73話──邂逅2
ジェルデミアの言葉からは緊張が漏れ出ていた。その表情からも芳しくない状況なのだと窺える。
「俺はどう動けばいいんですか」
今度こそ下手なことをしてしまわないよう、ゼットは自ら指示を求めた。
「いいですかゼット君。あの体が見掛け倒しのものであれば私だけで対処します。ですが、もしダンプさんたちと同格の相手であれば、私に並んで戦闘に参加してください。そして、私の魔術は一回か二回か、最悪無効化できずに軽減された攻撃を食らうことも視野に入れて行動選択をしてください」
「じゃあ俺はひとまず後ろにいた方がいいってことですよね」
「そうしてください。対話ができれば、試みてみます。……本隊から戦闘要員を一人連れてくるべきでしたかね」
後悔を最後に、ジェルデミアは前へ出た。
ゼットは前方を見据えながら、腰に手を当てる。崩落に巻き込まれても、運よく剣は失っていなかった。だが、これがまともに機能するのだろうかと心配はある。刃が通らなかったり、簡単に壊されてしまう可能性だ。
「いや、使い方を……」
そうゼットが呟いたところで、巨漢が足を止めた。
「貴方は神領星の人間ですか?」
ジェルデミアが先手を打った。だが、
「いい」
巨漢はその一言だけ返した。
「……いい、とは?」
「会話は不要。だということだ。わかるだろ?なあ。オレ様が死ね。ならお前らから聞く意味が無い。お前らが死ぬ。ならオレ様から聞く意味が無い。な?それだけのこと。わかるだろ?だからいい。いい」
淡々と考えを押し付けてくるような、癪に障る言い方だった。
「そうですか。……そう言っていただけるのは、わかりやすくて助かります。貴方の言う通りですよ」
「イアさん、やるんですね」
最終確認をするゼットに、ジェルデミアは横目に小声で命令を下した。
「私が、あの男から一発でも攻撃を受けたら、君も参戦してください。攻撃の大小に関わらずです……」
「どうか、死なないでください」
「生意気言いますね。君より私の方が強いんですから、まずは自分の心配をしてください。私には防御魔術があります。私自身であれば、他人に掛けるよりも瞬時に発動させられます」
「俺が言いたいのは──」
ゼットの肩に優しく手を置いて制止させる。
「わかってますよ。その心はしっかり受け取らせていただきます」
そして、何もせずに待ってくれていた巨漢へ。
「そう。それでいい。その目だ。大事なのはその目。オレ様に対する敵意だ。加減の無い戦い」
巨漢は棍棒を少し傾け、殺意を剥き出しにした好戦的な表情で歯を剥き出しにする。鋭く大きな八重歯が見えた。
「血が滾るッ!滾るぞォ!!」
飢えた獣のように咆え、巨漢は突進する。
通路の半分以上を埋める、ジャンプすれば頭をぶつけてしまうほどの巨体が迫り来る。
あれでは壁面に体を擦ったりぶつけたりして動きにくいだろう。素早い攻撃はできないはずだ。ジェルデミアはそう分析すると共に、自分自身にも弊害があると理解していた。
惑わすような戦い方ができないのだ。
開けた場所でなら、敵が自由に巨体を暴れさせることができてしまうが、その一方で縦横無尽に動き、距離を取ったり背後を取ることが容易くできる。
だが二人がここに来るまでは一歩通行で、開けた場所は無かった。巨漢が親切に道を譲ってくれるはずもない。
この場での戦闘は避けられない。つまり、互いに枷を背負った戦いとなるだろう。
「一人でも二人でも構わん!共に至福の時を過ごそうぞッ!」
「ご生憎ですが、血の気のある貴方と違って私は静けさが好きなので、至福などの感情は感じません」
「残念だァッ!」
視線が交わり、巨漢が棍棒をフルスイングする構えを取った。
まだ、振ったところで先端すら掠らない距離であるにも関わらずにだ。
「正直、ここで無様を晒すと職を失いそうなのでね」
ジェルデミアは冷静に話す。初めから武器は携えていなかったが、隠していたわけでもないようで、戦闘になってもなにも出さなかった。
対して巨漢は、走りながら棍棒をフルスイング。
岩壁が抉り取られるように破壊され、ジェルデミアたちの方向へ降り注いだ。
「久々の本気とさせていただきましょか」
ジェルデミアが前方の地面を指差した。
すると、瞬時にジェルデミアを守る盾のように地面がせり上がって、巨漢が飛ばした攻撃を防いだ。
人差し指を左へ向けると、せり上がった地面は波のように流れて地面へ消えていく。
「ほおぅ!いい!」
「……」
巨漢はジェルデミアの行動を称賛し、間髪入れず次の一手へと移る。
棍棒を持つ位置を半ばにし、リーチを短くした。
その棍棒は、手元側の持ち手が細く全長の四分の三は太い。ゼットやジェルデミアでは持ち手を持つことすらギリギリな太さだというのに、巨漢は太い位置を簡単に掴んでいた。
しかし、握力で無理矢理に持っているようで、手で持つというより指先を掛けるような感じに持っていた。
それでは攻撃時に反動で手から抜けてしまうだろうとジェルデミアは内心考えたが、巨漢の巨漢もそれはわかっているのか、両手で包むように持ち替えた。
「ぬあーッ!!」
巨漢は気合の入った叫び声と張り上げ、棍棒を掴む素手ごと殴るように下へと思い切り叩きつける。
それは先ほどと同じようにジェルデミアに届く位置ではないため、また礫での攻撃を目的にした行動かに見えた。
だが、地面に衝撃が加わった瞬間、針山のような岩石が形成された。それは棍棒が叩きつけられた箇所だけでなく、ドミノ倒しのように前へ前へと、次から次へと尖った岩石が生み出されていった。
「なるほど」
ジェルデミアはポツリと呟くと、開いた左手を突き出し、右手の指を振る。
そして岩石がジェルデミアにぶつかる直前、その左手を中心にして球状に穴が開いた。退けられたのではなく、綺麗にくり抜かれた断面。それは継続的にジェルデミア付近の岩石を消し、通り道を作った。
「なんだそれは?」
「聞く必要ありますか?」
巨漢は僅かな沈黙の末に答えた。
「……無いなァア!!」
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