働きものたち
あたりに散らかるケーブルを入念に払い除けながら、私は少しずつ奥に進んでいた。首に引っかかっては大変なことになるからだ。
「まったく、放置されていた観測機のメンテナンスだなんて」
同行者は憤慨した様子で言った。私はそれを手で制した。
「そのおかげで、我々が働けているのだから」
同行者はあからさまに肩をすくめた。
「きみは少し穏やかすぎるな。もっと、怒ることを覚えたほうがいいぜ」
「そう言われてもなあ」
私は頭を掻いた。昔から、感情を表に出すのが得意ではなかった。
「お、あったあった」
同行者が指をさした先に、観測機が浮かんでいる。幾重にも輪っかが重なって、まるで赤ん坊に見せるための、くるくると回る玩具のようだった。
「しかし惜しいなあ、あとちょっとで50億年ってところまでいったのに」
「仕方がないよ。放っておかれていたのだもの」
「見ていてやればよかったのになあ。まあ、人間の数も減ってきていたし、諦めもあったのかねえ」
私は懐から小石を取り出した。観測機に浮かぶ球体の中心から三つ目に向かって、小石を放る。
「お、見てみろ。データが更新されたぜ」
モニターの前にいる同行者が言う。そちらを見てみれば、三つ目の球体にシミュレーションされたサンプルの様子が映し出されていた。
『ただいま入りました速報によると、突如として現れた巨大隕石は今晩地球に衝突すると推測され――』
『落ち着いてください、荷物は持たずに、できるだけ地下深くへ降りてください――』
「情報伝達の仕組みには不備なし。だけども、これだけ勤勉ならおれたちみたいに、人間ぜんぶに平等に仕事をやれる環境にしたらよかったのになあ」
「まだそんなことを言う。メンテナンスはこれから我々の担当になるんだから、次の文明に期待したらいいじゃないか」
「それもそうか」
私は三つ目の球体が赤く燃えたのを確認して、雑談を交えながら、同行者と共に帰宅した。
――と、ここまでが観測機から出力されたデータです。もう少しで60億年だったのに、残念ですね。
――仕方がないさ。次の文明に期待しよう。
――それもそうですね。




