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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。

フリーズドライ

作者: つぐみさん
掲載日:2026/03/24

初めて投稿させていただきます。百合小説です。

大好きな豆腐のスープを作る時

いつもフリーズドライの豆腐をきれいなまま入れるのはとても難しい。

必ずどこかしらボロッと崩れてしまう。


思いがけないことで記憶が呼び起こされる事がある。

ある日それを作っていた時にふと若葉という少女の事を思い出した。


「私さあ、かなっちと結婚したいんだよね」

同級生の高田若葉は学校のいつもの帰り道でいつもと同じ事を口走る。


もうあまりに同じ事を聞きすぎて「あーまた始まった」くらいにしか思わない。

「もうそれ聞き飽きたって・・・。」

「ええ~、いいじゃんかー。だってかなっちの事大好きなんだもん。」


まわりに聞こえるくらいの大声で騒ぐので軽く手刀を入れる。

「いまビシッて言ったー。」とわざとらしく両手で頭を押さえて叫ぶ。


いい加減うんざりして、つい半端な返事を返してしまう。

「もう、分かったってば。考える。ちゃんと考えるから」


すると若葉の顔がぱーっと明るくなった。


いつもならそこからどこか明後日の方向に話がそれるんだけど、

その日はちょっと違った。


パパっと小走りで私の前に回り込んで、ニッと笑って私に飛び込んできた。

「ちょっ!急に何!?」


「めっちゃ嬉しい!」


「まだOK出してないよ?」


私を強く抱きしめたまま彼女は言う

「だって、絶対ダメじゃないんだもん。だから・・・絶対考えてほしい」


まさか高校生の段階でここまで熱烈なプロポーズを、しかも女性から、受けるとは夢にも思わなかった。


しかし、不思議な事に全然嫌な気持ちは無かった。むしろ彼女の暖かさが

服を通して伝わり胸にじわっと何か言葉にならない感情が広がった。


「・・・わかった。絶対返事する。」


徒歩の彼女とは駅で別れる。その日は改札を通った後、ふと何気に振り向いた。

彼女は少し恥ずかし気に(とても彼女らしくなく)小さく手を振っていた。


いつもは夜メッセージのやり取りをしているが、その日は特に変わらずいつも通り

下らない話題を交わした。


寝るというメッセージに「おやすみ」と返すと、ベッドに仰向けになってぼんやり今日の事を考えた。

そりゃ私だって若葉の事は好きだ。でも好きの矢印がどちらに向いているのか、

はっきりしていなかった(させたくなかった)。


深呼吸して冷静に自分の心に問いかける。いま若葉に会いたくて仕方が無い。

会って夕方みたいにぎゅっとハグして気持ちを伝えたい。


でもやっぱり飛躍しすぎだよね。いきなり結婚なんて。

そもそも今の日本じゃ無理じゃん。外国にでも行く?

あの子英語赤点なのに?


・・・ってそんな事どうにでもなるか、と苦笑する。

要は彼女にとっては私とずっと一緒にいる事が大事なんだろう。


まずは付き合うところからかな・・・。

そうだよね。ちゃんと話せば段階踏むことも納得してくれるはず。


うん、明日きちんと返事しよう。そして若葉の恋人になろう。


そうして私は部屋を真っ暗にした。胸の辺りがざわざわとしてなかなか寝付けなかったけれど。


次の朝、駅で若葉を待っていたがやって来ない。

ひょっとして休み?メッセージを送っても既読にならない。


もう学校に行ってるのかも。教室ではスマホはロッカーに入れておく規則なので

そういう事なのかな。何か用事でもあったんだろうか?


これ以上は遅刻になりそうなので、私は学校に行くことにした。


やっぱり彼女は来ていない。おかしいな。風邪で休むとかならメッセージでも送って来るんだけどな。

そんな風に考えているとチャイムが鳴り、先生が教室に入ってきた。

が、先生は目を真っ赤にして潤ませていた。


ズキッ。


昨日の夜のざわつきとは明らかに違う突き刺すような予感が胸をえぐる。

そして涙声の教師の声から現実を突きつけられた。

「高田若葉さんは本日の早朝お亡くなりになりました。」


あまりに突然の言葉に理解が追い付かない。教室中が「えっ?」と言う空気に包まれた。


お母さんのお話では、洗面所で大きな音が鳴ったので覗いてみると

若葉が倒れていたのだそうだ。救急車で運ばれたものの、既に意識は無かったという。


どういう事?分からない。分かりたくない。昨日あんなにしっかり抱きしめられたんだよ?

これからずっと一緒だよって何で昨日言ってあげられなかったの?

なんで?

なんで?

なんで・・・


・・・気が付くと私は保健室のベッドにいた。保健の先生によると、

どうやら私は話を聞いたとたんに意識を失ってしまったらしい。


しばらくして起き上がった私は教室に戻った。

教室は西日を受けてオレンジ色に染まっていた。

いつもなら数人残っているところだが、今日はもう誰もいなかった。

窓際の若葉の席をじっと見る。いつも楽しそうに友達と喋ったり、

何となく空を眺めている彼女を思い出す。

目じりがひりひりして何か奥からこみ上げてきそうになる感情。

でも泣けなかった。むりやり泣こうとしても無理そうだった。


そして葬儀の日。

最後のお別れで葬儀で棺に少し安心したかのように眠る若葉を見た時、

一気に事実が押し寄せてきて泣き崩れてしまった。


明日、あさって、しあさって。

今週、来週、再来週。


きっと来る来るやって来る?

いつかはみんな去ってゆく。


角が崩れた豆腐を眺めながら、ため息を一つつく。


沸騰したお湯を注ぐと豆腐は跡形も無く溶けてしまった。


「そのうち・・・ね」

と独り言をつぶやいた。

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