98話──手を合わせ
痛い、我慢しろと、言い合う二人を他所に、ダンプは帰還へ向けて進める。
「ビリーブ、アリス様のところに行ってもいいぞ」
「いえ、わたくしは警戒へ手を回させていただきます」
「なら、ズルい言い方をさせてもらうが……アリス様に寄り添ってやれ」
「……かしこまりました」
変わらない歩幅でアリスの元へ行くビリーブを見送り、ダンプはジェルデミアとジェネドへ指示を送る。
「ミアとジェネド、二人は神領星の増援に注意していてくれ。魔術になればこの中でも感じられるが、魔力を帯びてない武器の投擲や、保有魔力が特段高いやつ以外の接近までは感じ取れないからな」
「それならー」
ダンプの指示に差し込まれるセイジの声。
なんだと顔を向けると、セイジはゼットの頭を抑えながら告げた。
「少しの間は大丈夫だと思いますよ」
「大丈夫だ?どういう根拠から出た言葉なんだよそれは」
セイジの言葉を素直に信じるわけにもいかず、ダンプは問い詰める。
「丁度、ダンプさんたちの前に……この部屋に俺があそこから突入した時にはとりあえず最後の一人だったんですよ。敵は」
「そうなのか?」
「はい」
空気を読んだゼットがセイジとじゃれ合うことを止めて、しかし傍からは離れずに静観する。
「なので、ある程度落ち着いてダンプさんと話せてたんですよ。そこまで介入を心配する必要がありませんでしたから」
「あー……そういうことか。だが、少しの間ってことはまだ構成員は潜んでいると?」
「まだまだいるんじゃないですかね。ああ、えっと……ねい……」
ダンプとの会話の最中、セイジは体に手をかざしてきたネイビーへ声を掛けようとした。
「ネイビーよ~」
「すみません、ネイビーさん。先にアリスの体を見てあげてください。俺は少しダンプさんと話したいのと、アリスを差し置いて楽になるのは嫌なので」
「でもぉ、セイジくんの怪我はちょっと見過ごせないものよー」
「男の意地なので、どうか呑み込んでくれませんか?」
「そう言うなら仕方ないわねぇ」
セイジのわがままを聞いてくれたネイビーは、ビリーブと話すアリスの元へ向かう。
そしてセイジはゼットを纏わりつかせながらダンプの元へ。
「まだ神領星がいるって話でしたよね」
「あぁ」
「それについては、ここに来るまで相当殺してきましたが、後ろからも騒がしく、しつこく追ってきてましたから。多分俺が来た方向からまたまとまって襲ってくるんじゃないかなと思います。ここから絶対逃がさないっていう、命令に忠実に。実際そんな命令が出されてるのかは知りませんが……あ?……そういえば神領星には上層部のお偉い人がいるらしいんですけど、俺はまだそれらしい人に出会ってないんですよ」
セイジは、外した仮面を見つめながら、彼が話していた言葉を思い出しながら説明した。
「誰から聞いた話だ?」
「この仮面の、元の持ち主ですね。ただ、さっき言ったようにこれは戦利品なので、持ち主とは戦って、この手で殺したのでもうなにも喋ってはくれませんよ。生け捕りする余裕なんてありませんでした」
「そこを責めるつもりも、求めるつもりもないから気にすんな。お前の質問に答えるが、既にそのお前が言う上層部のお偉い人ってのはもう対処済みだ」
「そうだったんですか?相当強い人だったんじゃないかなと思うんですけど、どうでした?」
「正直、ここに入ってから一番弱い奴らだったな」
「それって本当に上層部の人間だったんですか?」
「幹部って名乗ってたからそうだと考えている。信憑性はあまりないが、それ以外の情報も無いからとりあえず可能性の一つとして、でも他の可能性が無い以上はそれを本命として考えるしかないってことだ」
「そうですか。……じゃあ最悪を想定して、本当の幹部がいるとしましょう。帰り道で狙われた時、勝機はありますか?」
「勝機……か。力量のわからない相手に勝てるか聞かれても答えられないな」
「そうですよね……」
「ただ」
少し落胆した様子のセイジへ、ダンプは言葉を続ける。
「俺たちの戦力なら、グリント内……いや、王国内でも上位を争えるほどだろう。ここにいる全員が力を合わせても勝てないのなら、どこも勝てないような、諦めるしかない相手だな」
「……なるほど。俺は戦力として数えますか?こんななりではありますが、まだ戦う余力は残ってますよ。どれくらい貢献できるかは……周りを見てもらって大体察してもらえればと」
「あーっと、そうだな……」
セイジの申し出に、ダンプは思案する。
アリスを奪還し、安全が保障できない状態で敵を殲滅しに進むわけにはいかない。
必要なのは確実な保護。しかし、セイジの容態はネイビーの魔術でどこまで回復できるか、怪しいところだ。
戦闘要員はいればいるほど安心だが、無理させて行動不能状態になってしまう。すなわち足手まといになってしまうことも避けたい。
どちらを選ぶべきか。
ダンプは、ネイビーから治癒を受けているアリスを遠目に、その身をいかにしてリドリーの元まで届けるかと、その結論を早めようとしたところで……
「……ぁ」
「どうした?」
セイジがなにか思い出したのか思い付いたのか、その漏らした声を耳にしてダンプは問う。
「……俺はサブ要員でもいいですか?みなさんがどうしようもなくなった時にのみ、戦う感じで。やっぱり万全とは程遠い体なので、逆に邪魔をしてしまう危険性があると思いまして……」
「そうか。ならそうしてくれ。無理に働かせるつもりはないからな。これまでアリス様をよく守ってくれた。代表して感謝申し上げる」
「いえ、やらないといけないという義務感ではなく、俺自身の想いからの行動だったので感謝されることではありません。とりあえず、この先はよろしくお願いします」
「頼まれた。んじゃ、お前もあっち行ってネイビーにその傷治してもらえ。ただ、その傷じゃあ出血も相当しただろう。いくら優れた回復魔術でも完全に回復することはどうしても難しい。町に帰ってからになるな。それまでは我慢してくれ」
「そのことについてなんですが……」
「どうした?」
「現状で出血はほとんど止まっていますし、行動に大きな支障が出るほどの怪我でもないです。なので俺の回復は戻ってからでも全然大丈夫ですよ」
「そうは言われてもな……」
そもそも今のセイジが平然と会話していること事態凄いことだと思えるほどの怪我。気が高揚して痛みを感じていないのだろうか、ともダンプは考えたが、痛みがなくとも真っ直ぐ立ち続けたり、普段通りの歩行ができるとは思えない。
今後の戦闘を考え、ネイビーの魔力量を気にしているのだろうか?
「……ミア、防御魔術は掛けたか?」
「えぇ。彼の正体が判明してからすぐに掛けましたよ。なので痛みは抑えられているかと」
「そうか。わかった」
平然としているのはそのおかげなのだろう。
ダンプはセイジへ向き直り、結論を出した。
「少しでも遅れたらネイビーの魔力をお前に回す。それでいいな?」
「はい、構いません」
ダンプの言葉を聞き、とても安心した様子のセイジ。
もちろんのこと、傍らで二人の会話を静観していたゼットは、眉をひそめて不安げにしていた。
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