79話──共闘2
巨漢が驚くのも無理はない。
何故なら、棍棒が飛んで行った先の空間が氷で埋め尽くされたからだ。隙間なくぴっちりと敷き詰められた氷は、棍棒を物理的に届かせないように保存させる。
巨漢が岩槍で破壊しようにも、空気一つ含まれていない氷の自体の強度と、巨大かつ氷自体の逃げ場が無いことが悪さして、亀裂が入るだけになってしまっていた。
だが、今の巨漢に驚いている暇も、丁寧に氷を除去する暇もない。
「はあぁッ!!」
赤熱した剣を構えるゼットを無視できないからだ。
棍棒を諦め、沈められた足を引き出すことに魔術を使用。周囲の障害を取り除き、眼前に迫るゼットへ拳を振り抜いた。
「俺はッ!」
「なぬゥ!?」
拳と剣がぶつかり合った時、驚くことに巨漢の拳が焼き斬られた。
表皮が焼け焦げ、皮膚を断ち、肉に達していた。血管も分断されるが、剣から発される熱により焼灼止血されることで血の流出は無かった。
だが、通常の刃物で傷付けられる以上の激痛が巨漢に降り掛かる。
「グゥ……ッ!」
刀身は骨に遮られて止まるが、その間にも巨漢の拳は焼けていく。そして歯止めになっていた骨も、圧倒的な熱量を受けて脆くなっていく。
「こんなところで終われない!!」
「ああアッ!」
拳を引いて自身にゼットを近付かせた巨漢は、もう片方の拳でゼットの手を殴った。
体を狙うより手を狙うことで確実にその武器を取り除こうと思ったからだ。
だが、ゼットに当てたはずの拳に伝わったのは、水を殴ったかのような掴みどころのない感覚だった。
「うわッ!!」
ゼットは数メートル飛ぶも、剣を落とさず怪我も無い。
「お前かァ」
指を振って削られたゼットの防御魔術を掛け直し、それから熱傷を煽るように三指で五つの火球を空中に作り出すジェルデミア。
「先ほども即座に鎮火していたのと、今の焦り具合。どうやら他と比べて炎への耐性はそこまでのようですね」
「あァ」
巨漢は図星を突かれ、にやけた。
「強い戦士二人がこれほど厄介だとは!!」
「まだまだーッ!!【ファイアーロック】!」
巨漢の周囲を取り囲む炎。見た目は派手だが拘束力は薄い。しかし周囲の温度を急激に高めていく。
ジェルデミアは離れたところで、右腕をスナイパーライフルに見立てたような感じに構えていた。
体を横に向け、右肩を頬に付ける。
左手は真っ直ぐ伸ばされた右腕の二の腕を下から支える。
左目を完全に閉じ、右瞼も僅かに狭め、視線と右腕の一直線上に巨漢の姿をロックオン。
緊張感を漂わせるその佇まい。
呼吸による些細な揺れすら邪魔だと、体内に残る酸素のみで極限まで集中力を上げていた。
「んだァ……?」
狙いを定められている巨漢からしたら不気味でしかない行為。しかし放置はマズいと巨漢の本能が警笛を鳴らしている。
見る限り、タイマンで使用しなかったのは、発動までに時間が掛かるからだろう。
そして、今発動させようとしているのは、ゼットに対処を任せ、生み出してもらった時間を費やしてまでも練成する価値のある技だから?
巨漢は武器が手元にないことを悔やみながらも、魔術を発動させ──
「俺を忘れるなッ!!」
「──うおオォ!!」
ゼットに背を向ける選択を取った巨漢に、炎の中から現れたゼットが刺突。
巨漢の反応速度と身体能力が僅かに上回り、左手で刀身を握り締めることで身体への攻撃を防いだ。
だが、赤熱した刀身を握り締めてなんともないのはゴーレムくらいだ。
手からはジューッと焼ける音が鳴り、握って固定しようにも、熱と刺激が筋肉を硬直させ、縮み込む。
一瞬のうちに深部組織までもが損傷し、握り砕くことも放すこともできなくなっていた。
「あついィ!!」
巨漢は掴んだ左手を高く上げた。
両手で剣を持っていたゼットは釣られて腕が上がり、胴をがら空きにしてしまう。そこに巨漢の膝蹴りが直撃するも、防御魔術のおかげで無事だ。
再び吹っ飛ばされるゼットに対し、巨漢は後悔した。
ポトリ、コロリと床に落ちるのは巨漢の左指。
赤熱した刀身を焼かれた手で無理に持ち上げ、そして握ったまま持ち主を自分のパワーで飛ばしたのだ。脆くなった指が引き斬られて落ちるのは当然のこと。
巨漢は強者との戦いへの笑みと、取り返しのつかないダメージを負った苦しみへの唇の震え。傍から見れば感情が読めない表情を浮かべる。
「うぅ……ッ」
回避に専念しなかったのは、心のどこかで己に対する圧倒的な自信と、大人になりたてのようなゼットを下に見る気持ちがあったからだ。
馬鹿にする心は無かった。だが、これまでの人生で戦ってきたものよりも、魔術使いのジェルデミアよりも強者ではないだろうと見定めていた。
確かにゼットは強者ではない。
だが、誰にも負けないほどの怖気づかない精神力を備えていた。巨漢に誤算があるとすれば、それを見破れなかったことだろう。
「これは」
ファイアーロックによる炎は床から立ち昇っている。だから巨漢はその炎の上に、ジェルデミアがして見せたように魔術で足場の橋を架けることで一切触れることなく通過。
そしてジェルデミアへ突貫する。
今はゼットよりもジェルデミアをどうにかしなければならないのだ。なのに、
「【コンプレス・バーン】!」
ゼットの脅威は去らない。
距離を離した今であれば、全力で走る巨漢にゼットが追いつけるわけがなかった。
しかしゼットはコンプレス・バーンを巨漢に撃つのではなく自分自身の足元に撃ち、それが床に接触する寸前で飛び越えた。
ゼットの背後で破裂した炎は、その体を前方へ進ませる手助けをする。
内臓まで浸透する衝撃はジェルデミアの防御魔術が防いでくれるだろうと思っていても、普通は実行できないことをゼットはやってのけたのだ。
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