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私は「病弱を理由に幼馴染を呼び出して婚約者を困らせる令嬢」らしい

作者: 月森香苗
掲載日:2026/05/06

※二人の女の子視点

※NO百合

 私は世間で「病弱を理由に幼馴染を呼び出して婚約者を困らせる令嬢」と言われている事を最近知った。

 確かに私は病弱だけど、幼馴染とやらを呼び出したことは無い。勝手に押しかけて来ているようだけど、室内に入れたこともない。

 しかし、その幼馴染とやらの婚約者を困らせているというのならば、説明しなければならない、と思い、侍女に代筆をたのんでお手紙を送らせてもらった。



 我が家は子爵家だけれど、祖父が公爵のおかげで私の治療費の援助をしてもらっている。生まれた時から十七年も、だ。

 本来は正当な後継者である従兄弟達の為に使われるべきお金なのに、申し訳ないと思いながらも優秀なお医者様や薬師様に診てもらっていた。

 この体なので、長くは生きられないだろうと言われていたものの、治療の甲斐あってか、生まれて直ぐに下された寿命よりは長く生きられている。

 それに、私を使っての新しい医療技術や連携している薬師様のお薬も体に合っていたようで、最近は起きていられる時間が増えたけれど、部屋の外に出たことは一度もない。

 生まれてから私が会うのは家族と親族、そしてお医者様と薬師様だけだったので、初めて全くの他人を部屋に招く事になった。




 侍女が来客を連れて来たので、私はそばに居る侍女に体を起こしてもらい、背中には沢山のクッションを当ててもらってどうにか座る事が出来た。

 部屋に入ってきたその人は、とても困惑した様子で私を見ていた。


「ベルデッタ・ミレニアと申します」

「こちらから赴かねばならないところをお呼び立てして申し訳ありません。ユメル・ファーレンです。どうぞお掛け下さいませ」


 ベルデッタ様は困惑の表情のまま椅子に座った。礼儀で言えば私も同じように椅子に座るべきだけど、出来ないので申し訳ない。


「噂を耳にしました。ミレニア様のご婚約者を私が呼び出していて困らせている、と」

「え、ええ……でも……」

「困惑されるのもごもっともです。この部屋に、家族と親族以外の男性は入れませんから」


 私の部屋はとても厳重に管理されている。

 本邸から通路で繋がる離れの建物そのものが私の治療の場だけど、出入りする扉は魔導具で厳重に管理され、許可の無いものは弾かれるようになっている。

 登録者一覧は全て記録されて確認出来るので、ベルデッタ様の婚約者がそこに名を連ねていないことはすぐに分かる。

 そこまで厳重にしているのは、私が医学と薬学の進展に協力しているからだ。

 最先端技術の治験の場で、機密性が高い為に出入りは厳重に管理されている。

 更に、外から病気を持ち込まないようにする為、高価な浄化装置が私の部屋の前には設置されている。

 この部屋に訪れるものは必ずその浄化装置を通らねばならないし、盗み出されるのを防止する為の装置だって付けられている。

 何よりも、私がいる寝室には男性は家族でも入れない。

 お見舞いに来てくださった男性の家族や親族とは、魔導具技師様から現在お試しで貸与されている「映像転写機」と言う魔石で作られた板でお互いの顔を映しながらお話出来るというものを使っている。

 まだ幼い頃は侍女が抱えてくれて隣の部屋で会えたけれど、今は無理になったので、その魔導具はとても嬉しいものだった。


「その……たしかに、我が家にミレニア様の婚約者様が押し掛けてくる事はあるようなのです……ですが、幼馴染でもなんでもないのです。お分かりの通り、私は生まれた頃から体が弱く、家族と親族とお医者様と薬師様にしかお会いした事がないのです」

「わたくしの婚約者がご迷惑をおかけして申し訳ありません」


 ベルデッタ様は頭を下げて謝られたけれど、彼女は何も悪くないのに。


「顔をお上げください。何故、私の幼馴染を名乗るのかは分からないのですが、ミレニア様が困っていると聞いて説明をしなければ、と思った次第です」

「充分に分かりました。その……とても恥ずべき事なのですが、わたくしの婚約者の話を聞いていただけないでしょうか」

「はい」


 そこからベルデッタ様に聞いたのは、その婚約者とやらは見栄っ張りで、尚且つ「弱い者にも優しい自分」を演じるのが大好きなのだそう。

 ベルデッタ様は婚約者の「幼馴染に呼ばれたから会いに行かなければ」という言葉を信じていたらしい。

 私には皆が何も言わないので名前も顔も知らないのだけど。自称幼馴染。


 私の病弱っぷりは中々に有名だけど、機密の関係でどのくらいのレベルかを世間が知ることは出来なかった。

 ただまあ、貴族の令嬢達は「か弱い私」を演じる事が多いので、そのレベルでは無いかと誰もが想像しているようだ。

 ベルデッタ様はここに来て想像以上の病弱さと治療環境に驚きが隠せない様子だった。

 まあ、私がそれこそあまりにも痩せすぎというのもあるのだろう。

 何せ、体が病弱ならお腹も弱い。ちょっと油っこいものを食べただけでお腹は下すし、固形物は消化に時間が掛かりすぎて中々空腹にならない。

 あまりにも痩せすぎると治療が困難になるけど、かと言って食べすぎたら余計に痩せてしまう。

 栄養豊富でありながら固形物ではないスープは私の命綱だった。私の主食はスープのみだけど、最近少しだけ果実をそのまま食べられるようになってきた。ぶどうとか、薄皮を剥いたオレンジとか。イチゴもお行儀は悪いけれど潰してもらっていたら大丈夫になってきた。

 ただまあ、見るからにちょっと衝撃を与えたら骨が折れそうな体だと思う。

 腕だって骨と皮とほんの少しの肉、みたいなものだし。


「私がミレニア様をお呼びしたのは、もしも婚約の継続を望まないのであれば、解消のお手伝いが出来ればと思ったのです」


 一応は調べてもらったのだ。どんな方を困らせているのか、と。

 そうしたら、ミレニア家には全く利のない婚約である事が判明した。お相手の家が強引に結んできたもので、爵位が下のミレニア家では解消を申し出ることも出来ない、と。


「出来るの、ですか?」

「出来ます。私の祖父はチェノラバ公爵で、私に不名誉な噂が流れていること、その原因、ミレニア家は被害者と言えば良いだけですから」

「……叶うならば、婚約の解消が、したいです」

「分かりました。では今からお願いしましょう」

「え?」


 侍女に頼んで「映像転写機」を体の前に出してもらう。私が持たなくても済むように専用の台があるので、起動すればいいだけ。


『おお!ユメル!どうした?』

「お久しぶりです、おじい様。お願いがありますの」

『ふむ。なんだね?』

「我が家にドレッセル伯爵家の嫡男が私の見舞いにと頻繁に来るのです。当然お断りしているのですが、その所為で私、『病弱を理由に幼馴染を呼び出して婚約者を困らせる令嬢』という噂が出てますの。今その婚約者の方をお招きして事情説明をしたのです」

『なるほど。それで、何をすれば良い?』

「ドレッセルの嫡男の婚約を潰して下さいませ。婚約者のミレニア様は被害者なのです」

『なんだ。それだけで良いのか?ミレニア家は派閥の者だな。新たな縁談は用意しなくて良いのか?』

「ミレニア様、どうされます?おじい様の紹介ならばとても良い縁談をご用意出来ますけれど」

「え?で、でも、宜しいのですか?」


 我が家が適当にあしらわずに本気で拒絶しておけば良かったのだけど、彼のように幼馴染とは言わないまでも、公爵の孫のお見舞いなんて言いながらやって来るものはかなりいるので、適当になっていたらしい。

 私のいる離れは、建物の周囲を高い柵で囲っていて、本邸と繋がる通路は壁に囲われているので本邸の中からしか人が出入り出来ない、と聞いている。

 何せこの建物が完成したのは私が二歳くらいの時で、そこから私はこの部屋にずっといる。

 本邸にいた時は常に母が着いていて、兄と姉は十歳と八歳だったから、母が妹にべったりなのが寂しいという気持ちよりも、何時死にかけてもおかしくない妹の状況に戦々恐々としていたようだ。

 この離れに来て、お医者様と薬師様が常駐して、何とか体が安定した時は兄も姉も泣いて喜んだそう。

 まあ、それは良いとして、その位厳重に守られている離れにいる私は侍女が話す事くらいしか分からない。

 今回だって、私の名誉に関わることだから教えて貰えたのだ。

 彼女は我が家の怠慢の被害者なので、遠慮はしないで欲しい。


「もしも叶うならば……おそらく、今の婚約者と婚約を解消して、次にまともな縁談が来るとは思えなくて」

『よい。貴殿には迷惑をかけた。こちらで処理をするのでしばし時間をいただけるだろうか』

「ありがとうございます」


 侍女が気を利かせて祖父の顔が見える面をベルデッタ様に向けたので、ベルデッタ様は頭を下げられた。

 今日の私は調子が良くて、ついついお喋りを沢山してしまった。

 ベルデッタ様はパーティーにも参加されたりしていて、同じ年頃の女性とお話出来るのがとても楽しかった。


「ミレニア様……その、また、宜しければ、お話出来ませんか?」

「ええ!是非。どうぞ、わたくしのことはベルデッタとお呼び下さい」

「はい!私のこともユメルと、是非」


 大変迷惑をお掛けしたベルデッタ様だけど、またお話をして下さるなんて、とても嬉しい。ああ、私も歩けるようになれたならいいのに。



◇◇◇


 わたくし、ベルデッタ・ミレニアの元にファーレン子爵家のユメル様からお手紙が届いたのは五日前のことだった。

 わたくしの婚約者、エドガー・ドレッセル様が幼馴染だと言って頻繁にお見舞いに行く方。

 わたくしとのデートや交流の茶会、夜会のエスコートなども全部ユメル様のところに行くから、とキャンセルばかり。

 この婚約はドレッセル様のお家から我が家に持ち掛けられたもので、何の利も無い婚約だった。いや、ドレッセル家にはあったけれど、ミレニア家にはなかった。

 だけど、婚約したからにはきちんとお互いに関係を築こうと思っていたのに。エドガー様はユメル様に夢中だった。

 回数が重なり、ユメル様とはどんな方なのかを友人に相談していたら、いつの間にかユメル様は「病弱を理由に幼馴染を呼び出して婚約者を困らせる令嬢」という話になっていた。

 わたくしはただ、どんな方かを知りたかっただけなのに、娯楽に飢えた人々の話の種になってしまった。

 その中でのお手紙で、何を言われるのかと思いながら中身を読むと。

 噂の件の説明をしたいけれど、病弱過ぎて部屋から一歩も出られないので、失礼を承知でファーレン子爵家に来てくれないか、という話だった。

 王都にあるファーレン子爵邸は、子爵家としてはおかしい程の広い土地に建てられている。母に聞けば、ファーレン子爵夫人がチェノラバ公爵の娘で、結婚祝いに贈られたのだという。

 警備はかなり厳重で、エドガー様はそんなところに頻繁に訪れる程の仲なのかしら、と落ち込んでいた。

 お手紙には「出来るだけ簡素なドレスでお越しください」と書かれていて、何故?と思うものの、失礼にならない程度に落ち着いたドレスで約束の日に訪問をすることになった。


 まず驚くべきことに、迎えの馬車を寄越してくださったのだけれど、この時点で魔導具による危険物の所持をしていないかを確認された。

 子爵邸の敷地を守る結界の魔導具があり、危険物とみなされるものがあると弾かれるのだという。

 他所の方のお屋敷を訪れるのに危険物を持ち込む、とは?侍女と不思議がりながら、無事に確認を終えると、馬車で移動となった。

 母から聞いていた通り、ファーレン子爵邸はとても広かった。

 応接室に案内されるのかと思いきや、ユメル様は離れにお住いで、その離れにはこの本邸からしかいけないとの事で、侍女に案内されて向かったのだけれど。

 わたくしが連れた侍女は離れには入れないとの事だった。

 と言うのも、ユメル様のいらっしゃる離れは国家機密相当の重要な場所で、わたくしが入る許可は出たけれど、侍女は出ていない為だった。

 何故そんな場所にわたくしは呼ばれたの……?


 侍女も流石にそのレベルの話だと着いていきます、とは言えずに控えの部屋で待ってもらう事になった。

 そこからは兎に角「凄い」という感想しかなかった。

 離れに入る為の扉には許可の出ている人の一覧が出ていて、あれ?と思ったのはエドガー様の名前が無かったこと。


 どういう事?と思いながらも、ユメル様のお部屋のある二階にあがり、そして浄化装置でとても、浄化されました……。

 確かにドレスがシンプルでよかった。

 室内はもっとすごくて、空気を清浄に保つ魔導具とか、なんと言うか、とても物々しいお部屋で、そこから続く寝室にユメル様いらっしゃった。


 初めてお会いするユメル様は、生きていることが不思議な程に痩せていて、顔色も悪いのだけれど、今日は調子が良いのだと明るい声を出されていて、わたくしはショックを受けていた。

 病弱と言っても少しだけ具合が悪いだけで、わざと呼んでいるのでは、と思っていたわたくしが愚かだった。

 誰がどう見ても、ユメル様は病弱だと言うはず。


 椅子を勧められて座り、そこからの話でわたくしは恥ずかしさのあまり顔があげられなかった。

 幼馴染でも何でもないじゃない!寧ろ、門から中に入った事すらないなど!

 何のために嘘をついているのかは分かりたくないけれど、恥ずかしくて仕方なかった。

 ユメル様は十七歳とのことだけど、その十七年間で家族、親族、侍女、お医者様、薬師様以外に人と会ったことがないと仰る。

 それもそのはず。ベッドから降りることが出来ないのだから。そして、寝室に女性以外は入れないのだから。そもそも離れ自体が厳重に守られている。

 エドガー様の事を思って憂いていたわたくしは何なの?

 ユメル様は何も悪くないのに、被害者はわたくしだからとエドガー様との婚約の解消と新たなる縁談の手配をチェノラバ公爵様に頼んでくださり……。

 お互いに名前で呼び合う事になって、気付いた時にはわたくしは屋敷に戻っていた。


 それから一週間ほどして、婚約はなかったことになった。ドレッセル家の不祥事が発覚して、婚約どころではなくなったのだ。

 そして、チェノラバ公爵様からのご紹介で、公爵様の二番目の娘の嫁ぎ先である伯爵家の嫡男とのご縁を頂いた。

 リューディロ伯爵家は名門で、嫡男のシャルル様はかなりの人気の方だけど、婚約者がおられず、侯爵家のご令嬢すらもお相手にされないと有名な方だった。

 何故そのような方が?と思ったのだけれど。


「ユメルがベルデッタ嬢ならば間違いなく僕と合うと言ってくれてね」

「ユメル様が?」

「そう。あの子は人と殆ど会う事は無いけれど、勘が良くてね。今の医師と薬師になる前に何人かと顔を合わせたけれど、全員を嫌がった。調べるとあまり良くない奴らでね。今の医師と薬師は良かったんだ。そのユメルが手放しで貴方を薦めるのだから、間違いないだろう」

「そう、ですのね」


 たった一度お会いしただけなのに、ユメル様はそこまでわたくしを評価してくださっていたのね。


「それでね、僕は月に一度はファーレン子爵家を訪れたりするけれど、君は許してくれるかな?ユメルが体調を崩したら、君よりもユメルを優先すると思うよ?」


 シャルル様は、わたくしとユメル様がお会いしたきっかけをご存知なのだろう。なので、わたくしはにこりと笑って答えた。


「その時はわたくしも参りますわ。シャルル様はユメル様のお部屋には行けませんが、わたくしは行けますもの」

「はは!君が初めてだよ。以前にどうしてもと言われて見合いを受けたけれど、その時に従妹を優先することもある、と言ったら相手は酷く怒ったよ」

「その方はユメル様をご存知ではないからですわ。シャルル様。わたくしも、ユメル様がお会いしたいと連絡を下さったら、シャルル様より優先しますけれど宜しくて?」

「勿論。その時はファーレン子爵邸までエスコートするよ」


 こうしてわたくしは。多くの令嬢が憧れるシャルル様と婚約をした。それはもう嫉妬の嵐が凄まじかったけれど、チェノラバ公爵様による縁談だと知られると表立っての不満は減った。

 わたくしとはユメル様の体調が良い時に会いに行き、お友達となり、そして親族となった。

 結婚してシャルル様と夫婦になって暫くすると、ユメル様が遂にベッドから降りて歩けるようになったと教えてもらった。

 夫婦で大喜びし、揃ってファーレン子爵邸に行くと、離れの中にある応接室まで移動が出来るようになっていた。

 シャルル様がユメル様に直接会うのは十年ぶりほどで、とても感動されていた。

 わたくしは頻繁に会っていましたからね。シャルル様は拗ねていましたけれど。


 始まりこそ色々とありましたけれど、今はこうして幸せになれているし、ユメル様も体力をもっと付けてせめて本邸に行けるようになる、という目標を持たれていますし。


 これからの日々はより楽しくなるのでしょう。


「病弱を理由に幼馴染を呼び出して婚約者を困らせる令嬢」。

これ、本当に病弱っていうテンプレと、呼んでもないのに来るから困ってるテンプレがあると思うんですけど。

①病弱なのは本当。

②病院すぎて知り合いなどいない。幼馴染って誰よ。

③そもそもベッドで寝込んでるところに他人の男を入れるなど非常識。


とかそこら辺が思い浮かんで書きました。

ベルデッタ視点も書いた方がユメル視点では分からなかった噂が何故流れた、が分かるかな、と。

うっかり風邪を移されたら死んでしまう程ユメルは病弱ですが、家族親族に愛されています。

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