52話──ここは
投稿忘れの話
「ここは……?」
意識が覚醒して、身動ぎをするとジャラリという音がした。
見れば両手足と首に鎖が巻かれていた。
「な……んで」
身体がだるい。
周囲は薄暗く、ぼやけた灯りが僅かに差し込んでいた。
どう考えても普通じゃない。
知らない天井だと、茶化せるような状況じゃなかった。
「気が付いたようですね」
「誰だ……?」
知らない誰かの声が聞こえ、もう一度周囲を注意深く観察。
しかし、目が覚めたばかりの暗闇に順応している目でも、三メートルより先は捉えられなかった。
鎖で石レンガの壁に張り付けられ、床も苔すらない無機質な石畳だった。
「どこに、いるんだよ」
「おや、随分冷静なんですね。動揺はしているものの、現状の確認を怠らない。ぼく的には喚き散らすと思っていたのですが……それとも、恐怖で竦んでいるだけなのでしょうか?」
男だということはわかる。それも、若い男だ。二十代か、三十代だ。声だけで作る印象は、爽やかそうな青年。
だが、こんなところで、俺がこんな状態で、あの状況を理解している上から目線の喋り方。
それらを考慮すれば……
「敵か?」
「そうですね。ぼくは君の言う敵で間違いないでしょう」
「……」
異世界に来て、人間の敵がいないとは考えてなかった。
ここは盗賊とかが普通にいる世界だ。俺は運が良かっただけで、もっと早く呆気なく殺されて終わる未来もあったかもしれない。
だから、それほど驚きは無かった。
「意識に問題は無いようですね。では、記憶は確かですか?この場所に来た経緯などは?」
「記憶……」
自分の記憶を探ってみる。一番直近の日の記憶を。
「確か、ゼットと……」
冒険に行こうとしてた。
冒険者ギルドに行って、依頼をゼットに受けてもらった。
そう、ドラゴントカゲだ。
それから……朝食を食べて、なにか飲もうってなって……
「──ッ!」
思い出した。
「アリス……ッ!!」
そうだ!
アリスと出会って、追いかけていった先で!
「思い出したようですね。アリスとは、アリス・グリントという名の小娘のことでしょう?」
「お前ッ!アリスになにをした!!」
「まだ、なにもしていませんよ。多分ですけどね。あの小娘の対応は別の者の管轄なので、ぼくは一切関与してないんですよ。そういう決まりですから」
コツ……コツ……と、ゆっくりとした静かな足音が反響して耳に入ってくる。
「自己紹介でもしましょうか。とりあえず、はじめまして」
やがてセイジの視界に、黒い靴が見え、白いズボンが見え、すぐに両側にひらひらする黒い布が見え……
「ぼくの名前はワーサーです。これは組織内での呼び名で偽名なのですが、ぼく自身ぼくの本名を知らないのでこの名乗りで許してくれればと思います」
全身が見えて、やっとその黒い布が長いローブの裾だったと気付いた。
男の、ワーサーの顔は見えない。暗くて見えないのではなく、物理的に隠されていたからだ。
ローブと一体化しているフードを被り、目位置に三日月型の白い模様が入っている黒い仮面を付けていた。
「さて、良かったですよ。君の記憶に異常が生じていた場合、それが儀式に影響を与えないとは言い切れませんからね。できる限り変則的状況は避けていきたいんですよ」
「アリスはどこだ!儀式ってなんだよ!!」
「落ち着いてくださいよ。ぼくは会話で宥めることは苦手なんですから。……というか、良いんですか?ぼくにそのような態度をとって」
「ッ……」
「そうですよ。部を弁えなさい。君の命はぼくの気分と直結しているんですから。それに、君が欲しがる情報だってぼくの口からしか得られませんからね」
「……」
「その睨んでる目は気に入りませんが……まぁいいでしょう。それでは、暇つぶしに小娘のことについてでも話しましょうか」
ワーサーはセイジの一メートル先で止まり、ローブの裾が汚れることも構わずその場にしゃがみ込んだ。
「我々……まぁ、ぼくがお遊びで入ってる組織はあの小娘よりも君のことの方が大切なんですよ。なぜなのか、という疑問に関しては説明するまでもないでしょう?」
ワーサーが薄気味悪い笑みを浮かべている。
「それとも説明した方が良いでしょうか?君の血は、君の身体は特別なんですよ。我々とは違う」
その言葉。確かに心当たりがあった。
「稀人だから、狙われた……?」
「その通りですよ。……もちろんあの小娘は貴族ですから利用価値はありますよ?君と違って大衆に注目され、時には愛される存在ですから。その娘となればなおさら良い。娘を見捨てる父親など存在しますか?」
「……」
「……」
ワーサーは黙って見つめてきた。
五秒ほど静まり返り、そこでやっとこちらの返答を待っていることに気付いた。
「……しない?」
「いいえ。存在します」
「……」
「君は素直ですね。ぼくの話を良く聞いて、話の流れから存在するという答えが正しいと考えたのでしょう?ですが残念、外れです。この世に娘を見捨てる父親など、この両手両足、たとえぼくと君のを足したとしても数え切れないほどに存在しています。それが現実なんです!」
ワーサーは感情のままに身振り手振りで話す。
「……貴族は、保身の為ならなんでもします。印象は大切ですからね。もし娘を助けに動かなかったと知られればなにもかも終わる。それくらい重く考えるでしょう。ですが、残念ならが小娘の家族には当てはまりません。あの者らには正しい愛があるのですよ。保身どうこう関係無く、全力で捜索します」
「もう始まってるのか……?」
「いいえ。まだ捜索隊は結成されていないようですね。今こうして話をしているうちに結成されてる可能性はありますが……確実な情報が出るまでは公表できないんですよ。こういうものは」
「なんでだ」
「もし誘拐や殺害されたせいで行方不明だったのではなく、ただの家出だったとしたら?捜索に使った金は全て無駄になりますよね」
「……それでも貴族なら、家出だったとしても捜索することに金を使う価値はあるんじゃないのか」
「そうですね、その通りです」
「……なにが言いたいんだよ。話が一転してるぞ」
「それにしても、妬ましいと思いませんか?」
「妬まッ……」
「どうしましたか?なにを妬ましいとか言ってないのに、まるで図星を突かれたような顔をして」
「違う!そんなわけ……!」
「君自身気付いてなかっただけで、実は心の奥底ではそう思っていたのでは?」
……思うわけない。
「君には家族がいない。心通じる相手がいない。なのにあの小娘は、愛されている。愛する家族がいる。ズルいなぁ、羨ましいなぁ……って」
アリスにそんな感情を抱くわけない。
「そしてそれは小娘にだけじゃない。他の関わった人全員に思ったことがあるのでは?家族がいるか否か、不鮮明な相手にすらも、住んでる世界が違う。分かり合えるわけない」
分かり合ってる。アリスは好きだって言ってくれた。ゼットも親友だって言ってくれた。
「そういえば君、小娘に稀人だと明かしていないらしいじゃないですか。それはなぜか」
いや、それは──
「そ」
「言わなくても結構」
遮って続けてくる。
「その行ないが君の本心を浮き彫りにしているんです」
本当に気味の悪い。
「もし打ち明けてしまったら嫌われるかもしれない。違いますか?」
「……」
「えぇ。黙っていても良いですよ。ぼくは勝手に喋りますし、君の表情、反応、息遣いから勝手に察しますから」
「……」
「嫌われるかもしれない。だから希人だと言わない。……悲しいですね。本当に愛の中に隠し事があるとは……。ぼくは小娘に同情しますよ。君はあの小娘を信じていないんですから」
「……」
「愛は信用なんですよ。ぼくは愛している。彼女も愛してくれている。相思相愛!なら生涯を添い遂げようじゃないか!……そのように、互いに信じる心があるから、全て曝け出して人生捧げて共生できると、ぼくは考えます」
「ッ……」
「耳を塞ぐのは君の勝手ですが、つまり正解、ということですよね。君は信じていない。信じているつもりでも、その行動が示していますよ」
「やめてくれ……」
「可哀想じゃないですか。悲しい関係じゃないですか」
「やめてくれ!」
「……とても、哀れな子じゃないですか」
「ッ──!!」
ジャラ、ガチャン、と鎖から鳴る重々しい金属音が何重にも響き渡る。
今すぐにでも殴ってやる。
殴り飛ばして、ボコボコにしてやる。
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