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4月は学生にとって

進学・進級というイベントがある。


桃地香織もその1人であり

人見知りの塊である彼女にとって、それは前途多難なものでしかなかった。


高校生となり地元を離れた高校に来た香織に

新しく与えられたクラスに当然の如く見知った顔は1つとしておらず

栄えある初日は誰とも口を聞けなかった。


これから先の思いやられるスタートを切った香織は

鬱々とした気持ちを抱え校内をぶらついていた。


部活に入ればこの状況を打破出来るとも思えたが

香織に運動や音楽などの才能は皆無で自信もなく

そんな選択肢も簡単に消え去る。


ふと足元に小石が見えた。何気なく蹴り上げる。

鬱憤を晴らすためだった。その行為に意味はない。


「って!」


顔を上げる。

目の前には柄の悪い男子がいた。

頭は日本人では有り得ない金髪で

耳にはピアスホールがちらりと見える。

どちらも校則で禁止のはずだ。


そして、眼つきは鋭く明らかに怒っていた。


香織は恐怖で震えた。

小石が彼に当たってしまったのだ

謝罪を試みようとするが口が上手く動かない。


「どういうつもりだ、地味女」


じりじりと距離を詰められる。

出てくるのは嗚咽のような声で言葉にはならない。


「てめーの蹴った石が俺に当たった。

 つまり、俺はお前に慰謝料を要求する資格がある」


そう言って彼は香織の腕をつかみ強引に歩き出した。




着いた場所は第一化学室。


そこに着くと彼は香織から手を離し

「ほら、入れ」と扉を開けた。


言われるがまま従う。

それ以外に選択肢があるとは思えなかった。


「先輩、入部希望者っす」


彼は声を上げる。

香織にその言葉の意味は理解出来ない。

ニュウブキボウシャ、それは異国の言語に聞こえた。


奥から「先輩」と呼ばれた男が出て来た。

黒い髪と白い肌が対極で吸い込まれるような大きい瞳が印象的だった。

端整な顔立ちは賢そうだ、と感じさせる。


先輩は香織の顔をジロジロと遠慮なく観察する。

ややあって口を開き香織に尋ねた。


「ここが何部か知ってる?」


私は首をブンブンと横に振る。

それを見て彼が舌打ちをした。


先輩は微笑んだ。

それはすごく美しくて絵になるような微笑みだったが

そこに温かみはなく、逆に冷たく感じた。


つまり、すごく怖い笑顔だった。

横目で彼の額から冷や汗が落ちるのが確認出来た。




「ごめんね、怖い思いをさせて」


それから

彼が先輩に呼び出され

化学室の奥で何があったかなんて

それはもう香織の想像には出来なかった。


鈍い音と彼の悲鳴が

香織に想像する、という行為をさせなかった。


「僕は、依田成海です。あなたは?」


「桃地香織、です」


「ほら、千尋も挨拶して」


そう促された彼はしかめっ面で涙を浮かべていた。


「俺は、藤本千尋だ」


「という訳で僕と千尋はここで部活をしていているんだ」


「化学室だから、化学部とかですか?」


そう聞くと成海は優しく笑った。


「・・・表向きはね」


「え?」


「ところで、香織ちゃんは知ってるかな。

 校則で学校の部活動の活動は3人からが厳守。

 つまり、最低3人はいないと部活動としての

 活動を許されないっていう訳だ。

 僕達の部活は先代の部長が引退なされて僕と千尋の2人きりだ。

 これ、どういうことか分かるよね?

 だから、千尋が難癖つけて香織ちゃんを

 強引に入部させようとしたことは悪いことだけど

 僕達はそれだけ切羽詰まってるんだよ」


成海は、これ以上ない優しい声で香織に問う。


「ねぇ、入部する気はない?」


ずるい。

それは慰謝料、として要求してきた千尋より

性質の悪い悪質なものだと感じた。

成海は強制はしておらずあくまで香織を勧誘している。

だが、その言葉は有無を言わせない力を含んでいた。


地味でいいから平和を臨んでいた高校生活は

初日にして幕を閉じることになる。


「あの、入部します」


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