82話──秘められた力
ワーサーがアリスに向かって走っていく。
その光景を黙って見ていられるわけがない。
だが、この距離ではどう考えても間に合わない。なにかを投げようとしたところで、その方向にはアリスがいる。ワーサーに狙いを定めて投げる余裕もない。
走馬灯のように頭の中を流れていくあらゆる可能性に希望を巡らせる。そして、このままでは無理だと悟る。
だから、
「ワーサー!!」
一か八かの賭けに出ることにした。
名を呼ばれて、僅かに振り向くその頭。
止まらなくてもいい。視界に入れていてくれさえすれば、可能性を掴めるのだから。
「見ろ!!」
掴んだ注射器を、捨てるでもなく投げるでもなく、自らの首に刺した。
「はぁ?」
異常者を見るような目を、アリスの近くで立ち止まり向けてくるワーサー。
これで、第一段階をクリアした。
第二段階は──
「グゥ、ゥ……ふ……!」
毒に耐えることだ。
─────
もしかしたらと初めて思ったのは、ワーサーに鉄扉をぶつけたやった時だった。
自分でも異常だとわかる、故郷だと銃火器を使われない限り無双できるほどの力。
精神的にも高揚感に包まれる謎の力。
そのトリガーの可能性に思考が至った時、これまでの点と点が全て繋がっていった。
初めは、この世界に来てすぐ、あの忌まわしくも、アリスと出会うきっかけになったせいで憎み切れないバブベアーに追われた時だ。
男が言っていた言葉。
『でもまぁ、負傷した状態でバブベアーから逃げた足は褒めてやれるわ。よく助けがくるまで逃げ続けれたもんだなー』
あの時は疑問にすら感じていなかったが、今思えば木々を障害物として利用しようとせず一直線に走っていたというのに逃げれていたことがおかしい。つまりその時点からこの力は始まっていた。
男と話した、妙に頭が冴えていた戦い全てに力が発動していたのだろう。
その力はスキルだろう。今知り得てる情報だと、それ以外に説明がつかない。
そして、その戦いの全てとこのワーサーとの戦いで共通していること。
それが俺のスキルの発動条件。この力を意図的に引き出す方法だ。
一回目のバブベアー戦は、右腕を負傷した。代わりに足が速くなる。
フラワーワーム戦では全身に石粒を撃たれた。頭が冴えたような感覚が強く出た。
二回目のバブベアー戦は腕を引っ掛かれたし、突進されて鈍い痛みもあった。罠の槍が足を貫き、左腕も折れていた。頭も力も強くなった。絶対に殺してやるという意思が芽生えた。
ワーサーに毒を盛られ、もがき苦しんだ。天井まで跳躍してぶら下がったり、小石を投げて鉄扉の目元だけ出せる格子の枠から一人殺した。鉄扉も蹴りで破壊できた。
何度も毒に犯された。岩を砕けたし、イカれた力で投げれた。足も力強くなって、車のような速度で走れた。
近寄ってくる男も、力任せに頭を掴んで押し倒した。殺した。
一度目の人殺しも、二度目の人殺しも、なんとも思わなかった。人としてとか、そういうことはどうでもいいと思った。
体も心も、苦しむと強くなっていた。
苦しみが強くなれば強くなるほどに、比例して力も向上していった。
それだけでじゃない。
思えばこの世界に来てからの怪我の治りが早かった。ワーサーが毒の効き目に疑問を持っていた。
それも、スキルの力なのだろう。
苦しむことをトリガーに強くなる。それが俺の結論だ。
ただ苦しむだけでは死が近くなりリスクがリターンに見合わない。だが、ご丁寧なことにこのスキルは体を多少頑丈にしてくれている。
しかも死に近付けば近付くほど、本当の死から遠ざけるように再生能力を上げてくる。
だったら少しの苦しみで強くしてくれと思うが、報いなのだと思えば納得がいく。
理想を叶えるには代償が付き物だ。
アリスを救えるなら、目玉の一つくらいどうってことない。
俺の苦しみが糧となるのなら、全てを捧げてやる。
永遠に苦しみ続けようが、なにもかも無になろうが関係ない。俺は俺の願いのために、俺を犠牲にする。
覚悟があるか正直に答えろと聞かれたら、無いと言うしかない。もちろん怖い。今すぐにでも逃げ出したい。だがそれは、俺だけしか関係してない場合に限る思考だ。
……覚悟が無くても、俺は守らなければいけない。救わなければいけない。
最も大切な者すら守れず、失って、そんな人生に意味などあるのか?
否。
断じて否だ。
この手から全てが零れ落ちた時、それは既に死んだも同然。生きる価値を失えば、生きていてなにになる?
辛うじて残るものは、空虚な人生。そして、有り余る後悔だ。
ならば、どの道死ぬのであれば、この命を燃やしても、尽かせても、
俺の人生を懸けて、君を守り抜く。
それがこの世界で志した、たった一つの生き様だ──
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