78話──共闘
剣を抜き、怒りに支配されたゼットの姿があった。
「俺も戦う。戦わせてください」
「いい。戦士は歓迎する。存分にオレ様と戦うといい」
「……俺は、お前と違って人殺しをしたことがないんです」
「だが戦士だ。手加減はしない」
完全に標的を変更した巨漢は、身体をゼットに向けて棍棒を構えた。
「待ってください!」
「どうした?お前もまだ死なないか?戦士か?」
「そうですよ。私はまだ戦えます。ゼット君!君には私が攻撃を受けたらと言いましたが、あれは撤回します!」
自身に防御魔術を掛け直し、破壊された肉体のダメージを無視して立ち上がるジェルデミア。
「なんでですかッ!?俺だって──」
「君では勝てません!死にに行くようなものです!」
嘆きに近い声色でゼットを心配する。
今日出会ったばかりの人間にここまで感情を剥き出しにできるだろうか。
民を救う立場にあるジェルデミアだが、ここに他の視線は無い。わざわざ見栄を張って人情に長けた行ないをする必要は皆無だ。
巨漢だって気にしない。巨漢にとっては平民だとか、貴族だとか、敵も味方も関係ない。
戦士か否か。それだけだ。
「死にに行く!?それはイアさんも同じじゃないですか!その人の思い通りにされてたじゃないですか!イアさんが勝てる証拠があるって言うんですか!?」
「私はまだ死んでいない。それが証拠ですよ!」
痴話喧嘩のように、しかし生死が懸かっている本性を曝け出した会話。
「イアさん一人より俺も一緒に戦った方がどう考えてもマシな結果になります!」
「足手まといになる気ですか!?」
「本気でそうは思ってない癖に、適当言ってんじゃないですって!」
「ならあの崩落で私が助けなくても生きていられたとでも言うんですか!?」
「そんなこと言ってないです!」
話は平行線。
互いの意見が衝突する。相手のことを心配し合っている二人なのだから、どちらも意思を曲げることは無い。
「……どれくらい掛かるんだ?」
待たされた巨漢が間に入る。
「お時間頂けるのであれば、どうかもう少しの間待っていて欲しい。待ちきれないのであれば私と──」
「もう終わったッ!!」
表面張力ギリギリで零れずにいたゼットの心が、遂に我慢の限界を迎えた。
「待ちなさい!」
ジェルデミアの制止を無視し、ゼットは剣を片手に魔術を唱えた。
「【エフェクト・ファイアー】【コンプレス・バーン】!」
剣に影響を及ぼさない炎を纏わせ、頭上に小さな火球を生み出す。
培ってきた力を余すことなく発揮させ、ゼットは巨漢を仕留めにかかる。
目的は友人を助けること。
そして、その友人の恋人も助け、ゼット自身もジェルデミアも、どこかで戦っているであろうダンプ、ビリーブ、ネイビー、ジェネドの四人も、全員が生きたまま帰る。
全てゼットの無責任な願望だった。
その頑固たる気持ちは叶うまで止められず、止める行為自体が恥ずべき行為だと思えるほどに強い。
──汝、隣人を愛せよ。
ゼットの行動はまさに、その言葉を体現していた。
「あーもう、死んだら起こりますからね!」
制止を諦め、ジェルデミアは共闘を許した。
負担は増えるが、手数が増えるのも確かなことだ。
念のために、指を振ってゼットに防御魔術を掛け直すと、少しでも注意散漫にさせようとジェルデミアも再び巨漢へと走り、五指の刃を顔に放った。
「いいぞォ」
ジェルデミアの攻撃は間に棍棒を差し込まれて防がれた。
「ッ……!」
だが、それを見て嬉しそうな顔をするゼット。
奇襲しようとしていたら簡単にバレてしまっていたのではないかと考えるも、戦いに関係無い邪念として、ジェルデミアは意識を切り替えた。
「来い!楽しませろォッ!!」
巨漢は裸足で床を踏みしめる。
それとほぼ同時に、走り続けるゼットに遅れたコンプレス・バーンが発射された。
巨漢の魔術が地中を通り、ゼットの魔術が空中を奔る。
知覚できるのはゼットの魔術のみ。ゼットが観戦している時に巨漢の無詠唱魔術の条件に気付いていない限り、まともに食らってしまうだろう。
だからジェルデミアはそれよりも先に、ゼットの足元を指差し、弧を書いて巨漢の元まで空中をなぞる。
途端形成される足場。
平らな地面を疾走するために足を動かしていたゼットは、即座に足場を活用できず、躓いてしまう。が、転倒はせずに手を付いて、完走直前のマラソン選手のように死に物狂いで立て直して登った。
ゼットは巨漢の魔術に気付いていなかった。だが、この灰色の足場がジェルデミアの支援だとわかっていた。ならば従う以外の道は無い。
ジェルデミアが無意味なことをしないと信じているから。
足場を走るゼットの真下で巨漢の魔術が発動する。しかし一直線に伸びる岩槍は、地面と離れた位置かつ足場が障害物となったことで若干のラグが発生し、ゼットには届かない。
ゼットを越えた火球は正確に巨漢へと迫る。
巨漢は避けようと膝を曲げたが、
「む!?」
底なし沼にハマったかのように足が沈んでいく。
巨漢に対してそれを成せるのはこの場にただ一人だ。
「くゥ!」
仕方なく火球を棍棒で防ごうをした巨漢だが、棍棒と接触した瞬間にその火球は破裂。
車のタイヤがパンクした時のように、火球に込められていた圧力が解放されて、熱と共に棍棒を弾き返した。
すんでのところで棍棒を取り落とさなかった巨漢だったが、
──パチン。
と、ジェルデミアが指を鳴らした瞬間に、再度棍棒に衝撃が加わる。丁度、ジェルデミアが五指の刃を当てた場所だった。
それが決定打となり、巨漢の手から棍棒が飛んでいく。
「凄いッ!だが──」
巨漢は魔力を巡らせて、棍棒の軌道の先に魔術を発動させる。
棍棒にぶつけることで手元まで飛ばそうとしていた。
「二度は見逃しません!」
「なんだァ!?」
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