65話──躊躇の無い残虐性
……
……
「随分と頑張りますね」
「──!」
息も絶え絶え。しかし劣らない眼光でワーサーを睨み続けるセイジ。
全身に注射器が刺さっているその姿は、生きていること自体おかしいと思える風貌。
「ぼくは嬉しいですよ。君も嬉しいんじゃないですか?小娘に愛の証明ができて」
「──ッ!」
「あぁ、数本前の時点で声が死んでいたんでしたね。楽しくて忘れてましたよ」
本当に楽しんでいる声色で、やれやれというジェスチャーまでする始末だ。
太もも踏まれ続けているアリスは、一方的に攻撃され続けるセイジの姿をただ黙って見ていることしかできず、悔しさ、悲しさなどがぐちゃぐちゃに入り混じる。
服にシミができるほどに、何度も涙が頬を伝っていた。
「なんですけどねー……、ここまで耐えられると煩わしさも湧いてきますよね」
ワーサーの足元には、タコ糸のような紐がいくつも落ちていた。
「殺傷性のある毒……うーん、実験と金、どちらを優先すべきか……。君ほどの逸材とはこれっきり出会えないかもですし、実験優先してもいい気もするんですよね。この安定した立場を捨てるのは惜しいですけど……おや?」
遂に、セイジの体がふらついたかと思えば、手で体を支えようともせず無防備に倒れた。
地面に全身を強打したにも関わらず苦悶の声を漏らさないところから、意識を失って倒れたと思われる。
「なんだ、つまんない」
おもちゃを取られた子供のようなワーサー。手に持っていた次の注射器を、ため息をつきながらローブの内側に戻す。
「っ……セージさん……」
「良かったですね。あの希人はあんなにも君のために頑張ってくれましたよ」
「……っ!」
「今度は君が睨むのですか、まったく」
自分勝手で子供じみたワーサーに、子供じみた抵抗をするアリス。
「いいですよ?魔術で攻撃してきてもね。仮に攻撃できたとしても彼に免じて許してあげますから」
「そんなの……っ」
「ほら、攻撃してみなさい。ぼくを殺せれば君も彼も助かるんですよ?彼は君のためにあれほど頑張ってくれたのに、君は彼のために頑張ろうとすらしないんですか?」
「ちがうっ!」
「ならやってみましょうよ!まぁ、君の保有魔力量がその腕の魔道具を超えられるのならですけどね?」
「う、ウィンドカッター!」
アリスは魔術を撃とうとした。
……しかし、なにも起こらない。
「やはり、希人が特別なのですかね。追い詰められれば、貴族であればと思いましたが、この世界の人間はぼく含め、凡人の域を超えられませんか」
「ウィンドカッター!ウィンドカッター!ういんど、かったぁ……!」
出ない魔術の詠唱をし続けるアリス。弱々しい、涙声のそれは、想いを形にしてくれない。
「……いや、そうか。まだ可能性は残っていましたね」
ハッとした様子で指を鳴らすワーサー。
「ショック死しないでくださいよ」
言い終わるや否や、アリスの頭をガシッっと掴む。
「ぇ──」
そうして、アリスの理解が及ぶよりも先にワーサーは体重をかけてナイフを食い込ませた。
「んん──っ!!」
アリスの太ももを簡単に切り裂くほどの切れ味で、侵入した毒は全身へ巡り侵食していく。
「さっき彼に言った症状は嘘なので気にしないでください。短時間呼吸困難になるだけですよ。少々生死を彷徨うかもしれませんけどね」
右足をアリスからどかすと、外側の側面を壁に打ち付けた。すると、シャカッっと音が鳴ってナイフが戻る。
そのタイミングで、効力が発揮された。
「ぁ──はぅ、ぁ──っ────っ!」
喉が締まる。空気があるのに溺れる。そんな苦しみに襲われる。
「命の危機を感じれば、掴めるものがあると思うんです。どうですか?秘めたる力を感じませんか?新しいなにかが見えませんか?」
「──!」
ワーサーの言葉はアリスに届いていない。
「……なん、で」
「ん?……おやおやおや?」
苦しんでいるアリスを足蹴にし、ワーサーは声の方向で気を失っていたはずのセイジを、興味深い表情で見た。
「いつの間に起きていたんですね」
セイジは根気で首を動かし、ワーサーを睨んだ。
「なんで、そんな酷いことを、普通な顔してできるんだよッ!!」
「ハッ、なにを?」
嘲笑うワーサー。
「言い返させて頂きますが、よくも知らぬ顔してぼくに説教垂れられますね」
「お前だって──」
「君が扉越しに殺した人、セブンファイブという女性だったんですよ?最近入ってきたばかりで、ぼくが教育係のようなことをしていたんです。組織に入ってくる前の経歴も知っていますので断言しますが、彼女はまだ人を殺したことが無いんですよ。今のぼくみたいに、殺さない程度に痛み付けるということも未経験の新人でした。なのに、君は彼女を殺した。そしてナイン。彼のことも殺しましたよね。攻撃の意思を見せてこなかったのでは?なのに君はこの場所と見た目から敵だと決めつけて殺した。その二つの殺人は、どちらも組織の人間だったからってだけの理由ですよね。今回は組織という枠組みでしたが、主語を大きく言ってしまえば人間だったから殺したって言ってるのと変わりないんですよ。それとこれとは話が別だって思うかもしれませんが、類似していること変わりはない。君は確固たる理由無しに、ぼくの知っている中で既に人殺しを二回もしたんですよ。一回だけなら間違いだったという言い訳が成り立っていたかもですが、二回となれば人を殺しているという確信を持っての行動ですよね。さて、ぼくたちは成し遂げたいもののために人殺しをする。君は救いたい者のために人殺しをする。結果的にどちらも人殺しをしていますよね。つまり君と我々、同じじゃないですか?仮にですが、まさかどうしても金が欲しかったからって理由で人殺しをして、殺された家族がそれなら仕方ないかって許してくれるとでも思っているんですか?君はそんな楽観的な思考の人間ではないですよね。なんにせよ、結果が全てなんですよ。ぼくを、我々を貶す権利は、君が人殺しをした瞬間から失われているんですよ。わかりますか?君は真っ当な正義の味方なんかじゃないんですよ。君は君が理想とする正義を実行し、我々が理想とする正義を否定しているだけです」
「ッ……」
「それにしても、先ほど君を好き勝手実験体にさせてもらった時は大人しく黙ってくれていたのに、小娘が対象になると怒るんですねぇ~。愛の力って奴ですか?」
「クソ野郎が……ッ!」
「…………」
未だ噛みつくセイジに、ワーサーは不機嫌さを隠せない。
「もういいですよ。これもハズレみたいですし、もういいです」
ワーサーは倒れているセイジに近付くと、血だらけの顔面に追い打ちをかけるように蹴りを入れた。
「グッ……」
ゴッという音と共に、血が飛び散った。
「もっと悲鳴らしい悲鳴を上げてください。強がらないで泣き喚いてくださいよ」
「……」
黙るセイジに対し、今度は頭を踏み付ける。いくつか、ガリッと歯が砕けた。顎は切れて血が滲む。
それでもセイジは押し黙る。
「うーん…………あ」
ワーサーはふと思い付いた言葉を口にした。
「目玉……」
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