77話──闘志
「続きダッ!」
拳で床を破壊。
砕けた中でも特に大きい破片を両手に、ジェルデミアへと駆けた。
一指の下方からの突き上げを微かな音を察知して避ける。片足に力を入れて横へ飛び、足を広げて股の間を通し、場合によっては蹴り砕く。
二指の氷柱は隆々とした腕で側面を叩いて弾く。いくつか逃してしまうも、その皮膚を打ち破られることはない。
三指で放たれた炎は、五指で放たれる風の刃よりも弾速が遅い。巨漢は余裕を持って回避していく。
五指の刃で路を断たれ、炎で追い込まれる。しかし巨漢は手に持っていた破片を先に投げてぶつけることで、体に纏わり付く炎を防いだ。
そうして巨漢はジェルデミアに接近し、引き絞った全力の拳を叩き込んだ。
しかしジェルデミアは左手であっさりと受け止める。
「ならばッ!」
巨漢は腕に力を入れたまま、残る左腕を肩から動かしジェルデミアの右腕を狙う。
するとジェルデミアは頬を硬くし、左手で巨漢の右拳を抑えつつ半回転して体を逸らし間一髪攻撃を避けた。しかし出遅れた衣服の一部が、ナイフを使われたかようにバッサリと切れた。
紙一重で避けたジェルデミアは、冷静に巨漢の次の行動を予測する。
しかし巨漢は既に、ジェルデミアを詰める道筋を構築していたのだろう。
迷いや戸惑いの無い、ノータイムで繰り出される巨漢の蹴り。ジェルデミアが気付いた時には後方へ振り上げられていて、それが大きくしなって地面に突き刺さる。
砂場で作った砂山を蹴ったように、軽々と灰色の床が散弾となりジェルデミアを襲う。
「ッ──!」
ジェルデミアは人差し指で床を操り壁にしようとした。だが、生成速度を弾速が上回っていて間に合わない。
刹那、ジェルデミアは苦渋の判断で、左手に展開していた物理攻撃無効化のバリアのルールを書き換える。
効果範囲を手のひらの前方の小円に限ることでダメージや衝撃を無効化するまで昇華させていたが、そのままの範囲では巨漢の拳と灰の散弾を同時に防ぐことができず、確実にその身に受けてしまうだろう。
だからジェルデミアは効果力を低下させ、代わりに範囲を拡大。巨漢の拳から、当たり得る散弾の端まで扇状にバリアを再展開した。
それにより、散弾はバリアを突破してきたが急激に速度が落ちてジェルデミアに当たることなく落下した。
しかし拳は、バリアを突き抜けた後もほとんど速度を落とさない。
更に、巨漢が履いていたはずの茶色い靴が、落ちる散弾を掻い潜ってジェルデミアの視界に現れた。それは一直線にジェルデミアの喉元に刺さる軌道であり、偶然の産物ではないことを物語っている。
子供がブランコで行なう遊びと一つである靴飛ばしの要領で脱ぎ飛ばされたその靴も、バリアを通過すれば灰色の散弾と同様に落下していくだろうと推測したジェルデミアだったが、突き抜けた靴の速度は僅かに低下するのみ。
何故だと思うも束の間だ。ジェルデミアは咄嗟に二指で目の前に氷柱を生み出すも、飴細工のように簡単に砕け散る。
まるでスラッグ弾だ。
「ッ──」
これは無理だ。
丁寧に丁寧に退路を断たれ、繰り出す手を更に大きな手で封じられた。
相性が悪かったという言い訳はできる。
だが、巨漢が誇りを持つように、ジェルデミアにもジェルデミアなりの誇りがある。
詰みの状態まで持っていかれたのは、他でもないジェルデミア自身の失態だ。巨漢がジェルデミアの想定を遥かに上回った。侮っていたわけではないが、そう言われても仕方ない。
靴には鉄板のようなものが仕込まれているのだろう。それを巨漢の脚力で飛ばしたからこそ、ジェルデミアのバリアで対処できない威力になっていたと思われる。
棍棒の耐久力も相当のものだ。
棍棒は刀のような操り手の技術が切れ味へと直通する武器とは違い、力任せに振り回される。そのため、耐久力が攻撃力に直通し、もし棍棒の耐久力を超える力で扱ってしまえば武器を失ってしまう。
巨漢が遠慮せず振り回しているのだから、ただの鈍器では無い。魔道具かなにか、特殊な武器である可能性が高い。
魔術も馬鹿にならない。発動のトリガーは違えど、ジェルデミアと同様に無詠唱で撃てているからだ。
ジェルデミアが巨漢にまだ見せていない魔術があるように、巨漢も土属性以外の魔術を隠し持っているかもしれない。
これまでの魔術が全て地面や壁に直接触れている状態で発動していたことから、ジェルデミアのように遠隔操作はできないのだろう。
……
巨漢の右拳をバリアで僅かに威力減衰させ、ジェルデミアは左手で直接対処する。拳と拳のぶつかり合いだ。ここで遂に、ジェルデミアに掛けられていた防御魔術が発動する。
喉に靴のつま先が突き刺さる。予想通り安全靴のように鉄板が入っていた。防御魔術が発動するもそのダメージ量を受け止めきれず破壊される。ハンマーで潰された痛みと泥沼に溺れたような苦しみがジェルデミアに降りかかった。
「ゥッ──!!」
首から後ろに引っ張られるようにして、ジェルデミアの体が巨漢から飛ばされる。
ジェルデミアはその最中でも、与えられた慣性を利用して距離を取りつつ、追撃に備えて再度防御魔術を展開しようと考えた。
だが、やはり巨漢が一枚上手。
指を振るよりも先に、ジェルデミアの体が逆くの字に曲がった。
離れたところに転がっていたはずの棍棒がジェルデミアの背中にめり込んだことが原因だ。
「ごほ──ッ!?」
目を白黒とさせるジェルデミア。その顔から初めて余裕が失われてた瞬間だった。
そして、巨漢の元まで再び戻されたジェルデミアの顔面に拳が叩き込まれる。
「だあッ!」
「──!」
豪撃を食らい声を出せずに吹っ飛ばされる。
ジェルデミアの体はその後、地面に何度もバウンドして最終的に背を壁に打ち付けることで止まった。
「……こほ、こほ……ッ!」
横になったジェルデミアの視界に、棍棒を拾う巨漢の姿が映った。だが腕を立てて戦う姿勢になるジェルデミアに追撃を加える気は無く、顔はそっぽを向いている。
視線の先には──
「ッ……!」
「お前も戦士か?」
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