死神に愛される者
それは・・・とても美しく儚く脆い人間の少女でした。
今でも死神は少女を見ています。
生まれ変わっても彼には分かるのです
あの時の娘だと。
『お前を愛してやる。髪の毛の一本残らず・・・な』
顔が良く見えない。
何かが邪魔している。
思い出すなと言わんばかりに段々と暗闇に包まれていく。
「・・・」
未夜は気だるそうに起き上がる。
正確には起き上がろうとしたのだが、何かに掴まれていて動けない。
「うん?」
未夜は左を向く。
「・・・」
隣には幸せそうに寝ている少女がいた。
「未来?」
そこには未那斗と未影の妹である未来がいた。
「う~ん」
少女はゆっくりと目を覚ます。
「あ、未夜起きたの~?」
凄く嬉しそうな顔で未夜を見ている。
「未来・・・なんで此処にいるの?」
「なんでって・・・私の家だから☆」
「あ・・・」
そういえば、G.Wだから未那斗の実家に行く事にしたのだ。
すっかり忘れていた。
「やだぁ忘れてたのぉ?」
「え・・・まあ」
なんでか昨日の記憶が無い。
来ると決めて、それから・・・?
どうやって寝たのかも覚えていない。
「未来!!?」
バンと勢いよく扉が開かれる。
「あ、お兄ちゃん~」
「未那斗兄さん」
肩で息をする未那斗が立っていた。
「何よ?」
「未夜から離れろ」
「いーたーいーっ」
未那斗はズカズカと近寄ってくると、未来の腕を乱暴に掴み、ベッドから引きずり出す。
「み・・・未那斗兄さん?」
未那斗の行動を理解できてない未夜はキョトンとしている。
「未夜、良く見てて?」
「へ?」
瞬間、パジャマの上を思い切り脱がす。
「・・・!?」
未来は腕で胸を隠す。
・・・が、未夜は一つ疑問点を見つける。
胸が無かった?
いや貧乳なのかも知れないが、体のラインが女の子と言うより男の子である。
柔らかみが無い。
「え?」
未夜はゆっくりと口を開く。
「もしかして未来って男?」
未那斗は深い溜息を吐く。
「そう。未来は男。女じゃないよ」
未夜は口をパクパクさせる。
「なんでバラすんだよ?」
「なんでって・・・もう子供じゃ無いんだぞ?」
未来は今年で17歳。
未夜は18歳。
お互いお年頃なわけで。
「うるさいなぁ・・・俺が未夜に手ぇ出したって兄ちゃんには関係ないだろ?」
「手出してる所を黙って見てるなんて僕に出来るわけないだろ」
未来は未那斗に聞こえるよう舌打ちをする。
「・・・」
未夜は未だにポカーンとしている。
「未夜、今まで嘘ついててゴメンね?そうでもしないと、油断させられないと思って」
「ゆ・・・油断?」
「うん。油断させないと未夜ってばガード硬いからなかなか襲えなくてさ~」
ケラケラと笑いながら話す未来を見て未夜は顔を赤くする。
「あ~やっと気付いた?未夜の格好超そそるんだよね~」
未夜の格好は、紳士物の半袖一枚だけだ。
変な座り方をすれば下着が見えてしまう。
「未夜は小さい時からズボンとか履いて寝ないからさ~」
「未来の馬鹿ぁ!!!!!」
未夜は思い切り頬を叩く。
「朝から元気ね~」
「そうだな」
リビングでくつろぐ、零と唯世。
微笑ましそうに聞いていた。
『時が満ちた』
「?」
零が不意に辺りを見渡した。
「どうした?」
「今何か聞こえなかった?」
「・・・いや聞こえなかったが・・・」
『あの時の約束果たして貰うぞ』
二人の目の前に全身真っ黒な男が立っていた。
「キャーーーーーーーーーー!!!!!」
「!!?」
3人が騒いでいると下から零の悲鳴が聞こえる。
「零さん!?」
未夜が最初に部屋から飛び出る。
それに続くように未那斗と未来も飛び出る。
「何・・・これ」
リビングに着くと其処は別世界だった。
ファンタジー物の映画の1シーンのようだ。
部屋中凍りついていた。
部屋の中心には氷の中に閉じ込められた零と唯世が眠っていた。
「零さん!?唯世さん!?」
未夜は氷柱に近づく。
氷に触れてみるが、冷気を感じない。
冷たさも感じなかった。
『会いたかったぞ。我が花嫁よ』
「!?」
急に声が聞こえ振り返る。
「!!?」
底にはこの世と思えないほど美しい男が立っていた。
服装は貴族だとひと目で分かる。
まるでお姫様を守る騎士のようだ。
男を見つめていると、ズキリと頭が痛む。
何か思い出せそうだが思い出せない。
『どうした?我が花嫁よ』
「花嫁・・・?」
未夜は男から距離を取る。
父や母からは婚約者が居るなどの話は一切聞いた事が無かった。
自由に恋愛が出来るよう縁談を断り続けていたらしい。
『覚えていないのか?』
「覚えてないと言われても・・・」
一切面識の無い男が悲しそうに未夜を見つめる。
『この100年間寂しかったぞ?』
「100年間・・・?」
未夜はさらに頭を抱える。
酷い目眩と吐き気に襲われる。
(何か大切な事を忘れている気がする・・・)
未夜はその場で意識を失う。
「これは・・・」
未那斗と未来も到着する。
一面氷。
そして中央には氷漬けにされた父と母。
そして・・・。
「未夜!?」
美しい顔立ちの男にお姫様抱っこをされている未夜を見つける。
『おや・・・。これはこれは』
男は二人を見るや懐かしそうに微笑む。
『此処にも生まれ変わりがいましたか』
「生まれ変わり・・・」
未来が身構える。
『そうですよ。忌み子として生まれてきた貴方達は生まれ変わりなのですよ。先祖の』
男は愛おしそうに未夜を見る。
『彼女とオレは100年前に結ばれるはずだった』
そう言うと男の足元から真っ黒い煙のような何かが現れる。
そして消えた。
「未夜!!!!!」
未来が駆け寄るが遅かった。
「もしかして・・・アレが・・・?」
未夜と男が消えた場所を見つめる。
そこには髑髏マークが見えた。
アレは死神。
前世での約束を果たしに来た、可哀想な死神。
本当に哀れだ。