72話──邂逅
ゼットの体が押し潰される。内臓が傷付けられるが、痛みに悶絶する余裕もない。
下方から礫がゼットの体を傷付けた。破壊されて砕けた大岩の破片が衝撃で跳ね飛んだせいだ。
そして、その下方からの痛みが示す事実は、ゼットの体が落下を終えるということ。
今のゼットは、何メートル落ちているのかわからない。何秒経っているのかもわからない。
ただ、針山の如く形成された瓦礫に衝突した時に、自分の体がどうなるかだけはわかっていた。
落下の途中で多少の減速があってたとしても、裸足で踏むだけでも血だらけになりそうな場に無防備に落ちれば死は免れない。
奇跡が起きて死ななかったとしても、即急な処置が無ければ息絶えるだろう。
「セイジ……!」
色んな感情が込められた、最後になるかと思われた言葉だった。
だが……
「いやー、間に合ってよかったですよ」
「……イアさん?」
「はいはい、イアさんですよ。ミアって呼んで欲しいと言ったはずなんですけどね」
死を覚悟したゼットだったが、その体をいつの間にかジェルデミアが支えていた。
「えっと……その……」
罪悪感からか、目を合わせないゼット。
ジェルデミアはそんなゼットに対して肩をすくめる。
「ゼット君、やってくれましたね」
「俺は……痛ッ!」
呆然とした様子のゼットの頭をバシンと叩くジェルデミア。ただ、その顔に怒りや悲しみなどの負の感情は浮かんでいなかった。
「これ以上私は先の行動を咎めたりはしません」
「はい……ごめんなさい」
「謝罪は求めていませんよ。あぁ、謝罪以外で償えっていってるわけじゃないです。あまり自分を責めないように。こういう湿っぽい空間で自己否定してしまうと、それが自己犠牲の考えに繋がってしまいますからね。それだけは最も避けなくてはいけません」
「……はい」
それでもゼットの後悔は晴れない。
罪悪感を解くには、ただの言葉では無く明確な罰が必要なのだ。
「とりあえず、私たちは私たちで進みましょか」
「あの、他の方たちは……?」
「ゼット君を追いかけて降りたのは私だけですよ。さすがにここから上を目指すのは骨が折れますので、急遽になりますが二手に分かれます」
「俺のせいで、すみません……」
「気にしないで下さい。この先が袋小路だという可能性を考え、全員降りてくることはできませんが、結局のところ手早く探索するなら二手に分かれた方がいいですからね。良いきっかけになりましたよ」
フォローを兼ねて、笑顔に成り過ぎないよう微笑で話すジェルデミア。ここで笑顔を向けられると不信感を募らせる原因になるとわかっていたからだ。ほほえみくらいが丁度良い。
「きっとダンプさん辺りからは町に帰った後にキツイ説教が待っているでしょうけど、そう気負わずに行きましょ。私たちに探索能力は無いですが、とにかく進んでいればダンプさん側から見つけてくれると思います。」
ジェルデミアは暗い顔をするゼットの手を掴んで立ち上がらせた。
「君がそんなんじゃ、助けられる側も不安になりますよ」
「……そうですね。はい。……ふぅ」
ジェルデミアの言葉を受け取ったゼットは、今一度呼吸を整え、それから力強く自身の頬を叩いた。
痛みは無い。先ほどジェルデミアに叩かれた時も、驚きで咄嗟に痛ッと言ってしまっていたが、その時もゼットの頭に痛みは無かった。
顔を僅かに傾けたゼットの様子から、ジェルデミアは察する。
「これですよこれ」
指を振ってアピール。ジェルデミア自身が落ちてくることができた理由と、ゼットが無事だった理由はそれだけで伝わる。
「……」
「まだ気になる事あります?」
「……なんで俺に追い付けたんですか?」
「単純なことですよ。私は私の防御魔術を誰よりも信用しています。過信していると言われると少々痛いですけど、とにかくさっきの崩落くらいなら耐えられる自信があったので、躊躇なく飛び込んだまでです。後は私の技量の問題ですけどね。空中の岩を足場にしたり、それとルート選択だったりと。……納得しました?」
「はい」
「ただ……その傷は私にはどうしようもないので、ネイビーさんと合流するまで耐えてください。歩けますか?」
ゼットの全身の切り傷、打撲傷、口から垂れた血を見て案ずる。
「不思議なことに、痛くは無くて……歩けます」
そう言いながら足踏みをして確かめる。
「もしかしてこれもイアさんのおかげですか?」
「そうですよ。骨が折れてたり神経が切れていればどうしようもないんですけど、痛みを軽減させたり多少の動きのサポートにはなるはずです」
「確かに痛くないですし、なんなら……普段以上に動きやすい気がします!」
初経験の身軽さに高揚するゼット。
「そう言ってもらえるのは嬉しいし安心しますが、決して無理はしないでください。言わば応急処置のようなものです。衝撃を加えたら起爆する爆弾を抱えていると思って行動してください」
「爆弾……じゃあ、俺は戦わない方がいいですか?」
「ええ。そうしてください。……と言いたいところなんですが、残念ながら私は実際の戦闘となるとダンプさんやビリーブには及ばないので、場合によってはゼット君の手も借ります。そうならないといいですけどね」
瓦礫の山から慎重に降りていく。
ジェルデミアは、足元の小石を拾って投げたり、靴先で軽く小突いて崩れないか確認しながらゼットをエスコートした。
地盤が緩んでいたのか相当深くまで落ちてしまっていた。しかし幸いにも道は続いている。
現在二人がいる場所よりもさらに下層があり、そこが埋まり切ったから崩落が止まったのだろう。
「では、いきましょか」
続く先にはなにがあるのか。
行き止まりか、出口か、敵か、それとも目的の人物か。
果たして結果は……
「早速ですがゼット君」
「えぇ……」
道すがら立ち止まるジェルデミア。ゼットもその意味を理解していた。
前方からのしのしと歩いてくる巨漢。これまで敵対してきた者と明らかに違うのは、ローブを羽織ることすらせず上半身裸であるところ。ズボンは膝下からびりびりに破け、靴は履かずに裸足。頭皮に張り付くようにキッチリと後ろへ撫でつけられたオールバックの金髪。
上半身には刃物による傷跡や、若干茶色く染まったり、肌の色素が抜けているのか白っぽかったりという火傷跡と思われるもの。線状のへこみ。縫われて跡があり周囲の皮膚が引っ張られている箇所など。その姿は相手を委縮させるには十分なものだった。
一メートルはある棍棒を片手に引きずり向かってくる男は、こちらに声を掛けたり手を振るなどのジェスチャーをする様子もない。
見た目に差異はあれど、敵であることは明確だ。
「手を、借りさせてください」
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