死神
昔むかし、大きな罪を犯した神様がいました。
人間の娘に恋をし、大神にバレ、目の前で娘は殺されたのです。
娘を殺した大神を許せなかった神様は、殺された娘に似た人間を見つけては喰らっていたのです。
人を殺し続けた神様は人々から『死神』と言われるようになりました。
その娘は、神様と恋に落ちた代償に転生を繰り返すようになりました。
名前も容姿もその時と変わらぬまま、ずっと、ずっと・・・。
過去の記憶は無くとも二人は自然と出会い恋に落ちました。
しかし、大神は納得しませんでした。
死神は大神に呼ばれて永遠に続く仕事を言い渡されました。
それは
『命の灯火が消えそうな人間の魂を漆黒の鎌で狩り、大神に捧げる事』
「!?」
未夜は勢いよく起き上がる。
「っ」
起き上がった瞬間に何かが未夜に襲いかかる。
「やぁお嬢さん」
目の前には未那斗達を襲った男の顔が。
どうやら未夜に馬乗りしているようだ。
身動きが完全に取れない。
「そこをどいて。貴方死神でしょ?私を殺しに来たの?」
未夜は男を睨みつける。
男の顔は守と同じように鼻から上を仮面で隠している。
表情が上手く読み取れない。
唇を見る限りこの状況を楽しんでいるようだ。
「殺す?お嬢さんをか。笑わせないでくれ」
男はゆっくりと未夜から体をどかす。
―――未夜気をつけて。この死神普通じゃない
光里が未夜に囁く。
普通は神でも50年に1度変わるのだ。
しかしこの死神はずっと変わっていないようだ。
罪でも犯したのだろうか。
未夜はゆっくりだが少しずつ距離を取る。
「そんなに警戒しないでくれよ。悲しいじゃないか」
男の声は冷たく響く。
ずっと聞いていたら心まで冷たくなってしまいそうだ。
「そういう事言うわりには全然悲しそうじゃないけど」
未夜は鏡を背につけた。
「さあ行き止まりだ。どうする?」
死神は冷たく笑う。
「行き止まり?私に行き止まりなんか無い」
未夜はニヤリと笑う。
鏡から腕が伸びてくる。
《未夜に触らないで》
光里だ。
未夜を逃がさまいと伸ばされた男の腕を光の力で払い除ける。
「!?」
流石に光里の攻撃は当たると苦しいようだ。
神隠しにあった子は神と同等の力を得る。
昔誰かが言っていた気がする。
「残念だけど私は貴方と結ばれていた人間の娘じゃないわ」
未夜の体が完全に鏡に吸い込まれた。
同時に鏡が粉々に砕けた。
まるで追撃を拒むかのように。
「現世のミヤは今まで以上に面白い」
死神はクククと笑う。
「私も神だ。そう簡単に逃すと思うなよ」
死神は黒い光に包まれ消えた。
《未夜・・・!》
「この声・・・未那斗兄さん?」
どこからか聞き覚えのある心地よい声。
声の主は未那斗だとすぐ分かった。
「どこにいるの!?」
周りを見ても真っ白な景色がずっと続いているだけで人の気配すら感じない。
「コッチ」
「!?」
何かが物凄い力で未夜の腕を引っ張る。
「未影兄さん?」
「久しぶりだね。まったく君は変な奴に良く絡まれるな」
「私だって好きで絡まれてるわけじゃないよ」
「まぁ無事で何より。ほら、未那斗が必死に探している・・・君の居るべき場所にお帰り」
ポンと背中を押される。
「有難う、未影兄さん」
未夜は振り返り笑顔で礼を言う。
その瞬間光に包まれた。
「未影兄さんが未夜を助けるとは」
「なんだ見てたのか」
「私だって未夜の影なんだものどこにでもいるよ」
「まぁ・・・な。それよりどうする?」
「どうするって・・・」
二人は険しい表情で後ろを振り向く。
「ここは意地でも通さないに決まってる」
「ま、僕達二人いれば余裕な相手だ」
二人が見つめる先には死神がいた。
「邪魔をしないでもらおうか」
死神は黒く大きな鎌を構える。
「無理ね。貴方じゃ私達に勝てない」
「大神と同等の力を持った僕達には指一本触れられない」
「!?」
何か強い力が体の中で蠢いている気がした。
「ここ・・・」
見覚えのある風景。
ここは、未那斗の実家。
「未夜!」
「未那斗兄さん!?」
勢いよく扉が開かれたと同時に未那斗が未夜を抱き締める。
「良かった無事で・・・」
息がつまりそうな程強く抱き締められる。
「私は無事だよ・・・それより零さん達は!?」
未夜はなんとか未那斗を引き剥がすと辺りを見渡す。
「母さん達は無事。今は寝室で寝てるよ」
「そう・・・」
未夜は安心した。
「それより厄介なのが出てきたな」
「死神のこと?」
「あぁ。それに唯の死神じゃない」
「どうゆうこと?」
「知らないのか?」
「え・・・?」
未夜は何を?と言う顔をする。
「良いか・・・死神と守は・・・」
「それ以上は言わせられないな」
ベチャリと未夜の顔に生温かい何かが付く。
それはヌルリとしており、鉄臭い。
ソレがなんなのかすぐに理解できた。
未那斗の血。
「まも・・・る・・・」
ドサリと未那斗が倒れる。
「未那斗兄さん!??しっかりして!」
未夜はすぐに止血を行う。
「守・・・貴方は・・・!」
目の前には未那斗の血で汚れた剣を片手に薄気味悪い笑みを浮かべていた。
相変わらず口元しか見えていないが、楽しそうだ。
「俺の正体が知りたいのなら未夜自身が体を張ればいい」
傷口の手当をしていた未夜の腕を引っ張り引き寄せる。
「な!?」
頭を動かないように固定されると、守の顔がゆっくりと近付いてくる。
「だめ・・・だ・・・」
未那斗が掠れた声を出す。
「すぐに・・・離れるんだ・・・」
未那斗の声は届いていない。
「!?」
未夜は守に口づけをされる。
それは愛しいものにするモノではなく、何か儀式みたいなモノだった。
大量の情報が頭の中に直接入り込んできた。
それは、過去。
今まで知りたかったこと。
兄である守の誰も知らない過去。
これを知ったら後戻りは出来ない。
きっと、関係は悪化するであろう。
もしくは関係が前より良くなるかも知れない。
でも、これは未夜にとっては大きすぎる話し。
「兄さ・・・」
未夜は静かに倒れる。