58話──毒使い
パラパラと、鉄扉に砕かれた岩壁が細かく剥がれ落ちる。
衝撃により付近の天井に埋め込まれていた蓄光石がいくつ落下し、洞窟内が不安定に照らされる。一部の蓄光石は埋もれてしまい、薄暗い空間へと変わってしまっていた。
「はは、やられましたよ」
瓦礫の中から、ワーサーの咳払いが聞こえる。
「ぼく、あいつと違って力は無いんだからこういうのやめて欲しいんですけどね」
「……死んどけよ」
「それは難しいお願いです……よっと」
瓦礫が積み重なった鉄扉を押し退けて、ワーサーが姿を現した。
仮面が無くなり素顔が露わとなっている。額が割れて血が流れ、左腕には破片が突き刺さっている。
「咄嗟に防げたから良かったものの、あと少しでも腕を出すのが遅れてたら肋骨バキバキに折れて内臓終わってましたよ。無茶しないでくださいよまったく……」
足元に落ちている仮面の内側には、ワーサーの額の傷と丁度重なるところに血が付着している。
ワーサーはその仮面を拾って装着すると、それから自身の左腕から躊躇無く破片を抜いた。中には貫通しているものもあり、抜いた後の傷口からは血が溢れ出した。
左手を見下ろして、指を僅かに動かす。
「……使い物にならなくなっちゃったじゃないですか。責任取ってくださいよ」
指は小指と薬指が僅かに曲がるだけで他はピクリと動くだけ。肘の関節は機能しない。
「……」
「会話してくれないんですか?さっきまではあんなにもお話してくれたというのに」
手痛い一撃を受けても、ワーサーは余裕を崩さない。
「お前はここで殺す」
「血気盛んなお年頃ってやつですかね。それにしても、何故毒の効き目が悪いのか、気になりますね。どうやってこの扉を破壊し、あの威力で飛ばしてきたのかも気になりますしそこのセブンファイブを殺した方法も気になります」
「ッ!!」
話はおしまいだと言わんばかりの勢いで、ワーサーに迫るセイジ。
踏み込まれた位置は砕け、二人の間にあった距離を無にするほどの速度だった。
「ほあ!?」
伸ばされたセイジの腕を、ギリギリ腰を逸らして避けるワーサー。
地面に右手を付いて支点にし、そのまま上部を通るセイジの横腹を蹴り飛ばす。
「グゥッ──」
ワーサーの蹴りをまともに食らい、通路を転がっていく。
セイジはすぐに立て直し、痛む横腹を押さえつつワーサーの動向を確認。しかし、追撃を加えるチャンスだったにも関わらず、ワーサーはその場から動いていなかった。
「ぼくの知る限り、君はスキルを使えないはずなのですが……急に覚醒でもしました?それに、毒に耐性が付くスキルなのか、身体強化系のスキルなのか、ハッキリしてもらってもいいですか?複数のスキルを持っている希人なんて勇者以外に聞いたことがありませんし、君は一体なんなのでしょう」
「……ぺッ」
ワーサーの言葉を無視し、口に溜まった血を吐き出して足元の岩を掴み上げる。
「まぁ、言い伝えに聞く勇者であれば、ぼくは既に殺されているでしょうし、それはありえないでしょう。そこまでの力を隠し持っていたとは驚きですけど、スキルの詳細がわかるまではゆっくりと遊ばせてもらいますよ」
「ふんッ!」
自分の頭より大きな岩を軽々と持ち上げ、野球ボールを扱うように勢いよく投げた。
それは、常人では不可能な速度の投げであり、常人では回避できないもの。しかしワーサーはその岩を余裕を持って回避。投げる動作があった分、先ほどの攻撃より容易いものだった。
回避したワーサーの目に入ってきたのは、二投目を投げようとしているセイジの姿。
今の流れを繰り返すだけだ。そう思ったワーサーだったが、次のセイジの行動に、仮面の中の頬が僅かに引きつった。
セイジは岩を両手に持ち替えると、押し砕き粉々になったものを投擲したのだ。
「わぉ……」
散弾となるその投擲は、狭い通路ではほぼ回避不可能。だからワーサーは対処方法を回避ではなく、防御へ変更。
先ほど押し退けた鉄扉を立てて、散弾が直撃する前に身を隠した。
甲高い音が鳴り、鉄扉の表面がへこむ。貫通してこなかったのはワーサーにとっては幸いだ。
しかし、セイジにとっては不幸。大岩は回避され、小石は防がれる。
「クソッ!」
セイジはもう一発、岩を砕き投げる。
その攻撃も同じように鉄扉で防がれ、掠り傷一つ付けられない。しかし、それで良かった。
ワーサーは全身を隠していた。セイジのことを見ようとすれば、目を露出させなければならない。通路全てをカバーできる攻撃をしている限り、一方的にワーサーのことを視認できるのだ。
一方的に見えているということは、攻撃の瞬間であればセイジがなにをしてもバレないということ。
だから、防ぐための鉄扉に向かって真っ直ぐ走り、その死角を利用すれば最低でも一撃は確実に攻撃を当てられる。
「──なんて、思ってたりします?」
鉄扉一枚隔てて、互いに腕を伸ばせば届く距離まで近づいた時。セイジは耳元で囁かれてたような感覚に、背筋が凍り付く。
実際に耳元まで近付かれたわけではない。ワーサーの顔も見ていない。確かにワーサーはまだ鉄扉の後ろにいるはず。なのに耳元で声が聞こえたのだ。
「なんで……」
「あぁ、そこにいたんですね」
セイジが戸惑いの声を漏らした瞬間、今度は上からワーサーの声が聞こえた。
しかし、ハッとしたセイジがその方向を見るとワーサーの姿はない。代わりに、細いなにかが浮かんでいた。
否、落ちてきていた。
「な──」
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