75話──対話、対立
巨漢は一度肘を曲げ、反発を付けて体を起こす。そのまま腰を戻すことはせず、再び手を地面に接触させた。
すると、硬い物と硬い物がぶつかり合う重く甲高い音が鳴り、かと思えば、バンッと爆発のような音と振動が周囲に発生。
ゼットは身を低くして振動に耐え、ジェルデミアは巨漢の近くと自身の周りに隈なく目を向け異変を探した。
「方法は沢山だッ!」
異変はすぐに訪れた。
二度防がれた岩槍が、今度は無数にジェルデミアに迫る。上下左右、ハリネズミをひっくり返したかのような針山が、ジェルデミアを串刺しにしようと伸びる。
しかしどれもこれも、ジェルデミアの左手に近付いたところから消えていく。
ジェルデミアは体を丸めて左手をお腹に抱えることで、全身が左手に近付くようにしていた。
「……ッな!」
ところがジェルデミアは驚愕し、体を逸らしつつ右手人差し指を振り降ろした。
下方から伸びた一際不格好な岩槍。それが球状の内部に侵入してきたからだ。
咄嗟に体を逸らして天井から迎え撃つ岩槍を放ったことで難を逃れることはできたが、ジェルデミアは更なる追撃を恐れ、一度その場から距離を取った。
「そう来ましたか。削り出して押し上げた、というところですかね」
「魔術消されるなら地形使えばいい。そしてお前は避けた。当たりの反応だ」
「……そう甘くは無いですよね」
「オレ様は甘くない。そうだ。あーー……旨くありたいな」
「と、言いますと?」
今まで以上の強敵。倒せなくても、ここで時間稼ぎをするだけでもダンプたちの手助けになるだろうと考えていたジェルデミアは、巨漢の反応から一縷の可能性を感じて再び会話を試みた。
「……オレ様と戦って楽しいと感じてもらえる。それって嬉しいことだろ?オレ様はそれを望んでいる」
「それと旨いにどのような関係があるんですか?」
「旨いものを食べると嬉しい。わかるだろ?」
「わかりますよ」
「そう。だからオレ様は旨い方がいい」
「貴方の言い分はわかりましたが、甘いものも食べると嬉しいんじゃないですか?」
「…………確かにそうだ。嬉しい。……ならどっちでもオレ様は嬉しい」
巨漢は、転がっていた棍棒を拾い直した。しかし、持ち手を逆向きに掴んで先端を地面に付け、杖のように扱った。
「……付いてこい。お前はいい奴そうだ」
「戦わないということでしょか」
「違う。やっぱり心置きなく戦いたい。もっと広い戦場に案内する」
「……」
「疑う気持ちはわかる。でも俺は戦士だ。嘘は言わない。わかるだろ?戦士なんだ」
「……」
「あまり時間はあげられない。そういう命令を受けている。お前が望むなら戦場までこれを渡してもいい」
棍棒を付近の岩壁に立て掛けてどうにか意思を伝えようとする巨漢。騙されれば武器を奪われてそのまま攻撃されるだけだというのに、なぜそこまでして戦いに固執するのか。
「……いいでしょう。貴方の武器は貴方が持っていて構いません。ですがいくつか質問させてください」
「お前がそれでいいなら話す」
「後ろのお前も着いてくるといい。お前は歩きながら聞くといい」
ゼットとジェルデミアそれぞれに告げると、男は棍棒片手に踵を返した。
巨漢────────ジェルデミア──ゼットの距離感を保ちつつ真っ直ぐな道を進んでいく。
「貴方は、神領星の人間ですか?」
先ほど聞けなかった質問を再び投げかける。
「難しい。わからない。神領星がオレ様を助けてくれた。だからオレ様は言われた通り戦う」
「仲間ではないと?」
「……難しい」
巨漢の声色は騙そうとしているようには感じられない。本当に悩んで絞り出した、難しいだった。
「ありがとうございます。では、貴方が助けられたのはいつのことですか?」
「いつ。……何年も前だ。十年は経ったかもだ。オレ様は……オーガと人間の血がある。子供の頃に父から聞いた。もう人間の血がほどんどだと言っていた。オーガの血は薄いと」
「じゃあその肉体は」
「オーガの血のおかげだろう。人間は……酷い。差別ばかりする。貶めることが好きだ。わかるだろ?でも神領星は俺を受け入れた。助けてくれた。だからオレ様はここにいる。戦士として認めてくれている。オレ様は望まれている」
「神領星がなにをしようとしているのか知っていますか?」
「知らない。知らなくていいと言われてる。それにだ。なにをしてようがオレ様には関係ない。恩を返すだけだ。わかるだろ?仇で返すのは戦士じゃない!」
ジェルデミアと巨漢の会話を後ろからただ聞くだけのゼット。
「……」
巨漢の言葉を聞いて、ゼットの心は揺らいでいた。
二人が戦わない道もあるではないかと。キチンと話し合えば分かり合えるのではないかと。
しかし、決定権はジェルデミアと巨漢にある。ゼットの気安い考えで、巨漢の信念を曲げさせようとすれば逆鱗に触れる可能性だってある。
「よくわかりました。では、人殺しの経験は?」
「もちろんある。この体が証拠だ。沢山戦ってきた。その分沢山殺してきた。わかるだろ?負けたらオレ様はここにいない。勝ったからオレ様はここにいる。お前と話ができる」
「そうですよね」
「でも勘違いするな。オレ様は戦士としか戦ってない。戦士しか殺してない。戦士じゃない奴はオレ様は殺さない。絶対にだ!」
足を止めて振り返った巨漢の顔には怒気が滲んでいた。
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