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三日後、世界は滅びます  作者: 冬馬亮


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レスト家の話



世界の終りの宣言から三日目の昼過ぎ。


最期となったこの日、レスト家の空気は悲壮感に包まれていた。



星の衝突を待たずして、レスト夫妻の愛する息子トビアスが息を引き取ったのだ。



「ああ、トビアス。トビアス。私の愛する息子。あなたは私たちより先に旅立ってしまったのね・・・」



レスト夫人はトビアスの手を握りしめたままポロポロと涙を零した。


そんな夫人の肩を抱きながら、同じく悲しそうに息子の骸を見つめるレスト氏。



ベッドの向かい側には、トビアスの姉マルゲリ―テと、妹リイサが泣き崩れていた。



「やっと帰って来られたのに・・・嬉しかったのに・・・せめて今夜まで一緒に過ごしたかった・・・」


「お兄さま、お兄さま。目を開けて。お願い・・・」



家族の嘆く声は、もうトビアスには届かなかった。





二日前、トビアスは久しぶりに自宅に戻ることが出来た。


重い血の病を得て長く闘病していたトビアスは、ずっと入院生活を余儀なくされていたのだ。


だが、国王からの発表を受け、入院先の医者が患者の希望を確認した結果、トビアスは最後の時を家族と共に過ごしたいと願った。



トビアスの希望を聞いた医師テオは、すぐにレスト夫妻に連絡を入れる。



迎えに来たレスト夫妻に、テオは薬と痛み止めを渡し、トビアスの聞こえない所でこう告げた。



「トビアス君の病気には、血液を濾過して再び戻す特別な医療器具が必要なことはご存知でしょう。そのために彼は入院していました。退院にあたり医療具を外すことになりますので、あとは薬で対処療法をしていくしかありません。ですが正直、薬だけで最後の日まで体がもつかどうか、はっきりしたことは言えないのです」



トビアスにつけていた医療器具は大きく、運ぶことは不可能だった。

しかもレスト夫妻に、それを扱える医学的知識はない。



星が衝突する三日後までトビアスの身体が保つかどうかは、賭けだった。



渡された大量の薬を手に、レスト夫妻は静かに頷く。



--- 残された時を愛する家族と共に ---



それがトビアスの願いなのだ。


そして勿論、レスト家の願いでもある。



どうか、トビアスの身体が、最期まで保ちますように。



そう祈るしかなかった。




そして一日目。



少し熱は上がったものの、食べ物も口に出来たし、ベッドの上で起き上がり、姉妹たちとお喋りを楽しむことが出来た。


これなら、最後の時を家族全員で迎えられる --- そんな期待が膨らんだ。




今は14歳のトビアスが病のせいで入院することになったのは、約4年前。トビアスが10歳のときだ。



それまで健康そのものだったトビアスは、ある日急に倒れ、テオの治療院に運び込まれた。


そこで受けた診察により、トビアスが珍しい血の病に罹っている事が判明したとき、家族は絶望し、その場で頽れた。


それは、治療法がまだ見つかっていない、不治の病だった。



それでも、痛みを取り、延命措置を施すことは出来る。


少しでも長く、トビアスに生きていてほしかった。



だが、それはトビアスとの別離をも意味していた。


特別な治療を必要とするトビアスは、その日のうちに入院が決まり、それからは面会でしか顔を見ることが出来なくなった。



それでも、面会に行けばトビアスは喜んでくれる。


レスト夫妻は、娘たちを伴って毎日のように息子に会いに行った。



普通ならば、トビアスの罹った病は2年ほどで死に至る。


4年も生き長らえたこと自体が奇跡に近かった。



二日目。



トビアスの熱が更に上がる。


血が濁り、免疫機能が下がり続けているのだ。



関節の痛みも訴え始め、痛み止めの薬を何度も飲ませなければならなかった。



それでも、薬の効果で痛みが引くと、トビアスは家族といられて嬉しいと呟くのだ。



トビアスは言った。



「僕の病気が不治の病であることは知ってるんだ。入院したとき、きっとこのまま病院で死ぬ事になるんだと思ってた。だから、またこうして皆と時間を過ごせて、僕はとっても嬉しいんだ」



そう言ってトビアスは微笑む。



「父さんと母さん。マルゲリーテ姉さんとリイサがいるこの家に、最後に帰って来られて、僕はとっても・・・とっても嬉しいんだよ」



レスト夫人は、トビアスの手を握りながら、何度も何度も頷きを返す。



顔は涙でぐちゃぐちゃだ。



「ああ、でも・・・最後の瞬間まで、皆と一緒にはいられなさそうだなぁ・・・」



そう言って、トビアスは目を瞑る。


そして、深く息を吐いた。



「ごめん。少し疲れちゃったみたいだ・・・ちょっとだけ眠らせて」



そして、トビアスは眼を閉じた。



やがて、すうすうと寝息が聞こえてきて、そして。



そのまま、二度と目を覚ますことはなかった。





「トビアス、トビアス・・・ああ、せめて今夜、あなたと一緒に逝きたかった・・・」



レスト夫人の慟哭が室内に響く。


姉妹たちの、すすり泣く声も。




迫り来る星がこの世界すべてを押しつぶすまで、まだあと十二時間近くある。



もし、この家族に、この先も長く続く未来があったのならば、今のこの悲しみもいつかは癒えたのだろうけれど。


そうしたら、きっと前を向いて歩いて行く事が出来たのだろうけれど。



だが、そんな間もなく、今夜には星がこの世界すべてを喰らい尽くす。



トビアスも、残された家族も皆、消えてなくなってしまうのだ。



それは彼らにとって幸運だったのか、そうではないのか。



答えは誰にも分からない。



ただ、この三日間、家族で、家族だけで過ごせたことは、トビアスにとって、レスト夫妻にとって、トビアスの姉妹たちにとって、確かに幸せな時間だった事だけは間違いない。





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