63話──望まない望んでいた再会
「ゴホッゴホッ……クソ、やりやがった」
キーンと、セイジは酷い耳鳴りに苛まれた。視界が揺れて、平衡感覚が崩れている。
顔や腕などの露出していた肌がヒリヒリとしていて、軽度の火傷くらいにはなってしまっているかもしれない。
周囲には煙が漂う。あの時の煙玉のような、綺麗な煙玉ではない。
砂が舞い上がり、煤混じりの灰色。セイジが酸素を求めて呼吸をすれば、喉に異物が入り生理反応で咳き込んでしまう。
爆発の衝撃波で洞窟内が震動し、弱い部分は崩壊してしまっていた。次に同じような爆発があれば瓦解し、埋め尽くされてしまう危険性だってある。
未だに耳鳴りが止まないが、段々と環境音が聞こえてきたことで聴覚を失ってはいないのだなと安心する。
「はッ!ワーサーはどこにッ!?」
あの至近距離で爆発を受けたのだ。
体を吹っ飛ばすためにやった行為だとしても、そう遠くまで逃げられているとは思えない。なのに、通路の先にワーサーの姿は無いし、這いずって逃げたような痕も無い。
すぐ近くに隠れているのかと、セイジが辺りに視線を巡らせれば……
「ッ!」
丁度爆発した瞬間にワーサーがいた場所の右側。そこの壁が壊れて穴が開いているのをセイジは発見した。
合点がいく。何故ワーサーの姿が無いのか。その穴に逃げ込んだのだと。
右手に持った光球が爆発すれば、ワーサーの体は左側へ吹っ飛ぶだろう。つまり、セイジ側から見れば左側が爆発し、右へ吹っ飛ぶ。
ワーサーはこの場所の先に空洞があると知っていて、わざと自らを巻き込んだのだ。
「クソッ!」
セイジはまたもやしてやられたことに歯噛みし、その穴に身を潜らせた。
セイジの目に飛び込んできた光景は、単なる洞窟ではない。きちんと整備されている部屋だった。
天井に埋め込まれた蓄光石によって部屋全体が明るく照らされている。セイジが閉じ込められていた場所よりも綺麗で、定期的に整備されているのだとわかった。鉄格子があり、床に布が敷かれているだけの簡易的な寝床らしきものがあり、他にも生活に不可欠な、最低限の物が揃っていた。
「ッ……」
そして、セイジは言葉を失うほどの衝撃を受けた。開いた口が塞がらず、呆然と立ち尽くしてしまう。
目に映るその光景は、今までの人生で最も信じたくないものだった。嘘だと言われたらどれほど嬉しいことか。
「改めて、最後にしましょうか」
仮面は煤汚れているが、未だ健在。ローブも右半身、若干焼け焦げている。
右腕はぷらんと力無く垂れていて、若干右足を庇うように立っている。
そして、使えなくなっていたはずの左手には、一本の注射器が握られていた。先端は、爆発前からその場にいたと思われる人物の首に僅かに指し入れられていて、その刺さった部位からは赤い雫が垂れていた。
「セージさん!」
「ぁ……アリス……ッ!」
待ちに待ったアリスとの再会は、ワーサーの人質という最悪な状況で叶ってしまった。
アリスの腕は背中に回されていて、ワーサーの手はどちらもセイジの位置からでも見えていることから、手錠のようななにかで拘束されているのだと推測できた。
「動かないでくださいよ。小娘が大事でしょう?」
セイジを前に、更に針を刺し入れるワーサー。
「痛いっ!」
アリスの顔が痛みに歪む。目には涙が浮かんでいて、セイジの心は怒りに包まれる。
「ワーサーッ!!!」
今は全身の苦痛全てを忘れ、セイジの瞳に映るのはアリスとワーサーだけ。
ワーサーは余裕を持った声色で告げる。
「威勢はいいですね。ずっと、うざったらしいほどですよ。ですが、それ以上近付いてみなさい。ぼくが毒を注入する速度と、君がぼくを攻撃して小娘を救う速度。どちらが速いのか、試したいのであればですがね」
「ッ……クソ……!」
今すぐにでもその仮面をぶっ壊してやりたい衝動に駆られるが……できない。
「少しお話しましょうか」
「お前と話すことなんかない!」
そんな怒り心頭なセイジに対し、ワーサーは呆れた様子で告げる。
「ぼくは儀式に興味無いんですよ。わかります?言ってること」
ワーサーはセイジから目を離さず、アリスの動きにも注意して注射器を持つ。
「ぼくはぼくの命が一番大事なんですよ。君とまともに戦うくらいなら、この小娘の命なんて簡単に散らせます。君はぼくを殺すことと、小娘の命、どちらが大切なんですか?」
「それは……」
「言ったでしょう?これで最後にしましょうよ。君は小娘のために、抵抗せず倒れて下さい。我々に捕まり、儀式に参加して供物になってください。そうしてくれるのであれば、ぼくはこの小娘に危害を加えません。このまま親元に返すと誓いましょう」
「その言葉を信じろって言うのかよ」
「はぁ、わかってないですね……。君は本当に愚かだ」
小さく左右に注射器を振るという、見ていてとても痛々しいことをするワーサー。やられている側であるアリスも、悲痛の声を漏らす。
「いや……っ、痛い……!」
「静かにしてなさい」
「っ……」
ワーサーはアリスの耳元で囁くように注意した。そして、今にも飛び掛かりそうなセイジへ告げる。
「君には交渉の場に足を掛ける権利すら無いんですよ。君が信じようが信じまいが、一切合切関係ありません。分を弁えてください」
ワーサーはギュッと注射器を握った。内部の液体が注入される。そして注射器をクルっと回転させると、返しがあるにも関わらず、いともたやすく抜き取った。
「いや……ぁ……」
注入された液体の効果がすぐにアリスの体に反映されたのか、己の意思とは関係無くふらつく体を制御できない。
「なッ!!おま……」
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