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プロローグ
――――ずっと前から好きでした。
何度も紡がれてきただろう、この世界に溢れるほど存在する想い。ありきたりな言葉でくくられた音声データ。技術だけが進歩していくこの世界で、限りなく実物に近く、そこに存在しているような。求め続けた結果、寸分の狂いも無く君はそこにいた。何度聞いただろう、机の上に浮かんでいるホログラムには自分でも疑うほどの再生回数が表示されている。君が僕の前から姿を消してどれくらい経っただろう。未だに君は僕の心を放してくれない。僕の心は囚われたままだ。
「そろそろ返してくれてもいいんじゃないかな。」
口元をほころばせた。
その時、メール通知のウィンドウが開いた。ディスプレイに表示されたキーボードを操作し、再生を停止する。
すると、赤子の鳴き声が室内に響き渡った。手を止め、ベッドへ向かう。抱き上げるが泣き止む気配がない、母親の声を子守唄がわりにしていたのだろうか。
亡き妻への愛と腕に抱く我が子の未来に一筋のしずくが頬をつたった。
外は土砂降りの雨だった。