74話──邂逅3
ジェルデミアと巨漢の距離が、棍棒の先端が当たるまで縮まった時。
当然の如く巨漢は棍棒でジェルデミアを攻撃した。上から叩きつけるのではなく、範囲重視の横なぎだ。
ジェルデミアは跳躍することでそれを悠々と回避。
しかし巨漢は、その回避を読んでいたと言わんばかりのタイミングで、左手に長槍を掴んでいた。ジェルデミアを倒すつもりの攻撃ではなく、追い込むための手順の一つだと。
長槍は酷く不格好。まるで即席で作った簡易的な武器だった。
「逝ねぃ!」
ジェルデミアの顔を貫かんと迫る長槍は……切り傷一つ付けられぬまま、前に出された左手に近付いたところから消滅していった。
「ぁあ!?ダぁーッ!!」
目の前の事象が理解できず、男は右から左へ横なぎにしたままの棍棒を切り返してジェルデミアを狙う。
斜め下からのそれに対し、ジェルデミアは男の足元を指差す。そしてクイっと指を曲げて上を向ける。
「むぅあ!?」
棍棒はジェルデミアの頭頂部スレスレを通って天井へ突き刺さる。何度も続く想定外に、巨漢は目を開いて驚きの声を漏らす。
巨漢の体が左に傾いていた。しかも腰あたりから曲げているのではなく、つま先から頭の先までが傾いている。
左足の位置が高くなっているのだ。膝を曲げて高くしているのではなく、地面が盛り土されたように上がって、巨漢の意思関係なく強制的に持ち上げられていた。
もちろんのこと、それはジェルデミアの仕業だ。
初弾を盾を作って防いだ時のように、巨漢の足元を変形させ、ジェルデミア自身が回避するのではなく巨漢の姿勢を変えることで本来直撃するはずだった攻撃を避けたのだ。
ジェルデミアはそれだけに満足せず、体が傾いた状態で棍棒を振り切ったせいで姿勢を崩した巨漢へ反撃する。
写真を撮る時のピーズの、人差し指と中指をくっつけた版の形にした右手を巨漢へ向けた。
指先に光が収縮し、物体が形成されていく。入り込んだ光が屈折して外へ出ていくそれは、殺意の塊のような尖った形状をしている氷柱だ。
宙に浮いたままの僅かな時間で、魔術により形成された使い捨ての武器。
「広い!」
回避できない状態であるにも関わらず、巨漢の声は明るい。簡単に出し抜かれたことを喜んでいるまであった。
そして、放たれた氷柱は巨漢の首の動きだけの頭突きで破壊された。
額は少し赤くなるだけで、傷を付けることはできていなかった。
「生っちょろい!!脆い!この痛み。凡に才が少し生えただけだッ!!」
「わかってますよ」
隙を見て棍棒の射程外へ離れたジェルデミア。
「仕事柄、嫌というほど実感します。自信はありますが、一点特化なせいで痒いところに届かないことばかりです」
「そうか!オレ様はそんなん思わん!思ったことない。わかるだろ?だってオレ様は強いんだ!な?強いから偉いんだ。偉いのは凄いんだ。強いのは凄いッ!!」
「そーですか」
「だからッ!オレ様が勝つ!」
巨漢は壁面に手のひらを押し当てる。
「……ぬぅ」
離れたジェルデミアの側方の壁から岩石の槍が飛び出たが、体を貫くことなく消えた。
「お前魔術効かないのか?」
「どうでしょか」
「効かないのか……。残念だァ」
巨漢はしょんぼりと肩を落とし、棍棒からも手を離し、膝と手を地面につける。
「でもオレ様思い付いたぞ。後ろのお前はもっと下がるといい。戦わないなら危ない」
「……!?」
突然声を掛けられたゼットは口を開いて驚く。矛先を向けられたのではなく、注意喚起してくれたこともよくわからない。
ジェルデミアもまた、巨漢に対して訝しむような視線を向けていた。
「知ってるか?戦い方は関係無い。戦う奴はみな戦士だ。戦士は死んでも文句を言っては駄目。意思で戦士の道に進んだからだ」
「否定はしませんね」
「だろう?戦士じゃない奴は違う。わかるだろ?な?だって戦士じゃないんだ。保護しなくてはならない。戦士の義務だ。誇りだ!!……わかるだろ?」
「えぇ。そうですね」
「だから下がるんだァ」
巨漢は再び後退を促す。
「イアさん、俺はどうすれば」
「ここは素直に従いましょう。下がっていいですよ」
「……わかりました」
ゼットはもしもに備えてこれ以上離れたくなかったが、ジェルデミアに言われれば従うしかない。苦渋の決断だ。
ただ、先の攻防を見て容易く入り込めるものでもないとはわかっていた。そして巨漢の考え通りなら、ゼットが近付くか攻撃すれば戦士と認め、標的に選ばれるわけだ。
ジェルデミアからは自身が攻撃を受けたらと言われたから、参戦のタイミングは別の指示を受けるまでは変えられない。
だから、少なくとも戦士になるやり方やその立ち位置は見極めなければならない。
「ここでいいですか」
「いい」
手と膝を付けたままの巨漢は、ゼットを保護する対象だと認め、ジェルデミアへ視線を戻す。
「戦いに戻ろうぞ。いいか?」
「構いません」
「そうかァ!!」
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