序章:魔王は逃げられない
とある暗い洞窟の中で煌めく閃光。
それは炎や雷。氷といったいわゆる魔法と呼ばれた超常現象が引き起こす光だった。
「そっちにいったぞぉおおお!」
「そこか!」
「正面!もらったぁっ!」
『ぴきぃいいいいいっ!?』
ぬぅおああああ!?やめろ、お前等!
俺は男に追いかけられる趣味は無い!
「そっちか!グラビティ!」
「グラウンドバイパー!」
その光の中には辺り一帯の小さな物を吸い込む黒い球を生み出す物や、地面からまるで鱗が土で出来たかのような蛇が生えてきて一点を狙う。
『ぴぃいいいい?!』
だからと言って自分の命を狙う女性たちに追われたくもない。
ぎゃあああ?!体が、体が吸い込まれ…、ぎゃあああ、かすった!土の蛇の牙がかすったぁあああ!
だが、仕方ない。今の自分の体を見ると誰もが追いかけたくなる。
一見すると銀色の艶々ボディ。だが、見る角度を変えると金や翡翠。ルビーのような紅へと色も変わる。
世界ではとても珍しい『虹スライム』という魔物らしい。
四つ同じ種類の存在が揃うと消えてしまうという類似品に注意という取説が付きそうな一頭身。
スライムです。しかもメタル感がこれでもか、というくらいにテカテカです。
ゲーム序盤では勇者たちにレベル上げと言う名の乱獲で絶滅の心配がされる魔物です。
「ゆっくりしていってね」なんて言えない。命が狙われている身としては何が何でも逃げ出さなければならない。ハリー、ハリー、ハリィイイイイイ!!
「ウイングスラッシュ!くそうっ、いい加減捕まれ!」
『ぴいっ、ぴぴぃいいいい!!』
捕まってたまるかぁああああ!て、ぎゃああああ!剣から真空波出た!真空波!
さっきまで隠れていた巨大な岩がまるでスイカのように真っ二つになった。
ただのメタルなスライム。ならよかったんだが…。
「絶対に逃がさないわよ!虹スライムゥウウウウ!!」
『ぴぃっ、ぴぎぎぃいいいい!』
絶対に逃げさせてもらいます!
実は俺。世界に一匹しかいない極レアなスライムらしい。そして、なぜ彼等がこんなになってまで俺を追いかけるのかと言うと…。
俺が元大魔王だから!という訳ではなく…。
あ、いや、魔王だったのは間違いないよ。
皆が俺を狙うのは俺のステータスなんだ。
虹スライム。レベル3.
体力3/5 先程の攻撃がかすったので減っている。
魔力20/20
物理攻撃力3
物理防御力1
物理回避率10
魔力攻撃力5
魔法防御力7
素早さ120
賢さ500
運の良さ1
見たまえ、驚くべき知能の高さ!驚いただろう我が潜在能力…の低さ。
元魔王の面影がすこしだけ素早さに、そして膨大な知性。だが、それ以外に吹き飛んでいる!てか、運がなさ過ぎる!と、最初は自分でもそう思ったさ。だけど…。他にもちゃんと引き継いでいるものはある。それがこれだ。
使える魔法。
ビックバン!巨大な爆発する球を敵に向かって投げつけて、触れると爆発し、大ダメージを与える。
デザートフォール!大量の砂を相手の頭上に落とす。その砂は相手の体液を吸い取り、ミイラにする。
ビッグウェーブ!激流ともいる大波が相手を呑みこみ。砕き、溺れさせる。
これらのどれかを一つを使えればこの場を脱することが出来るのだが、そのどれもが消費する魔力が500以上!
つまり使えない。
貧弱ボディで魔王な魔法は知ってはいても使えないのだ!
ここまでくれば倒すどころか哀れみを感じて見逃しそうになる。が、問題は彼の最後のステータス。
虹色スライム撃破時に得る経験値99999999。つまり1億-1。
取得ゴールド。0。無一文だからね!
取得アイテム虹色魔水晶。奪わないでね俺の心臓!
ちなみに俺の心臓を加工して武器にすると伝説クラスの剣。防具にしても同じ。
アクセサリーにすれば全ステータス大幅アップ。
そのまま売っても親子三代遊んで暮らせる金が手に入る。
つまり俺は生きた宝石なのだ!
狩ればラスボスクラスの経験値を簡単に得ることが出来るし、レアなアイテムの材料も手に入る。ビギナーからプロフェッショナルまで誰もが俺の事を狙っているのだ!
「そこだ!アイスランス!」
『ぴっ』
あぶねえぇえええ!つららを投げるな!つららを!
お、おのれぇえええ。勇者め、勇者に力を貸した精霊めぇえええ!
我が力を取り戻したその時、貴様等に復讐してやるからな!
虹スライム(元魔王)は逃げ出した。
しかし、そこは洞窟の最奥。行き止まりだった。虹スライムは逃げられない。
『ぴきぃいいいいいいい!!』
ちくしょおおおおおお!!
数百年前、勇者と大陸すらも揺るがすほどの激闘を繰り広げた魔王。彼は今、勇者に力を貸していた精霊の力で『世界で一番狙われる存在』になって復活した。
精霊の意図はわからない。だが、元魔王な虹スライム。彼は今、復活して三日もしないうちに命の危機に見舞わられていた。