80話──行方
「ッ──!!」
「なんとッ!?」
急接近するゼットに驚きと感嘆混じりの声を上げる巨漢だったが、その眼は些細な変化を捉えていた。
「お前は戦士だッ!!」
巨漢はゼットに、自分なりの最高峰の称賛を送る。
そして足から床に魔力を流し、何度も発動させてきた岩の魔術で、ゼットを左右から挟む込む。更に巨漢自身の背後に大きな壁を作り出し、ジェルデミアの視界から逃れてゼットに集中できるようにした。
直接狙わないのは、確実性に欠けるからだ。最も信じられるのは鍛え上げてきた自らの肉体。まだ全力を出せる右拳。
「お前だけならァッ!」
巨漢の眼が見たのは、僅かに引き攣るゼットの頬。これまでの反応とは明らかに違う。反射的に、生理的に動いてしまった筋肉だ。
巨漢は度重なる攻防の中で、防御魔術のようななにかが働いていることに気付いていた。
だからこそゼットの反応から自爆による痛みを感じていることを察知し、ここをゼットとの最終局面にするべきだと判断したのだ。
「【コンプレス・バーン】!」
再度作られるコンプレス・バーン。これは加速するためなのか、はたまた攻撃するためなのか。
「関係無いッ!!」
巨漢はコンプレス・バーンが放たれるよりも先にゼットを倒してしまえばいいと結論付けた。
互いに向かい合って走ることでその距離は急激に縮まる。圧倒的な体格差はあるものの、棍棒と左手を失った巨漢が劣勢か。
しかし、物は使いよう。
ゼットの振り下ろされた剣に対し、自ら左腕を差し出した。前腕の肉を断たれるも、巨漢の堅牢な骨で動きを止められる。
ゼットに劣らない覚悟を決めた行動だった。左手を失った時に大体のゼットの力と刃の切れ味はわかっていたものの、自らの骨の強度の限界なんて実際に確かめたことが無い。知っているのなら既に五体満足なわけないのだから。
だが巨漢は賭けとも言えるその行為を実行し、そしてその賭けに勝った。
時間を掛けられれば腕も切り落とされるだろう。しかし、ここでゼットを殺すと決めた巨漢にとっては、一瞬動きを止めることができるだけでいいのだ。
「逝ねィッ!!」
男の拳が振り抜かれ、ゼットの腹部を穿った。
崩落による負傷とコンプレス・バーンによる自爆によって最悪な状態になっていたゼットの体が耐えられるはずもない。
「かはッ……!」
ゼットの全身から上げられていた悲鳴が、ぷつりと途切れる。
致命的な打撃だった。
反対側の壁まで一度も床に着くことなく、弛緩した手足を投げ出し飛んでいく。鈍器で叩いたような音でゼットの体が壁にぶち当たり、そのまま受け身を取る気配もなく床に倒れ落ちた。
手足をだらりと投げ出して無防備に倒れるゼット。うつ伏せでその顔は見えないが、内臓の破壊により吐血しているのだろう。頭の周辺に血が流れ出していた。
僅かにぴくぴくと指先が痙攣している。それはゼットの意思なのか、それともただの肉体の反応なのか。
まるで、命の終わりを表す最後の灯のようであり、死を否定するゼットの抵抗のようだった。
「オレ様の勝ち──」
直後。巨漢の背後で破裂するゼットの魔術。
「──な!?」
後頭部に熱が伝わる。だが火傷するほどではなく、衝撃波も巨漢の脳を揺らさない。
命を賭した攻撃はその程度だったのか?
などと、ゼットを侮る人間はここにはいない。
「ありがとうございます。ゼット君」
音に振り向く巨漢の視界の中心に、静かな視線を突き刺してくるジェルデミアが佇んでいた。そして、火球だった五つのそれは、いつの間にか青くなり、矢のような形状に変わっていた。
巨漢はゼットを殺す気でいた。
しかし、ゼットは巨漢を殺すではなかった。ジェルデミアへとバトンを繋ぐために、その身を犠牲にして敵意を引いていた。
コンプレス・バーンも、ジェルデミアからの射線を通すため。
ただ、ジェルデミアを信じて戦っていた。
「──そうか」
戦士は最後まで戦うものだ。
だが、無意味に抗って醜態を晒すことはしない。
潔い心もまた、戦士が持つ清き魂の一つ。
「【殞焔】」
耳に浸透する静かな詠唱。
それがジェルデミアの口で紡がれた瞬間、最高峰の火の魔術が巨漢へと牙を向く。
空気を切り裂き突き進む蒼炎の矢は、一寸の狂いもなく、標的に一切の行動も許さない。
──ピュゴォ!!
巨漢の耳に風切り音が届いた時には、既に身体を矢が貫いていた。
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