第一話 戦士が現れた!
「…見事だ、勇者よ…。だが、しかし、人の欲望が消えないように我も滅びることはない!我は、何度でも蘇る!ぐぅああああああ!」
なんて言っていた時期も自分にもありました。
今の自分じゃ『ぴっ』『ぴぎっ』としか言えなくなってしまった。
前回に引き続きとある洞窟で、一匹のスライムは一人の人間に追い詰められていた。
「くくく。追い詰めたぜ虹色スライム…。デマかと思えば本当にいたなんてなぁ」
目の前にいるのは明らかに殺傷目的にしたトゲトゲハンマーを持った大柄のひげ男。
職業:戦士。主に前線でモンスターを物理攻撃で倒すのがお仕事の人です。
魔法は使えないけど、そのはちきれんばかりの筋肉を用いた武器で目標を撲殺。
攻撃目標:虹色スライム(元魔王)。つまり俺!
消えることのない欲望のように消えることなく復活した俺の目の前に、どう説得しても消えることのない欲望で俺を消そうとしている『戦士』。
「いっぱしの『戦士』の俺でも、お前を狩ればレベルは格段と上がって俺は重戦士。…いや、『武将』になれるかもなぁ」
ちなみに『武将』とは戦士系最上級のクラスの一つ。武将の他に『将軍』がある。この二つは基本的に同じだが、武将は単体で強力な戦闘を行うことが出来る。将軍は武将よりも少し戦闘能力が落ちるが『指揮』という特殊能力があり、仲間全体の連携・士気を上げることが出来る。
『ぴ、ぴきぃ…』
「…レベルアップ。…レアアイテム。…金。…名誉。…女。…騎士のあんちくしょうを顎で使うことだって…」
どちらかといえば『戦士』じゃなくて『盗賊』、『強盗』が妥当だと思う。
だって目がギラギラしているもの!
マンガ肉を目の前にした腹ペコドラゴンみたいにギラギラしているもの!
「俺の欲望の為に死ねェ!」
『ぴぃいいいいっ!』
俺の欲望のためにとか言ったよこいつ!
悪魔のような顔して、天使のように純粋だね!自分の欲望にっ!
だが、こっちの賢さ500は伊達じゃない!
そのハンマーは確かに攻撃力が高い。だが、その攻撃範囲は鉄塊部分だけであり、物凄く狭い。
「く、このおっ!?いい加減当たりやがれ!」
更に素早さ120も手伝ってくれたのか、ひらりひらりと相手の攻撃を躱す。
『ぴきぃっ!』
そして、息が上がって動きが乱れた『戦士』の隙をついて体当たりを繰り出す。
ここからは俺のターンだぜ!
虹色スライムの攻撃!
どがっ。
『ぴぐぅっ?!』
虹色スライムに1のダメージ!
俺はターンエンド!
…ちょっと待って?
なんで攻撃したほうがダメージ受けてんの?
見ればこの『戦士』。トゲトゲアーマーなる鉄の鎧をつけていた。
なるほど、運悪くそのトゲにぶつかったわけですな…。
運の良さ1は伊達じゃねえな!(やけくそ気味で)
「ちくしょう…。うろちょろしやがって…ぜってぇに仕留めてやる!」
息の荒い『戦士』はまだまだ動けるようだ。
今、こいつに背中を見せて逃げ出せばハンマーを投げつけられて狩られる!
導き出せ俺の賢さ500!俺の生き残る術を!
―相手のスタミナが尽きるまで避け続ける。注意点:こっちからの攻撃はしない。回避に専念―
ちくしょぉおおおおおお!
魔王の俺が逃げに徹するのか!相手の暴力を躱すことしか出来ないのか!
覚えていろ勇者ぁああああ!精霊ぃいいいい!(※ただの逆恨みです)
『ぴきぃいいいいいい!!』
それから30分後。多くの冒険者がもぐりこんだ洞窟から七色に光る小さな何かが飛び出したという。
だがそれは、その物体よりも、その物体から零れ落ちている物。まるで涙を流しているようだったと目撃者は語った。