53話──ワーサー
感情的に暴れる。
まだ子供であることに変わりはないか……
「無駄ですよ。君にその鎖は破壊できません。だからこそ君を儀式に選んだんですから」
「死ねッ!黙れッ!」
「スキルらしき力もまだ発現していない。そこは喜ばしくも、残念なところです……ね!」
「うぐぁッ──」
一発、顔を殴ってやれば、防いだり避けたりすることもなく、呆気なく怯んで尻もちを付いた。
「スキルが無いなら希人は無力も同然なんですよ」
まだ瞳から闘志が消えてない。
だから腹に蹴りを入れる。
「カッ……は……」
呼吸を荒くし、苦しそうに倒れた。
本当に希人なのかと疑わしく思うくらいに弱い。
「知っていましたか?君たち希人は魔術が使えないんですよ」
「……!?」
「やはり知らなかったみたいですね。それも仕方のないことです。我々しか知り得ない情報なんですから。どのように知ったのかはぼくにも秘匿されていますが、どうせ君のような弱い希人を捕まえて実験でもしたのでしょう。その個体を儀式に使えばよかったというのに。もしかしたらその希人は、想定以上に脆く儚い命の持ち主だったのかもしれませんね。君はどうなのでしょうか」
「魔術が、使えない……っての、は、どういう」
「そちらの方が気になりますか?」
「言え、よ……!」
「仕方ないですね。君は冒険者でしょう?ならば冒険者ギルド内で魔力測定を行なったことくらいありますよね。君の保有魔力量はどうでしたか?希人は魔力を持たないので、ゼロだったはずです」
「……ほんの少しは」
「あぁ、そうでした。簡易的な測定道具は空気中の魔力も一緒に判定してしまうんですよ。なので僅かに数値が足されるんです。なので本来ならゼロと表示されるはずなんですよ。魔力が無い。だから魔術が使えない。才能とか努力とか、そういう次元の話じゃないんです」
「そうだった、のか……」
「魔力は精神、いわゆる魂に付属しているらしいですよ?神領星の上層部のイカレじいさんが言ってたことですので、ぼくも詳しくは知りませんよ?老いたじいさんの、ただの戯言だったかもしれませんしね」
こうして話をしてあげる必要も義務もないけど、餞別として話してあげるくらいの譲歩はしてあげよう。
もう一週間もしないうちに儀式が開始され、死ぬのだから。
─────
「希人である君がどこから来たとかは関係ないんですよ。希人の魂は希人が来たところで生まれたもの。魔力を作ることも吸収することもできないらしいです。……たしか、希人とぼくたち、身体の構造がそもそも違うらしいですよ?なんでも希人には魔力器官が無いとか。まぁ、まだまだ解剖例が少ないですから確たる情報ではありませんけどね」
「……」
「どうです?参考になりましたか?」
「アリスはどうなるんだ」
「あの小娘ですか。さて、どうなるんでしょうね」
「真面目に答えろよ」
「そう言われましてもね。さっき言った通りぼくの担当では無いですからわからないんですよ。ただ、死にはしないとは思いますよ」
「本当か?」
「ええ。ですが、貴族ですし、死なない程度に血を抜かれるんじゃないでしょうかね。神領星の上層部は特別な血が大好きですから」
「ッ……他には……?」
「他ですか?そうですね……他にはなにもされないんじゃないかと思いますよ。人質としての価値が薄まりますから」
「人質……人質を使わないといけないほどお前らは弱いのかよ」
「そう煽らないでください。別にぼくは神領星の誇りなんて持ち合わせてないですから、弱いとか言われても怒りませんよ?腹立たせて注意力の分散でも狙いました?」
「クソ野郎が……」
「それに、この雑談も君にとってはもうどうでもいいのでしょう?ぼくにやられた痛みを和らげるための時間稼ぎ。反撃するためのね。……違いますか?」
「……」
「まったく。君にその鎖は破壊できないと言ったのにわかってくれないんですか?それとも、鎖は破壊したとしても逃げられないと体に直接わからせた方がいいんでしょかね」
「……」
「はぁ。仕方ないですね。その鎖、一時的に取ってあげますよ」
ワーサーはセイジに近付く。
警戒している様子は無い。
二歩前に出て、倒れ込むセイジの鎖を掴んだ。
「まだ変なことしないでくださいね。今ぼくを殺しても、ぼくは鈍器を持ってないので結局この鎖は壊せないですよ」
ジャラジャラと重い鎖が絡まっているせいで、鎖同士を結合する場所を見つけることに難航している。
「もしぼくと戦う気が無いのであれば、立ち上がらずに……座ってください。寝転んだままだと考え途中なのかどうか判断が付きませんからね。戦う気があるのであればどうぞお好きにかかってきてください。君の武器は渡せませんけど、ぼくも武器は使いませんし魔術も使わないので、それで公平ということで許して下さい。…………あぁ、やっと見つかりましたよ」
ワーサーは小さな錠に、ローブの裏側から取り出した小さな鍵を差し込んだ。
「ここを外せば、手と足の鎖が緩んで外れます。ですがまだ首の鎖が残っているので暴れないで下さいね」
「わかってる……」
セイジの言葉を聞き、ワーサーはうんうんと頷いてから鍵を回し、錠を外した。
「それにしても、なんでここまで面倒なくらい拘束してるんですかね。なんでだと思います?」
「知るかよ」
「冷たいですね。もっと優しくしてくださいよ。で、ぼくが思うに上層部は君のまだ見ぬスキルを恐れてるんじゃないかと思うんですよね。だから鎖でぐちゃぐちゃに巻いて、ぼくをここに配置してるんだと思いますよ。今までわかってないスキルがこんな土壇場でわかるとは思えないですし、君は冒険者なんですからこれからの戦闘で発見するとも考えにくいですよね。おっとすみません。まだ戦うことになるとは決まってなかったですね」
「早く外せ」
「せっかちですねー」
ワーサーはセイジの怒り混じりの言葉を軽く受け流し、今度は手早く首元の錠を外した。
「ほら、もう取れますよ。では……の前に、暗いと戦いにくいですよね。光を遮ってる岩とか布とか、取り外しましょうか?天所なので少し大変ですけど」
「いい」
「そうですか?ではぼくは後ろに十メートルほど下がりますので、そこで君の選択を待ってますよ」
「……」
ワーサーは宣言通り、セイジの元から十メートルほど離れる。
ここまで離れれば、ワーサーですらセイジのことを視認できない。
「三十秒、待ちましょうか」
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