第一話
澄んだ青が空いっぱいに広がる。
散った桜の花びらでできた絨毯の上を歩きながら杵嶋樹葵は周りを見渡した。
3週間ぶりの再会に声を弾ませる生徒たち。
新しい何かが始まる予感がするーとか言ってる奴がいたな・・・
絶好の恋日よりってやつか・・・
***
「桜が舞う季節だね。」
樹葵は始業式に参加するため講堂へ向かっていた。この廊下を歩くのも今日で2年目、相変わらずチリひとつない。そして声の主は桐生夏奏。樹葵の幼馴染できっと誰よりも長い時間を共に過ごしている。数少ない理解者でもある。
「始業式参加するのか。」
「もちろんだよ。はじめが肝心だろ?」
「よく言うな、出席日数足りなくて留年しそうだった奴が。」
「失礼なっ!今年は気をつけるよ。ちゃんと数えておく。」
「ったく、嫌味なやつだな。」
はぁ・・・と親友に向かってため息をこぼした。
彼らが通うのは、私立桜丘高校。生徒数と敷地面積が無駄に巨大なマンモス校だ。生徒数は500を超え、建物が多いし何に使うのか謎な施設もかなりある。そして、もう一つの特徴は、この学校には世間から“I-アイ-”と呼ばれる生徒が多く在籍していることだった。“I-アイ-”とは特殊能力保持者の通称。些細な能力から、日常生活では特に使用することのない能力まで、幅広い能力をもった“I-アイ-”がこの学校で過ごしていた。“I-アイ-”の存在が広く認知されている今日、彼らは社会に溶け込んでいる。杵嶋樹葵と桐生夏奏も特殊能力保持者だった。
「なぁ、」
「んー?」
「あの子かわいいくない・・・?」
「え・・・えっ!どの子??どこっ?」
「・・・アリーナ席のさ・・・」
「見えるかっボケェ!!!見えんわ!!!」
「あ」
「くぅ、気になるじゃん!視力分けろこのボゲェ!」
「ボケボケうっせーなぁ、脳みそ分けろ!」
「ムーリー」
「じゃぁ、俺もだ。残念だったな。」
一見普通の男子高校生の会話だが、2人が見ている世界は周りと少し違っていた。
樹葵の能力は超視力。その名のとおり、どんな距離でも見えるし、明るさも関係ない。動いていようが、静止してようが関係ない。視力に特化した“I-アイ-”だ。
一方、夏希はIQ182という頭脳の持つ超知力の“I-アイ-”。何もかも答えが出てくる。考えるということを知らない彼は、生活態度とは裏腹に学年1位の成績の持ち主。生まれながらの天才だった。