87話──チップは命で3
「死ねよ」
花びらがセイジを穿つ。
足を穿つ。手を穿つ。腕を穿つ。脚を穿つ。腹部を穿つ。胸を穿つ。肩を穿つ。頬を穿つ。瞼を穿つ。おでこを穿つ。太ももと穿つ。くるぶしを穿つ。肘を穿つ。膝を穿つ。へそを穿つ。横腹を穿つ。穿つ。穿つ。穿つ。穿つ。穿────
「……」
花びらによって巻き起こされた煙がセイジが居た場所の周囲を包む。
やがて、空気の流れに沿って段々と右側へ流れていき、濃度が薄まり、セイジの姿は……
「ッ!だから、なんでだよぉーーーーッッ!!」
今の連撃を食らおうとも、セイジは亡霊のようにしつこく立ち上がる。
怒り心頭のワーサーは、認めたくないのだ。
自分ではどう足掻こうともセイジを殺せないことを。
「……」
靴に乗った瓦礫を蹴飛ばし、ワーサーの元に向かう上で邪魔な瓦礫を片手で押し退け、セイジは足を前へ、敵の元まで確実な一歩を。
「……はぁ」
右腕を使わずともセイジからの決定打を与えさせないほどの立ち回り、身体の使い方。それを成せる思考力。それらを超えるにはまだ足りない。
なにが足りないのか。
力では無い。
こうして生きている、セイジ自らの足で動けている時点で十分にスキルで増強されている。その分の痛み、苦しみはアリスを想えば無視できる。
「……次は無い」
次の戦闘で終わりにすると、願いではなく真実を伝える。
足りなかったのは、力ではない。メンタルだ。
十分に身を投げ出す覚悟はしていたが、結局のところアリスと一緒に戻るために生きて勝たなければいけないと心を縛ってしまっていた。相打ちも敗北のうちに入ると、自身の可能性を狭めていた。
必要なのは勇気……無謀さ。防いだり避けたりすることが間違っている。
己を信じる心。始めからスキルを信じて猪突猛進に首を狩る気で戦っていれば、これほど長引かなかった。
「君の攻撃は効きませんよ。一度試したでしょう。君が諦めるまで終わらないんですよ」
「ならさ、なんで初めから使わなかったんだよ。俺が一人目を殺した時点で使ってればこんな冒険する必要無かっただろ」
「ッ……。君をナメて──」
「嘘吐くな!!」
ワーサーの言葉を遮り、セイジは無謀に突っ走った。
「ああもうッ!ふざけんなぁぁ!」
そんなセイジを目にし、ワーサーは自暴自棄に叫んだ。
ワーサーが投げた黒球がセイジの眼前で破裂するも、衝撃と煙を掻き分け突き進む。
ただ、瞳への攻撃だけは本能的にも防ごうとしている。いくら身を犠牲に戦おうとも、暗闇に放り込まれて勝てるわけないと頭も体も理解しているからだ。
ナイフも体で受ける。魔術も真正面から突破する。
泣き言一つ言わずに、足元を爆破されて後ろに戻されても再び命を燃やす。
体に刺さったナイフを右手で引き抜く。返しが付いていて肉が引き千切られるような痛みを感じた。だがセイジは気にすることなくナイフを構えた。
「【グロウ・アイビー】!」
左の壁から生えたツタが、セイジの左腕を絡めとる。がんじがらめに縛り付けようと全身に絡み付こうとするそれを、セイジは力ずくで引き千切り、引き抜いて拘束から逃れた。
その最中にワーサーが投げた注射器が首筋に突き刺さるも、セイジは左手で握り締めて破壊する。針先への流動よりも早く液体が躍る空間の隔てりを壊したことで、体内へ侵入した毒は最小限だった。
「【ロック・テラ】!!」
二人の間に岩壁が出現。
先ほどの繰り返しの展開が繰り広げられるかに見えたが、セイジは速度を緩めずにタックルした。
一度は諦めて迂回した魔術でも、無謀で心を染めたセイジが止まることはない。
衝撃が岩壁に伝わり、次の瞬間には瓦解した魔術の亀裂から互いの視線が交わった。
実際には仮面でワーサーの表情は読み取れない。一方的にセイジが見られているだけだ。しかし、確かに、ワーサーもセイジを視ているのだと、極限の状態にあるセイジの耳がワーサーの息遣いの乱れから感じ取っていた。
魔術が崩れ、セイジの姿が完全に岩壁を通過する。
不意に落下してきた天井の石レンガがセイジの脳天に直撃するも、頭蓋は砕けずレンガが砕けた。
ワーサーが足を掲げて華麗なかかと落としを披露。差し込むタイミングが絶妙で、回避不能の一撃だ。更にはかかとに仕込まれていた暗器が今は晒されている。
無謀と死に急ぎを履き違えてはいけない。
いくらなんでも、先のレンガとは比べ物にならない。
「──ッ!!」
数本の髪と耳を掠めて首の付け根に突き刺さる。打撃と斬撃の二つが同時にセイジを襲い、ナイフに付着していた砂利と毒が体内に侵入。
歯を食いしばり、足を掴んだ。
「うぐぅッ……!」
「無駄だと何度も──」
絶対に逃がさないよう、全力を込めた。
掴んだ足にナイフを突き刺してやろうとするも、それ以上の速度で伸びた花に防がれる。
「何度も──」
セイジの行動を無駄だと否定しようとするワーサーの声を無視し、足を掴んだ左手を全力で振り下ろした。
床に打ち付ける直前で、再び花が伸びてワーサーを保護。優しく受け止め衝撃を吸収した。それと同時にナイフを突き刺そうとしたが、結局赤花に防がれる。
「言った──」
どうしようもなく、ワーサーを自動で守るのならと、セイジは直接足元の花を攻撃した。
両端の側近を先に倒さないと無限に回復したり、バリアが張られていて攻撃が通じないボスキャラがいるゲームをやったことがあったからだ。だから、もしかしたらという希望を乗せた拳だった。
ナイフを握り締めたままの拳が花にぶつかり、根元近くでへし折れた。花が花を防ぐことは無かった。
「──ぁ」
ワーサーが微かな声を漏らした。間抜けで呆けた、騙すつもりで発声したのではなく、心の底から漏れてしまった小さい響きだった。
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