94話──合流3
降り立った場所は、これまでとなんら変わりない通路が続いていた。
ゼットは僅かに息を荒げつつ、本来なら動けないであろうこの体をここまで動かせるようにしてくれているジェルデミアの魔術に心の中で改めて感謝し、遅れて迷惑かけないように気張って走った。
「……ここから先は要注意だ。かなり魔力が濃い。垂れ流され過ぎて、ちょっとした変化も見破れないくらいだ。ミア、魔力の余裕は?」
「そうですね、四割切っているくらいなので、節約したいところです」
「わかった。なら効果が切れるギリギリ辺りで掛け直してもらって構わん」
ゼットは、ダンプの言葉にある真意をパッと読み取れず、なんとか結び付けた考えをハッキリさせたい思いで問いかけた。
「ダンプさん」
「なんだ?」
「垂れ流され過ぎているというのは、初めに言っていた、人が死んだ時のことですか?」
ビリーブが先制攻撃で殺した時に、ダンプが簡単に教えてくれたこと。それを思い出していた。
「そうだ。もしかしたら、俺たち以外の人間が奴らを殺し回っているのかもしれないな」
「俺たち以外……?それってアリス様やセイジが?」
「かもしれないし、そうじゃないかもしれない。他の組織の人間って可能性もある。現状だと判断できないがな」
「……そうですか」
ダンプの回答を受け、ゼットはなんとも言えない表情になる。
前者は最高、後者は最悪。
「……急ぎましょう」
「そうだな」
ゼットは暴れ散らかしたい気持ちを殺し、血の味がする口を閉じた。
その後も、走り、走り、走った結果、聞こえてきたのは戦闘音。
「陣形は変えず、俺の指示を待て。正体を探ってから、対話するかしないか、状況を把握してから合図を出す。いいな」
ダンプの言葉に全員が頷く。
戦闘音は相当激しいもので、複数人が戦っているのだと窺えた。
爆発のような破裂音。それに伴う衝撃がゼットたちの元まで響く。重々しい破壊音も聞こえてくる。岩石が砕かれる音だ。
金属音は聞こえない。刃物を使う者がいないのか、金属音は単純に聞こえにくいのか。他の音に掻き消されているのかもしれない。
耳と肌で感じる度に、心が焦燥感に駆られ、感じていた血の味も薄まっていった。
そして──
「ッ……これはッ……!」
眼前に広がる光景に、ゼットは息を呑んだ。
呼吸を忘れてしまうほどの光景。
それは、人間が再現すること叶わないような年月の蓄積によって、自然が創り出した絶景を見た時に表される表現。
しかし、今回は真逆の意味となる。
無意識の生命活動である呼吸すら忘れるほどの衝撃的な光景。目を疑いたくなる惨劇。
比喩無しに、血溜まりが形成されている。
異形の生物の死体。……否、元々は人間だった、無情に壊された成れの果て。
人間の悪夢が、地獄からも引っ張ってきたものと混ぜ合わせて凝縮した惨状。
対象は同色の布を纏っている。もしくは千切れた破片が血液によりくっついたりしていた。
所々で死体が重なり、一つの新たな生命体のようにも見える。
「ッ……!」
ダンプですら思わず息を呑む光景。
しかし、ここでの戦いは既に終わっていて、この先で続きが行なわれているようだった。
言葉を交わさず、視線だけで示し合わせて続く空間へ足を踏み入れ──
──ドゴォォッ!!
横幅一メートル、高さは二メートルほどの、隣の空間へ続く、扉が無い突き抜けた入口。そこに全員が近付いた瞬間だった。
耳を劈く音に驚き、跳ねる心臓に意識を振り回されながらも、ゼットは反射的に腰の剣の柄に手を当てて、首を左へ振り向かせていた。ゼット以外も同様に、それぞれの戦闘態勢に入っていた。
壁が瓦解し、圧力に耐えきれなくなったダムが決壊したかのように、弾かれた瓦礫が飛ばされていく。
幸いにもゼットたちは射線に入っていなかった。もう少し遅く来ていたら巻き込まれていただろう。
もし巻き込まれても、ジェルデミアがいる限りはダメージを最小限に抑えれていただろうし、ネイビーのおかげで僅かなダメージも回復できていた。しかし、当たらないことに越したことはない。特にジェルデミアの魔力は大切にしなければならないのだから。
「──ッ」
破壊された壁。
それは、なにかしらの魔術の流れ弾が直撃したことによる現象かと、誰もが一瞬は予想した。
しかし、振り向いた視界がその予想が間違いだと、真実を照らしていた。
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