97話──その名は
「ゼット、セイジだよ」
「せいじ?せ……い………………ッ!?」
男の言葉を聞いても、初めはポカンとして理解できていない様子のゼットだった。しかし、外された仮面の中の素顔を見て、霧が晴れたかのように男の正体に気付く。
逆に、なぜ今まで気付けなかったのか。どうして思い至らなかったのか。顔が見えずとも、体格や声の高さ、喋り方で気付けてもよかった。
身近で、同じ立場で、家族のような存在の彼。苦労を分かち合い、伸び悩んだ時は相談相手になってくれたりした。
ゼットのパーティーメンバーたちとは違う。
命の恩人であり、親であるジャスとも違う。
今、こうして共に死線を越えてきたジェルデミアたちとも違う。
彼らと比べて彼は、ゼットにとってひと味違う存在。ひときわ目立つ存在。曖昧な相違ではなく、そこには明確な差があった。
決定打となったような出来事は無い。言ってしまえばただの知り合い、顔見知りという脆弱な関係性にしかなっていなかった可能性もある。
それでもこうして命懸けでここまで潜ってきた。
命を懸ける理由があるのかと、具体的に説明しろと言われても答えられない。
ゼットは深く考えることが得意ではない。だから、とにかく行動に移す。未来なんてわからない。だから、考えてばかりいるより目指す未来のために体を動かし努力する。
頑張った先に、未来を掴み取れればいい。
そう、こうして再び出会えた親友を前に、これほど感極まってしまうのだから……
正しい選択だったのかなんて、終幕まで誰もわからないのだから……
「セイジ……ッ」
何ヶ月も会っていなかったような気さえした。
よく見れば、セイジの体はネイビーに治してもらう前のゼットよりボロボロ。
頭に巻かれた布で右目が隠されているのが気になるが、周囲に大きな切り傷が見られないことから、もしかしたら戦いの中で小さい石かなにかにより目を傷つけてしまったのかもしれない。
いつから戦ってたんだろうか。一人の少女のために、どうしてそんなにも傷付けるんだ。
そこまで考えたところで、自分も一緒だったと気付く。
セイジにも、引き下がれない想いがあるんだなと。俺と同じように、傷付く理由があるんだなと。
ゼットは、脆くなった涙腺から零れそうになる涙を、喉を鳴らして堪える。
「お前、なんだよその体……右目とか……」
「ゼットの方こそな。服はボロくて血で染まってるし、それになんでここにいるんだよ」
「なんでって、セイジを助けに来たんだよ!」
「俺を?…………そうか。ありがとな」
「それだけかよ」
「それだけって、それ以外のなにがあるんだよ。再会を祝してハグでもするか?」
「こんな時に茶化すなって」
「こんな時だから茶化すんだよ。……ま、無事でよかったよ。こんなところまでよく来れたな。って言っても、ここがどこなのかも、どれだけ深い場所なのかもわからないんだけどね」
「無事でよかったってセリフは俺のもんだろ。この場所については……」
「そのことについては俺から話そう」
セイジが軽口を叩きつつ、真面目な路線へ戻ってこれからのために情報を共有してもらおうとしたとき、ダンプがゼットの言葉を遮って会話を乗っ取った。
「あなたは?」
「ラルト・ダンプ。お前が働いてる冒険者ギルドのギルマスだ」
「ギルマス?……ラルト・ダンプ……か。そうだったような気がしなくもないような……。まぁいいや。ゼットが否定しないんなら本当なんだろうし……じゃあダンプさん、ここについて教えてください」
「教えてもいいんだが……」
「歯切れが悪いですね。まだなにか俺のことで疑ってることがあるんですか?俺から差し出せるのは名前と出身くらいしかないんですが、どうにか潔白した方がいいですか?」
「いや、お前がセイジ本人だってことは確信できたし、状況証拠的にも神領星の人間でないことはわかってる。だが、一つ聞かせてくれ」
ゼットはダンプとセイジの会話をヒヤヒヤしながら聞く。セイジへ、下手なことはしないでくれよと内心訴えかけながら。
「さっきまで、お前の魔力が全く感じられなかったんだ。だが今は感じる。それはお前が仮面を外した瞬間からだ。……なんだそれは?」
「……?えっと、どういうことですか?」
セイジは騙そうとしているわけではなく、本当に全くわかっていない様子だった。
「その仮面はなんだって聞いてんだ」
「なんだと言われても……戦利品なので俺もよくわかりません。ただの仮面じゃないんですねこれ」
「……そうか。ネイビー」
セイジの返答に納得したのか、ダンプは振り返ってネイビーを呼んだ。
「は~い」
「セイジを回復してやってくれ。帰還する」
「わかったわぁ。それじゃあセイジくん、痛いところから集中的に治してあげるからぁ、教えてくれる?」
セイジの元へネイビーが歩いていき、それにより固まっていた空気感が崩れて柔らかくなったようにゼットは肌で感じた。だからネイビーを追ってゼットもセイジの元へ駆け寄り──
「ほんと、馬鹿野郎が!」
ボロボロなセイジに飛び掛かり、遠慮無くその肩を抱いた。
評価ブクマ感想で速度バフが付くので良ければお願いします!
ちょっとでも続きが気になれば!是非!!




