96話──合流5
「お前たちは何者だ」
仮面の男は主導権を握るべく問い質してきた。
しかし、その声色には冷酷さは感じられず、不安が滲み出ていた。
代表してダンプが対話を試みる。
「……お前が今背に抱えている、アリス様を救出しに来た者だ」
無駄な情報を与えないよう、しかし相手の目的が一緒であれば手を取り合えるよう、絞り出した答え。
「……」
相手は無言。
しかし、アリスが口を開いた。
「大丈夫です。あの方たちは信用できます」
それは自身を背負う者に対しての言葉。
それだけで、ダンプたちもアリスがその者を信用しているのだと理解。
ハンドサインで、ビリーブに奇襲を仕掛ける準備をするよう指示していたダンプは、アリスの言葉を聞いて悩んだ末にもう一度僅かな手の動きでその指示を取り下げた。
ただ、警戒は解かない。相手の行動次第だ。とりあえず、ここは二人の会話の行く先を見守るのが吉と考えた。
あまり時間は掛けられない。神領星の増援が来たら状況が荒れてしまうからだ。
「……」
アリスはその者に信頼を置いている模様。こちらもアリスに信頼を置いている。
決して、ダンプはリドリーに心酔しているわけではない。尊敬というレベルの感情。そして、上に立つ者同士の友情だ。
でも、その娘を信じることの理由はそれだけで十分だろう。なにより、洗脳のような魔力の波長も感じられない。脅されていれば表情や仕草に出るし、アリスを知っているからこそここまでの演技ができるわけがないと確信を持って言える。
「信用できる?」
先ほどとは違う、とても優しさに溢れる声色だった。
「それって、どれくらい信用できるの?あの人たちはアリスの知り合い?」
「はい。えっと、子どもの頃から関わりがある方もいるので、本当に助けに来てくれたんだと思います」
「……」
アリスの言葉を耳元で受けた男のその表情は見えない。見えないが、表情以外から内心を曝け出している。
息遣いや体の揺れ、首の振れ。手練れであれば弱みを見せるようなヘマはしない。間違いなく素人。
だが、警戒は緩められなかった。
大きな懸念がまだ残っているのだ。それは、魔力が一切感じられないという謎めいた男だからだ。
死体が多すぎて、濃霧のように溜まった魔力。その中でも、これだけ接近すればアリスの魔力を感じることはできていた。姿を化かすことができても、魔力だけはその人間独自のもの。それぞれに個性があり、他人に偽装することは不可能だ。だからアリスが本物だとはわかっていた。
逆に、仮面の男からは全く魔力を感じられない。
この死体の数々が物語っているように、ダンプの目の前の男は戦い続けていた。だから、魔力をかなり消耗している可能性がある。しかし、仮に魔力を消耗し、初歩的な魔術すら使用できないほどに底を尽かせていたとしても、ゼロになることはあり得ない。
「大丈夫ですよ」
「……」
アリスが友好的だから、ダンプは手を出さない。
目の前の男は、本当に人間なのかも、わからない。いわば、未知の存在だった。
「……わかった」
男は、渋々といった様子ではあったが、遂にアリスの言葉に折れた。
その背からアリスをゆっくりと降ろす所作には、やはり労わり、思いやりが感じられた。
アリスは男から離れようとはせず、その隣に立ってダンプたちと対面する。男が一人になることで、加減なく攻撃を加えられると考えていたりするのだろうか……?
実際、アリスがそちらに立っていることで、男は孤立することなく、厳しい視線を向けられずに済んでいるのは確かだ。
「……」
男は無言でこちらを見ていた。
先ほどまでは、最も接近し、対話しているダンプに対して顔の向きが固定されていた。
しかし、今はゆっくりと、品定めするかのように一人一人、顔と体、装備品、武器等、確認するように顔を動かしていた。仮面が無ければ眼球の動きが見え、更にわかりやすかっただろう。
「……?……ッ!?ちょ……」
「あ……?」
急に、男が慌てふためいた。そして、親に嘘がバレた子供のように、弱く緊張感に包まれた動揺の声を漏らした。
ダンプも、その唐突の変化に対して、思わず厳しめの声を漏らした。ピり付いた空気感をぶち壊す子供らしいリアクションを前に、唖然とし、ペースを壊されたことによるすっきりしない心持ち。
仮面は真っ直ぐ一点に固定されていて、その視線の先をダンプが追ってみると、ジェネド……いや、ジェネドが庇う立ち位置にいることによって、男の意識のうちに入りにくくなっていたゼットだった。
そのゼットも、表情が見えない無機質な注目を受け、居心地悪そうに口を結んだ。
そして、数秒の時間を掛けて心を落ち着かせた男は、
「お前……ゼットだよな?」
男の前で誰も名を呼んだはずがないにも関わらず、確かにゼットを見てゼットの名を呼んでいた。
でたらめでも、当てずっぽうでもない。
「ゼット、知り合いか?」
ダンプは冷静にゼットへ問う。
嫌なことを考えるようになったなと、自身への嫌悪感に近い負の感情を浮かび上がらせつつ、もしかしたらゼットがスパイのような活動を行なっているという最悪を想定した。
もしこの考えが真実だとしたら、どこまで謎の組織に侵入されているのか……と。
「答えろゼット!」
「わ、わからないです!本当に、なんで俺の名前を知ってるのか……!知り合いでもないです。あんな人知りません!」
「……だ、そうだ。お前はどうやってこいつの名前を知ったんだ?」
ダンプたちに敵だと勘違いされる恐怖と、一方的に自分のことを知られている恐怖。ゼットはそんな恐怖から、どうすればいいのかわからず焦りを感じ、困惑して足が固まってしまう。
そして、そんなゼットを見ながら、相手の返答によってはやはり戦闘は避けられないなと、眼球の動きだけで周囲の状態を改めて確認して備えるダンプと、その背後で事の成り行きを静かに見守るビリーブとその他一員。
「なんでって、それは知り合いというか、友達だからで……ぁ」
そこまで言ったところで、男はゆっくりと右手を上げた。
その行為に一瞬警戒したダンプだったが、男の腕の動きは自然なもので、不意打ちを狙った攻撃にしては簡単に目で追えるほどの速度だったため留まる。
実際、目の前の男に攻撃する意思は無かったようで、その手は自身の仮面へと伸びた。
そして……
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