55話──兆し……?
「……!!」
「くッ──!」
重たい衝撃を受け、ワーサーは二メートルほど飛ばされ、転がり倒れた。
セイジはそんなワーサーを見つつ、鎖を掴む手を離し、着地に合わせて足を曲げて衝撃を緩和する。
「……」
「な、なるほど。鎖を天井の隙間に引っ掛け、ぼくが来るまでそこにぶら下がっていたんですね。砂粒は鎖によって天井の石が削られたもの……だとしたら音が聞こえなかったのはおかしいですね。となると、君の靴に付着していたものだったわけですか」
「……」
「更に鎖を武器にしてぼくの頭に攻撃するとは。冒険者やってるだけありますね」
「……」
「見事に勘違いさせられましたよ。これは一杯食わされました」
「……」
「ですが、それまでです。それまででしかないんです」
「……ッ」
「耐えて立ち続けている根性は素晴らしいですよ?愛の証明になっているかもですね。ですけど……動けますか?」
セイジの顔色が青白く酷いものになっていることに、薄暗い空間の中でもワーサーは気付いていた。
「ほら、近付きますよ?反撃しないと危ないですよ?」
「ゥ……ッ」
「あーあ。触ってますよ?良いんですか?……君の心臓、随分激しいですね」
ワーサーがセイジの胸に触れてその心音を確かめたところで、セイジの体が無抵抗に倒れていく。
「ぁ……ガッ、ァッ!」
背中と頭を強く地面に打ち付け、衝撃に肺が圧迫され強制的に息が吐き出される。
「おっとごめんなさい。強く押し過ぎました」
「グ……」
「目の動き的に、壊れては無さそうですね。良かった良かった。死ななければ壊れても問題無いんですけど、意思疎通できた方がいいですから。人間同士ね」
セイジの髪の毛を無造作に掴み、地面に打ち付けた頭から血が出たりしていないか確認するワーサー。
その行為に対し、セイジはなにもしない。
なにもできない。
「どうです?苦しいんじゃないですか?それもそのはず、死に至るほどではないですが、大抵の生き物を泡吹かせて悶え苦しませることのできる毒なんですから」
「コ、ク、ァ……ヵ……」
「すみませんね。意表は突かれましたが、反撃するくらいの隙はあったものですからついやってしまいました」
途切れ途切れの呼吸で口をパクパクとさせて酸素を求める。打ち上げられた魚のようだった。
「当分は動けないでしょうし、拘束は後でやりに来ますよ。それまでどうか死なないでくださいね。自害も駄目ですよ。君が死んだら我々にとっての小娘の人質としての価値が無くなりますのでね。そうなればどんな最期が待っているか、鈍った思考でも考えられるでしょう?」
「……」
「また睨むんですか。これは調教し甲斐があるというものですね、では、最後に、君に絶望を与える言葉なんていかがでしょうか。気付いていないようなので教えてあげましょう」
仮面を外し、ワーサーは自分にできる最大の笑みをセイジに見せてあげる。
楽しさを共有してあげようという、善良の心からだ。
「あの小娘に利用価値があるとは言いましたけど、必要不可欠な存在では無いんです」
抵抗できないセイジの手首を掴み、肘を曲げて伸ばして曲げて伸ばしてと繰り返すワーサー。
それは行為はまるで、人形遊びをする幼子のようだった。
「偶然君の近くにいたから捕まえた。それだけです。近くにいるのであれば、簡単に捕まえられる状況であればせっかくだし……とね。」
「ぇ、ぁ……」
「わかりました?君が関係を持っていたから、関係を続けていたから、あの小娘は、君の愛しいアリス・グリントは人質になっているんですよ」
耳を塞げないセイジは、ただワーサーの言葉を聞くしかない。
ワーサーからは逃げられない。
「君は窮地を打開する救世主じゃない。窮地に追い込んだ悪役なんですよ。たとえ小娘を助けられたとしても、君自身の行ないの結果にケジメを付けただけ。マッチポンプ?ってやつですね」
腕遊びに飽きたのか、今度は、セイジの意識を留めようとしているのか頭をぺシぺシと叩くワーサー。
「それとですよ、先ほど君が死ぬことで小娘の人質としての価値が無くなると言いましたよね?その最期ですが、ただ殺されるわけじゃないですよ?」
「ぁ……?」
「不必要となれば、ギリギリまで血を取った後に売るでしょう。さて、どこに売るか。裏社会の人間は高く買い取ってくれますからね。小娘の親がどれだけ高い身代金を払おうとも、オークションではその額を基準として小娘に払われる額が跳ね上がりますから、元の生活には戻れないんですよ。それと、我々神領星は禁忌としている行ないですが、裏社会のイカレたゲス野郎たちは何度でも何度でも繰り返すでしょう。さて、ぼくが言っている行ないがなにを指しているのか、わかりますか?」
頭を掴み、強制的にセイジと視線を合わせると……告げた。
「強姦ですよ」
同時に、掴んだ頭を石畳に打ち付けた。
「ぇぐぇッ……」
「興奮する行ないは様々ですから、やさしーく犯したり、気を失うまで顔や腹を殴ったり、殴りながら犯したり、複数人で犯したり、それを見世物にしたり、人間以外と性交させたり、殺してからその死体を使ってヤッたり、両手両足切り取って無抵抗にしてから犯し続けたり、薬漬けにして悦ばせてあげたり、本当に様々な好みのヤり方があるんですよ」
「……」
「神領星では魂を大切にしますから、性行為を行なった貴族の血は男女問わず穢れとなるんですよ。なので、正直ぼくも味わってみたいと思っているんですが、血を頂戴するまでは手を出せないんです。残念ですね」
「ぁ……」
「ちなみにぼくは用心棒として雇われてる感じなので、正直穢れがどうとかよくわからないんですよ。なのでぼく自身のこの体が穢れるとかどうとか気にせず犯しますし、なんならあの小娘に関しては売る前にぼくが初めてを奪ってあげようかなと思っていまして……」
それから少し困り顔になり、
「でも結局処女の方が高く売れるものですから、迷ってるんですよ。あの小娘はたしか十五歳でしたよね。ぼく的にはもっと若い、十歳くらいの少女の方が好みなのですが、全然あれも守備範囲なんですよ。ですからまぁ、処女を奪わない程度に遊ばせてもらいましょうかね。さて──」
ワーサーは仮面を付け直して立ち上がり、暗闇の方へ歩いていく。
「も……ぅ……」
掠れた、弱々しい声が聞こえた。
まだ喋れる力が残っていたのかと少しばかり驚いたワーサーは、その頑張りを称え思考を巡らせてあげた。
「もう?もう……。あぁ、そうですよ?もう遅いんですよ。希望持たせた方が面白いかなと
思って君が死んだ場合はって言い方で説明してあげましたけど、実際のところ小娘の未来は決まってるんですよ。金になる存在を逃がすわけないでしょう?」
「な、ぁ……」
「ほら、お休みの時間ですよ。では、また会いましょう」
薄れゆくセイジの意識。
心音は鳴り止まず、カチ割れるほどの痛みが脳を襲っているにも関わらず、段々と泥沼に沈むように眠りゆく。
「ぁ、ぃ……ぅ」
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