62話──油断大敵2
ワーサーが落とした煙玉が逃げるためのものだとわかったセイジは、大急ぎでワーサーの後を追った。
しかし、洞窟内は迷路のように広がっていて、どこにいけばいいのかわからない。
とにかく走り回り、ワーサーの足跡などを探すしかない。
力は沸き上がるが、毒による苦しみが消えることはない。燃えているような全身の痛みに耐え、足を動かしていく。
見知らぬ場所でこれほど注意無く走るのは怖さがある。しかし、その怖さを無視してでも進まなくてはいけない。
全てはアリスのために。
「……どこだ」
念のために拾った石を手に、黒いローブの人間を探し回る。
「アリス……。アリス……」
ワーサーを見つける前に、アリスと会えてもいい。なんなら先にアリスと出会えた方が安心する。ワーサーは殺せなくてもいい。アリスさえ救うことができればそれでいい。
走り続けていると、
「ッ……!」
ワーサーではない、黒いローブの人間と出くわした。
その人間はセイジを視認すると、両手を上げて敵意が無いことを示すかのようにゆっくりと近付いてくる。
「止まってください!こちらに敵意はありません!!」
ローブの男は攻撃する気は無いと全力で伝えてくる。
「……」
しかし、ここで逃したり対話するほど、今のセイジに余裕は無かった。
「少し話を聞いていただきた──」
足を止めた男に対して、セイジは速度を緩めることなくその顔を鷲掴みして、押し倒す。
抵抗する暇も与えない。
押し倒したまま、強引に引きずっていく。下に押し付けるように力を入れて、男の後頭部で地面を削る。
セイジが進んだ後には血が流れ、千切れた服、磨り潰された肉、削れて砕けた骨が残った。
悲鳴を上げる暇も与えずに、その男の命を奪った。
──ビーー!!
「半殺しにするべきだった……!」
音が鳴ってから気付いた。
初めの部屋で、扉に向かって石を投げた時もその音が鳴っていた。部屋を出て知ったが、ワーサーに当たってくれと思って投げたそれは違う人間に命中していて、その人間は死んでいた。
その時点で気付くべきだった。
とあるゲームには死んだら爆発して敵を巻き込んだり、味方を全回復させるようなキャラがいたりする。だから、あの時の音が死亡がトリガーになっていたと気付けていていれば。少なくともその可能性を考えれていればと、己の失態を悔やむ。
「これも奴が……」
死体となった男から手を離し、疾走。そいつがワーサーから直接指令を受けていて、真っ直ぐセイジのところまで来ていたことに賭けて進んでいく。
「拷問でもすべきだったか」
セイジは拷問などをしたことがない。ただの高校生だったのだから、当たり前のこと。しかし、詳しいやり方は知らなくても、ドラマや映画の知識を以って、爪を剥がしたり指を折ったりと方法はある。
そうして後悔に馳せながら、飢餓に苦しむ獣のようにセイジはワーサーを探し、やがて曲がり角を右に曲がった時。
「ッ!!!」
たとえローブの後ろ姿だとしても、通路の先を走っているその人間がワーサーであると、確信できた。
壁から石を剥ぎ取り、全力投球。
投げてから、冷静に狙いを定めて投げるべきだったと後悔したが、その石はワーサーの足に直撃し、貫いた。
ワーサーはバランスを崩すが、負傷していない右手で見事に受け身を取って体をこちらへと向けた。
「ズルいんだよッ!本当にさッ!!」
叫ぶワーサー構わず、セイジは今度こそその口を黙らせるために、壁を抉り取って岩を砕く。ワーサーがなにやらローブの中に手を入れているが、気にせず腕をしならせて全力で投げた。
その投擲は狙い通り通路全体を攻撃するように広がったが、無駄の無い動きで回避されてしまう。直前にワーサーが自身の体に注射していたものがなにか影響しているのか。それともセイジが下手なだけか。どちらにせよ、回避されてしまった。
ならばと、セイジが更なる追撃を加えようとしたとき、ワーサーが背を向けて逃げていった。
「また逃げる気か」
今に目を離してしまえば、次もこうして見つけられるとは限らない。逃してしまう可能性の方が高いはずだ。
距離が離れれば離れるほど、途中で地面に落下して届かない石の数が増え、命中率も下がる。だからセイジは攻撃するよりも後を追うことを優先した。
そんなセイジに対し、ワーサーは首だけでこちらを振り返ると、小さな玉を投げてきた。
あの時の煙玉と同じようなサイズ感。
またもや身を隠すために投げたのか。それともあの時とは別物なのか。
「正直これは使いたくありませんでしたよ!」
その言葉と同時に、玉が破裂した。視界を妨害してくる濃度の煙は出てこない。それどころか、破裂しただけでその玉からはなにかが出てきたようには見えなかった。
「──ッ、クソ!」
一見無害。しかし、セイジは咄嗟に足を止めてしまった。
一見無害だからこそ、さっきの煙玉とは対照的な効果を持っているのではないかと勘繰ってしまう。ワーサーが繰り出す物全てに、心が怖気づいてしまうのだ。
「行くしかないッ!」
破裂した周囲さえ息を止めていればいいはずだと、急いで走り出すセイジ。
しかし、止まっていた間にもワーサーに距離を離されて続けていた。
「……!」
息を止めて一気に駆け抜けた。
そして……なんとも無かった。
また騙されたのだとセイジは気付き、今度こそなにがあっても容赦なく攻撃すると心に決めて追い縋る。
ワーサーが右に曲がり、セイジも右に曲がる。次は左。真っ直ぐ走って右。
ワーサーの移動速度も常軌を逸したものだったが、セイジはそれを超える速度。湧き上がる力のままに、距離を縮めていく。
物を投げて攻撃するために減速してしまうよりは、確実に攻撃を当てられる距離まで接近してしまった方がいいだろう。
止まってしまった時は豆粒になっていたワーサーに、遂には残り五メートルまで近付けた。
「しつこいですよ!」
四メートル。ワーサーが雑に小さな玉を投げてきた。顔への被弾を腕でガードし、弾く。背後で破裂する音が聞こえた。
三メートル。ワーサーは攻撃して距離を離そうとするのを諦めたのか、走りに集中していた。しかし、互いの距離は縮まるばかり。
二メートル。ここまで近付くと、ワーサーの疲労した息遣いが聞こえた。きっとセイジの呼吸音も聞こえているだろう。
一メートル。思い切り手を伸ばせば、その体に触れられる。でも、触れられる程度で確実なダメージとなる攻撃にはならない。もっと、肘を曲げた状態で触れられる距離に。確実に命を散らせるように。
そしてやっと、ワーサーに届く……時だった。
ワーサーが右手をローブの中に入れ、かと思えば跳躍し、空中に身を投げ出して後ろを振り返る。そんな後先考えない行動に、セイジは困惑を隠せない。
ワーサーの手元でなにかが光っていた。
その光は閃光となり、太陽を直視した時と同じくらいの眩しさに目が焼かれる。
しかし、これくらいの眩しさなら見えないのはワーサーも同じのはずだ。そう思ったセイジだったが、
「最後にしましょうッ!」
真っ白な視界に、ぼんやりとワーサーの輪郭らしきものが見えた。右手に光の中心があることだけは辛うじてわかった、次の瞬間──
──大爆発が起きた。
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