第四話 商人が現れた!
冒険者の集うギルドから離れて、辿りついたのは武器屋。
硬い骨を砕くメイス。肉を切り裂く大剣。
魔物の爪を通さない鎧に、ドラゴンの息を防ぐ盾など。
うたい文句を飾っているがとんでもない。我が配下の魔物はこんなちゃちなものなど粉砕することが出来るのだぞ!
…だが、憎き勇者に全滅させられたがな。
無い拳を握りしめるようにプルプルと体を震わせながら武器屋の床下を物色していく。何故かって…?
盗むためだよ!
ふわはははははは!魔物を倒すために作られた物で倒される人間たち!考えただけで笑いが止まらないわ!
『ぴぐっふ、ぴぐっふ』
「…ん?ネズミでもいるのか?」
しまった?!思わず、高笑いをしようとして息を吸い込んだら咳き込んでしまった。
そう、後悔した次の瞬間!
どんっと音を立てて、床板を貫き、鉄の槍の矛先が俺の目の前に現れた!
「…外したか。もう一度!」
丸々と太った風体の『商人』はもう一度鉄の槍を振りかぶり、床を貫く。
一分後。
床板を取り外して様子を見た『商人』。そこには真ん中に穴が開いた一つの段ボールがあったそうだ。
あああああっ、俺の…、俺の紙箱ぉおおおお!
お前の死は無駄にはしないぞぉおおおお!
たった一日とはいえ、スライムになって初めての装備品。
とても愛着があったのに、その無残な姿をただただ見送ることしか出来ないスライムな自分が恨めしかった。
『商人』に回収されていく紙箱。
それを見ているだけしか出来ない。せめて敵を討つために深夜誰もが寝静まった店内に侵入した虹色スライム。
ここで自分が使えそうなものを盗んでいこうという魂胆だったのだが、更にショッキングな光景を目にした。
とある魔族の鎧。50ゴールド。
それはボロボロになって、触れば今にでも崩れ落ちそうになるまで老朽化した以前の自分が着込んでいた鎧。
・・・剥ぎ取った上に、売り払ったんかい勇者。
その時の虹色スライムの背中はとてもさみしいものを感じさせた。
虹色スライムは紙箱を失った。