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三日後、世界は滅びます  作者: 冬馬亮


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ティルセ家の話


「わぁ、食べ物がこんなにたくさん!」



食卓に所狭しと並んだ料理の数々に、幼いユリエンは歓声を上げた。



「嬉しいかい、ユリエン?」



はしゃぐ娘の頭を、トルミは優しく撫でる。


ユリエンが驚くのも尤もだ。


もうずっと、満足に食事も出来ず、一日に一食をかろうじて取れる程度だったのだから。



「とっても嬉しい! ママも帰ってきたし、今日は何ていい日なの!」


「・・・良かったな。これからはママとずっと一緒だぞ」



トルミの声のトーンが少し落ちたことにも気づかず、ユリエンは自分が一番聞きたかった言葉に注意を向ける。



「ずっと? もう病院に戻らなくていいの?」


「ああ、ママはもう病院には戻らない。ずっと私たちと一緒だ」


「わ~い!」



椅子ではなくソファで横になっている母の所にパタパタと駆け寄るユリエンの顔は喜びで溢れていた。



「聞いた? ママとユリエン、ずっと一緒だって!」


「ええそうよ、ユリエン。今まで寂しい思いをさせたわね」


「ううん、いいの。だって病院に行かないとママの病気が治らないって知ってたもの。ユリエン、ママが帰ってくるの待ってたよ」


「・・・ええ、本当にあなたはいい子ね」



母アリーは優しく微笑んだ。



その日は、本当にユリエンにとって夢のようだった。


豪勢な食事、家族全員が揃った食卓、穏やかに微笑む母、少し離れたところで涙ぐみながら母娘の語らいを見守る父。



夢なら覚めないで。



そうユリアンが願うほど。



はしゃぎ疲れて母の横で眠ってしまったユリアンを、トルミがそっと抱き上げベッドへと連れて行く。



「・・・大喜びだったな」



ソファに戻り、妻アリーの髪を優しく梳きながら、トルミは哀愁を含んだ顔で呟いた。



「・・・体の調子はどうだ? 痛みはないか?」


「大丈夫よ。テオ先生の薬が効いてるみたい。この分なら、三日間、あの子と笑って過ごせそうだわ」


「そうか・・・」




残された三日間、愛する家族と共に過ごしたいというアリーの希望を聞き、入院していたテオ先生の治療院から妻を引き取った。



その帰り道では無償で配られているパンや野菜、肉、魚、穀物などを手に入れ、それらを使って久しぶりに腹いっぱいに食事を取った。



全てが無償で差し出されている今、どの場所でも略奪などは起きていない。


その必要がないのだ。



王城の食糧庫すら開放されているという。



この三日間は食べ物に困ることはないだろう。



三年前、アリーが重い病気にかかり、トルミはその治療のためにあちこちの医者をまわり、お金を使い果たした。


最後の最後にこの町で見つけた医師テオは、無償でアリーの治療を引き受けてくれた。


だけどもう、その頃にはアリーの病状は回復が見込めない程に進んでいて。



それでも、これ以上進行させないためには入院して付きっきりの治療が必要だった。



幼いユリエンは大泣きした。

だけれど最後には母親が元気になる事を願って治療院へと送り出した。


トルミはユリエンの世話をしながら出来る仕事を探し、頑張って働いて、それでも一日一食を用意するのがやっとの生活で。


またアリーとユリエンと親子三人で暮らせる日を願い、待ち望みつつ、そんな日は絶対に来ないと心の底では思っていた。



思っていたのに。



今日、ユリエンは笑っていた。


それを見たアリーも嬉しそうだった。



あんな光景を再び見ることが出来るなんて。




三日後、世界は滅びる。



トルミも、アリーも、ユリエンも。



みんなみんな、落ちてくる星が喰らいつくす。



最初、それを聞いた時は絶望した。


だけど、今はもうそれでも構わない、とトルミは思う。



星が落ちてくるお陰で、今、トルミはあれほどまでに願っていた幸せな風景を手に入れた。


きっと、何事もなければ一生手に入ることのなかった時間を。



トルミの眼に涙が浮かぶ。


それが悲しみの涙か、喜びの涙なのか、もうそれすらも今のトルミには分からないけれど。



せめて精一杯この瞬間を楽しもう。


心ゆくまで今のこの幸せを味わおう。



ユリエンが笑い、アリーが微笑み、トルミがそれを見守る温かい風景を。



星が落ち、全てを呑み込む最後の瞬間まで。



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