俺の顔は見えないアングル選んだ。

 それに彼女も浮気を問い詰められて素直に相手が俺なんて吐かないよ。

 女の子の特技って言い訳って聞いたことあるんだよね」


「もしそれで別れちゃったリなんかしたら・・?」


「それだけの愛ってことだよね!ねぇ、そう思わない?」


ずるい、例の疑問と見せかけての強制のやつだ。

この人はハナから私たちに言わなかったのは

周囲にバレないのもあるだろうと思うが、私たちが反対出来ないように・・。

なんて腹黒い!なんてエグい!なんて非道なんだろう!

香織は自分の先輩が悪魔であることに今さらながら愕然とした。






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