86話──チップは命で2
「【ロト・ブルーム】ッ!」
「──ッ」
ワーサーを中心に広がっていく緑。くるぶし辺りまで急激に成長した雑草は、また急激にくすんで湿っぽく萎れていく。枯れ葉枯れ草にはならず、ただただ茶色く濁り散る。創造された生命の灯が儚くも燃え尽きていく。
空中浮遊できるわけじゃないセイジはどうしようも抗えなくて足をそれに触れさせてしまうが、踏んだだけではなにも起きない。
だが、先ほどの魔術よりも発動速度は遅いだけかもしれないと、セイジは即座に最初の黒みがかった岩へ跳ぶ。
また足場にして横へ飛び、壁を伝って術師であるワーサーを叩こうという考えだった。
魔術を使われるのはセイジにとって非常にキツイ。理解できない領域のものなのに、自由自在に使われてはたまったもんじゃない。ルールも知らない競技の世界大会に唐突に出場されたようなものだ。本来なら無抵抗にやられるしかないものを、スキルの力で強引に突破しているだけ。天才に対して、凡人の才能を引き上げて戦っているだけなのだから。
ワーサーに邪魔をされることなく回り込むことに成功したセイジだったが、黒みがかった岩の裏の光景は目を疑うものだった。
萎れ果てた雑草に対比し、ワーサーの周りには赤色の花々が咲き誇る。他の草から養分を吸いつくした花は大きな花弁を見せびらかすように堂々と咲いていた。
その花は、根を床に這わせたり床下へ根を張るもの。そして、ワーサーの足に絡みついているものがあった。
絡みついている花の根は、萎れて潤って、彩ってくすんでを繰り返す。植物らしからぬポンプのような動きで、ワーサーに養分を送り込んでいるようだった。
「なにをしているッ!」
返答には期待せず、ただ未知の光景に畏怖して疑問を投げる。
「黙って死んでろ!どんな生物だろうと、内部から蝕む毒には勝てないんだよッ!!」
当たり前だが、ワーサーは足元の事象の解説をしない。それどころか好き勝手吐きかける始末だ。
「ぼくを馬鹿にするな!」
ワーサーはその場に留まったまま、隠し持っていたナイフを投げ付けた。
セイジの体は既にナイフの動きを見切ることができるほどに強化されているが、片目を失った弊害により柄の部分を正確に掴める自信は無い。
だから、掴む損ねてしまうよりは刃を直接掴むことも視野に入れた動きで対処した方がいいだろうと、セイジはナイフに手を伸ばした。
「ッ!──しッ」
掴み損ねてしまうも軌道を変えることができた。それにより刃で身体を傷付けられることを避けたセイジは、勢いに闘志を滲ませ拳を握る。
そして一撃。なにもしてこないワーサーの仮面を割って鼻の骨を折ってやるという勢いで拳を振るった。
しかし、急成長した赤い花が拳とワーサーの間に割り込んで攻撃を肩代わり。
花は呆気なく散るも、何故かセイジの腕はおろか全身の勢いが殺され、逆にワーサーにぶつけるはずだったダメージがセイジの体内へと伝わり猛威を発揮。
見た目からは全く想像できない完全反射に、虚を突かれたセイジの隙にワーサー蹴りが刺さる。突き出たかかとの刃がセイジを斬り付け、血液などの体液と触れることで表面に塗られた固形化していた毒が液体化し血管を流れていく。
流れるような動作でナイフも投げられ、蹴りに意識を向けてしまっていたセイジの右肩に深く突き刺さる。
堪えて反撃しようとしたセイジを追い込むように、ワーサーは更に親指と小指でつまめるサイズの黒球を一つ。セイジの胸元に投げ付け──
「【グロウ・ダリア】!」
投げた手をセイジに向けたまま、魔術を唱えた。
「ッ──」
咄嗟にセイジは肩を丸め、腕を交差させて上半身を守ろうとした。それしか猶予がなかった。
まず作動するのは、交差させた腕の外側に位置した右腕に接触した黒球だ。
刺激が加わった瞬間、パンパンに膨らんだ風船に針を刺した時のように破裂。外皮が弾けてセイジに刺さり、一部はワーサーへ飛んでいくも花が自動で術士を守護。
そして、外皮によって強制的に封じ込められていた魔術が炸裂。外皮が弾けた時とは比べ物にならない爆発が起こり、セイジを含む周囲の空間を破壊する。セイジは受け身を取れずに背後の壁に体を打ち付け、更にその壁も背中で破壊して通路へ身を投げ出すことになる。
次に、そんなセイジを追うように放たれたワーサーの魔術、グロウ・ダリアが爆裂。
ワーサーの腕が示している方向に、その足元から急成長した人間の腕ほどの太さのはある茎を持った植物がグングンと伸び、セイジが吹き飛ばされる前に居た場所まで成長した時には少しピンク味のある赤い花が姿を現していた。
花びらの数は200を超えていそうなほどで、ボールのように球状になって咲いているそれは、セイジの体で破壊された壁の直前まで伸びたところで、茎から枝分かれしていた葉が僅かに力を失って萎れた。
萎れた葉がトリガーになったのか、花びらの一つ一つが僅かに発光して真っ赤に変色して根元から弾丸のように発射。
花びらの後ろに回り込まなければ回避は不能。
そもそも、黒球の爆発とグロウ・ダリアはほぼ同時に発動していたため、黒球をまともに食らってしまった時点で、セイジはグロウ・ダリアを回避することは不可能になっていた。
手数の多さで容易く詰められてしまった。
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ちょっとでも続きが気になれば!是非!!




