第二話 僧侶が現れた!
虹スライム(元魔王)の受難は続く。
ここは孤児院です。
と、書かれた看板がある目の前に建っていた。
『ぴ、ぴきぃいいいいいっ!』
つ、ついたどぉおおお!
あの洞窟から何とか逃げ出すことに成功した俺は、誰もを惹きつけるキラキラボディーを輝かせながら人目につかないようにすぐに茂みに身を隠しながら土を掘って、自ら埋まり、人目から逃れていた夜になってから行動を開始した。
スライムの特性。自働回復?だったか?
それで完全回復した俺は闇夜に紛れてとうとう目的の施設にやって来れた。
目指すは孤児院と言う力無き物をほとんど無条件で親のいない生き物の世話をするという施設。
そこは一人で生きていくまでに『僧侶』や『神父』といった神に従事する者達が慈善事業とやらで子ども達を養っているらしい。
「あれ?シスターっ、なんかぼろぼろなスライムがいるー!」
「えっ?!この森には聖水を撒いているから魔物なんて立ち寄ってくるはずがないのに?!」
ふははは。確かに聖水と言うアイテムは自分に害意を持つ魔物。害になる魔物を遠ざける効果がある。
だが、今の俺は地上最弱の虹スライム!
誰かの保護を受けないとすぐに狩られて死んでしまう!今から世話になろうとしている場所に害を与えようなど思うはずがない!
そして、この低スペックの体で害を与えようと思って行動しても害を与えることなんてできない!
何故ならプニプニボディだから!
…絶対に魔王にふさわしい強さを取り戻してやる!!
立て看板の前で鳴いていた俺を、耳の長い子ども(おそらく犬の獣人と呼ばれる)が見つけて孤児院に務めている『僧侶』を呼ぶ。
獣人とは獣の耳や尻尾を持っている種族であって、決して魔物ではない。あくまで人間に分類される種族だ。
「すぐに離れて!スライムとはいえ魔物には違いないんだから!」
「でもシスター。このスライムボロボロだよ?ヒールしてあげたら?」
『僧侶』とは神に仕えるという身である為か、その奉仕の心。慈悲の力で『神』という存在から力を分け与えられ、ヒールといった回復魔法が使える。特殊な職業だ。
その為、時には敵でもある魔物の怪我を手当てし、襲われるという間抜けもいるらしい。
『…ぴきぃっ』
くくく、子どもとは無垢なものよなぁ…。
まあ、同情を誘う為に弱っているふりをして同情を誘い、英気を養い、人目を避けてレベルアップを行い、俺が再び世界を混沌に導こうと考えているなど夢にも思うまい。
そして『僧侶』よ、小さな子供がいる前で弱った生き物を傷つけるなどできまい!
「もしかして…。このスライム。あの、噂の虹色スライム?もう狩られたのかと思ったのに。…今まで必死に逃げてきたのね。こんなにボロボロになるまで…」
「シスター?ヒールかけてあげてよ?」
服と頭の上にある帽子に十字架のマークを刻んだ服を着た母性溢れる『僧侶』は、そのマークに沿うように目の前で十字をきる。
「おお…。神よ。この心優しい少年に祝福を、卑しい事を考えてしまった私をお許しください…」
おお、いいペースだ。
『僧侶』はこのまま子供に流されて俺の面倒を見るだろう。
「…神よ、この出会いに感謝します」
そう言いながら子供の手を取り、こちらにその飢えた獣のような目つきで子供の手を取る。
…獣のような目?
「我等に糧を与えてくれたことを…」
糧?
心の優しい少年。
E:「どくばり」。
『僧侶』
E:「どくばり」
?!
『ぴきぃいいいいいっ?!』
とんだ邪神がいたものだ!
虹スライムは再び逃げ出した。
「どくばり」。
某スライムさんを殺すときに重宝するアレです。