6話──成長
「解体はもうちょっと慣れてからにするか」
「うぅ、ごめん」
「ワイズラットを殺せただけ十分だ」
結局あれ以上ワイズラットに手を付けることができず、残りの解体作業はやってもらった。
せめて見てろと言われたから、解体されていく様子を観察し……また吐いた。
「無理な奴はどれだけ頑張っても耐性が付かないもんだが、少なくともお前は殺すことはできたんだ。きっとこれも慣れれるさ」
「だといいけど……」
死体を扱うことに拒絶感を感じているのではなく、ただ単純にグロ耐性が無いだけだと思う。
慣れ……俺も当たり前のように殺して解体してって作業ができるようになるのかな。
「……」
でも、その作業になにも感じ無くなるようにはなりたくない。
そのことを想像したら、自分が自分じゃ無くなってしまうような、そんな怖さを感じた。
日本人の哀晴生二でありたい。
それは、我儘が過ぎるだろうか。
「よし。今日は良く頑張ったな」
町について、いつも別れている十字路に辿り着いた。
「じゃ、俺は帰る。これはお前にやるから売ってこい」
「良いのか?」
「お前が殺した獲物だ。俺はその手伝いをしただけだ」
「ありがとう」
「保存袋に入れてるとはいえ、さっさと売りにいかんと査定価格が下がっちまうからな。あ、保存袋は後で返せよ?いくつも買えるもんじゃないんだ」
「そんな大事な物を俺に渡すかよ」
「お前は盗って逃げたりしないいだろ?」
「それはもちろんだが、俺が他の奴らに奪われる可能性だってあるんだぞ」
「その時はその時だ。お前は悪くねぇ」
「そうか……じゃあ、また明日」
「おう」
男と別れて、宿への帰路に着く。
「……あぁ、違う。ギルドに行かないとだった」
ワイズラットの脳みそを売らないと。
「……」
日本で暮らしていた時とは比べ物にならない生活を送っている。
ジャスさんもいるし、相部屋の人たちも良くしてくれてる。ゼットだってそうだ。
でも、あの頃みたいな生活とは似て似つかない。親に面倒見てもらって、苦労かけてしまって、そんな暮らしではない。
責任は自分で取らないといけない。
生かされていたあの頃とは違って、自分で生きないといけない。もう一人なんだから。
「……」
でも、未だ自立できていない。
ジャスさんに支えられているし、あの男に生かしてもらっている。
ジャスさんにはちゃんとお金を払っているから、対等な関係と考えられなくもない。
でもあの男には一回ご飯を奢っただけだ。ここまで関係が続けば、不安に思ってしまう。
あれだけしかしていないのに、ここまで手を差し伸べてくれて、見捨てずに面倒を見てくれている理由を考えてしまう。
気にすんなって言われるだろうとは思う。
「でもなぁ……」
どうしてここまで良くしてくれるのか、わからなかった。
わからないまま、時間ばかりが勝手に進んでいった。
─────
「下から来るぞ!」
「ッ!」
男の声に即座に反応して、俺はバックステップでその場から距離を取った。
すると、その直後に長い生物が地面から伸びてきた。
無数にある鋭い歯を打ち鳴らし、獲物を逃したことを悔しがるっているのは、太ももくらいのサイズはあるミミズのような見た目をした生物。
俺の頭を超すくらいの高さまで伸び上がっているが、まだ全身は見えていない。成体だと全長は三メートルを優に超えるらしい。
それは、フラワーワームと言う生物だ。
体色を自由自在に変えることができ、頭の位置には花に擬態するための突起がいくつもある。甘い香りを放ち、それに誘われた虫を主に食している。ただこいつは雑食であり、小動物を食らうこともあればこうして人を襲うこともある。
「尻尾の方の攻撃に注意しろ!」
男は今、木の上から俺に指示を出してくれている。
「体をうねらせたら引っ込むか尻尾で攻撃するかの前兆だ!見極めろ!」
「うん!」
男の言う通り、フラワーワームが体をうねらせ始めた。
引っ込まれて地面に隠れられるのは面倒だ。
だからと言って、引っ込む前に突っ込もうとすれば実は攻撃の前兆で、痛い一撃を食らってしまう可能性もある。
ここで取るべき最善の選択は……
「これだ!」
事前に目星を付けていた足元の石に手を伸ばして、すぐに駆け出す。近づき過ぎない絶妙な距離を保ち、不意の攻撃を食らわないよう円を描くように走る。
そして、手に取った野球ボールほどの大きさの石を、最も避けにくいであろう地面ぎりぎりの胴目掛けて投げつけた。
「ギィィィーー!」
鳴き声とは思えない、無機質な悲鳴を上げた。
フラワーワームは痛みに喘ぎ体を捻らせる。
自分がこいつだったらどうするか。そう考えると、次のこいつの行動は簡単に読めた。
スパイスピアの毒針を腰から抜いて、一直線に奴の命を刈り取りに走る。
狙いは一点。地面との境目より少し上だ。
「そこ!」
刃先は綺麗に、地中に逃げようと体を沈めかけていたフラワーワームの頭部に突き刺さった。
俺はその光景と感触から、勝ちを確信した。
そして確実に命を奪う為、更に深く突き刺して切り上げようと──
「……ッ!」
僅かに落ち葉が擦れる音がし、俺はすぐにその音の正体に思い当たった。
フラワーワームは、大きな獲物に対しては集団で追い詰めるように狩りを行なう。そういう知識があったからだ。
……時間をかけ過ぎた。
さっきの無機質な悲鳴とは別に、フラワーワームは独自の波長で会話をしていると聞いたことがある。どうやら、既に仲間を呼ばれていたらしい。
姿勢が悪い。このままじゃやられるッ!
「くッ!」
俺はスパイスピアの毒針から手を離し、転がるように横へ逃げた。
直後、先ほどまで俺がいたところの真下から新手のフラワーワームが姿を現す。
たった今殺した個体よるも二回りはデカい。
俺は勝てるのか……!?
思い付いたばかりでまだ構成練ってる最中なので更新は遅いですが、評価ブクマ感想で速度バフが付くので良ければお願いします!
ちょっとでも続きが気になれば!是非!!