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三日後、世界は滅びます  作者: 冬馬亮


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王子シャールと王女アレクサンドラの話



「ラクロスさまとのお話はどうでしたか?」



私室に戻り、椅子に深く座り込んだレブロン王に、リルエが声をかけた。



「私の言葉がなかなか信じられんようだった・・・まぁ当たり前だな。誰が聞いても驚く話だ、この世界があと三日で滅びるなど」


「まだ地下牢から出て来られていない様ですが、鍵はお開けになったのでしょう?」


「ああ・・・もしかすると、まだ罠だと疑っているのかもしれんな」



頭を軽く左右に振り、そこでハッと気づいた様に顔を上げた。



「そういえばシャールはどうした? この騒ぎでしばらく話も出来なかったが、無事にここを発ったのか?」


「ええ。あの子はあの子で、最後の三日を大切に使おうとしております。既に隣国に向かいましたわ」


「・・・そうか」


「あの子は他の者たちよりも早くこの情報を知ることが出来る立場にいましたから。さすがに一人で城を離れようとした時は、騎士たちに止められそうになっていましたが」



レブロンは苦笑を漏らした。



「私が学者や大臣たちとの会議で忙しかったせいで、お前には色々と他の事で気を使わせてしまったな」


「それが王妃の務めですわ」



リルエは優しく微笑んだ。



「既に国境を超えた筈です。イスル国の王城に到着するまでには更にもう一日ほどかかるかもしれませんが」


「シャールがアレクサンドラ王女と過ごせる時間は、一日か二日という事か」



レブロンは重い息を吐いた。



「幼き頃より想い合っていた二人だ。せめて最後は二人きりで過ごせると良いのだが」


「あの子なら大丈夫です。心に決めた事は最後までしっかりとやり遂げるでしょう・・・それより陛下、お腹はお空きではありませんか?」


「・・・ああ。そう言えば腹が減ったな。だが、もう城には誰もおらんだろう。食事の用意など・・・」


「ええ。わたくしも火を扱ったことはありませんので、料理と言える様なものは用意出来なかったのですが、切って皿に並べる程度のものでしたら何とか」


「なんと、お前が?」



レブロンは目を見開いた。



「お恥ずかしゅうございます」



リルエは少女の様に頬を染めた。



「いや、それはありがたい。どこに用意してくれたのだ?」


「いつもの広間に」


「では参ろう」



レブロンはリルエに手を差し伸べ、リルエはその手を取った。



二人はどこまでも穏やかだった。


まるでこのひと時が永遠に続くかの様に、互いに見つめ合いながら、微笑みを浮かべながら、広間へと歩いて行った。







馬の蹄の音だけが森の中に響いていた。



もう三日三晩、走り通しだ。


一度馬が潰れて宿で交換したが、今はもう国王からの発表の後だ。この先も上手く馬が買えるとは限らない。



そう考えて、シャールは逸る心を抑えて小川の側で馬から降りた。



身体の疲労は極限まで来ていた。


ろくに睡眠も取らずにここまで走り続けたのだ。



途中までは護衛騎士も付いてきていた。

だが、発表を受けて彼らも去らせた。


今はドリス王国の第一王子シャールただ一人が馬を走らせている。



この事態となってからは、王子という肩書きなど何の意味もなさないけれど。



「あと少し・・・もう半日も走れば」



アレクサンドラに会える。


愛しい僕の婚約者に。



幼い頃にニ国間の交流式典で二人は出会った。



互いに横に並び、記念式典の開幕を告げる鐘を二人で力を合わせて鳴らしたのだ。



カーンという透き通った音と共に、互いに顔を見合わせ、ホッとして、それから笑って。



記念パーティーでは会場から漏れ聞こえる音楽に合わせて、まだ上手く踊れもしないのに二人でワルツに合わせてくるくると回った。



それぞれの国に帰る時には、離れたくないと泣いて親を困らせた。




ふ、とシャールの口から笑みが溢れた。



あの時は本当に幼かった。


怖いものなど何もなくて、自分たちの目の前には洋々たる未来が開けていると、そう信じて疑いもしなくて。



アレクサンドラとの幸せな将来が、二つの国が一つになる未来が、当然のようにやって来ると、そう信じていた。


信じていた、のに。



それは呆気なく、いとも簡単に崩れ去った。



「・・・せめて最後の一日、いや出来ることなら二日・・・」



アレクサンドラと共に過ごしたい。


夫婦として。

夢見ていた未来を、ほんの少しだけでも味わいたい。


アレクサンドラと共にいる未来を。


せめてあと二日、いや一日でもいいから。



シャールは馬を木に繋ぐと、仮眠のために目を閉じた。


少しだけ休んで、体力を回復させて。



そうして目覚めた後、再び彼は馬に乗って駆けるのだ。


アレクサンドラのもとへ。



愛する人と最後の時を共に過ごす、ただそれだけのために。



この世界が終わる瞬間、愛する人の肩を抱き、僕が共にいる、大丈夫だよと囁いて安心させるために。



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