46話──互い合い違い
俺は今、装備を整えてから町を走っていた。
向かっている先は、集合場所になっている冒険者ギルドではない。
実は、出発前にどうしてもやっておきたいことがあり、
『すいませんビリーブさん』
『ゼット様、どういたしましたか?』
『やっぱり手を貸してほしいことがありまして……』
『どのような要件でしょうか?早急にご用意させていただきますので、何なりとお申し付けください』
『そういうことではなくて、別のことでビリーブさんの手を貸していただきたいことがあるんです。そのー、絶対やらないといけないことじゃなくて……なので難しかったら全然やっていただかなくても大丈夫ですから』
『かしこまりました。わたくしにできることであれば、お手伝いさせていただきます』
『ありがとうございます。それで、そのやってほしいことが──』
そんな感じで、事前にビリーブさんにお願いしていた。
集合時間まで残り三十分か四十分か、それくらいしかない。
わがまま言って付いていくことを許可してもらった立場なのだから、絶対に遅れるわけにはいかない。
それなら他のことをせずにギルドに向かうべきなんだけど、これが最後かもしれないから話しておきたかった。最悪の場合、誰も助けられなくて、俺が死ぬ可能性だってあるんだから。
走り続け、一つの民家の前に辿り着いた。
「すみませーん」
数回叩いて、中にいる人を待つ。
「あのー……」
でも出てこない。返事も無い。もう一度叩いてみる。
「……」
絶対気付いてもらえるよう、今度は何回も何回もドアを叩く。
「うるっせぇよ!!誰だ!!」
もしドアの前に立ってたら吹っ飛ばされていたであろう勢いで開いた。
横からノックしていたおかげで食らうことは無かったが、危うく叩いていた手が持っていかれるところだった。
家の中から出てきたのは、セイジと同じ、黒髪の人。
セイジの師匠だ。
「こんにちは」
「……あ?お前、ゼットじゃねぇか」
「ちょっとだけ時間もらっていいですか?」
この人には、どうしても話をしておきたかった。
「まぁ、大丈夫だけどよ……なんでお前。俺の家知ってんだよ」
「すみません。どうしても今会って話したくて、調べてもらってきました。本当にすみません、ごめんなさい」
「あー……いや、そこまで謝る必要は無ぇけどよ……まぁいい。うちで話すか?」
親指で家の中を指しながら提案してくれる。
「それともどっか店行くか?」
「じゃあちょっとお邪魔させていただいてもいいですか?」
「いいぜ。入りな」
促されて、家の中に入る。
「お邪魔します」
失礼だとはわかってるけど、興味本位で色々視線を巡らせる。
家具とかは普通にあるけど、セイジの師匠にしては少々質素な感じだ。そのことにちょっと不思議さは感じたけど、見た目に反して倹約家なのかもしれない。
もしくは、セイジからは会うたび酒を飲んでるし、飲んでなくても酔ってるって聞いてたから、そういう娯楽にばかりお金をかけている人なのかも。
でもとにかく、一軒家を持っている時点で相当稼げる人だってのはわかる。
「……?」
「あんまジロジロ見るなよ。面白いもんは無ぇぞ」
「あ、すみません」
指摘されてしまった。
でも俺は、丁度そのタイミングでなにか違和感を感じ取っていた。
普通の光景なのに、なんにもおかしくないはずなのに、不自然さを感じる。
「……」
いや、きっと気のせいなのだろう。
俺の逸る気持ちが下手に働いているのかもしれない。
「そこ座りな。なんか飲むか?酒か、水くらいしか出せないけどな」
「じゃあ水いただきます」
「はいよ」
三つある椅子のうち、入口から一番近いところに座る。
セイジの師匠はキッチンに向かい、戸棚を開けた。
戸棚の中には皿が積み重なっていて、同じく複数重なっているコップの山の上から、二つだけ取り出すと、静かに閉めた。
それから魔道具に魔力を流し、出てきた水をコップに入れる。
それをそのまま出してくれるのかと思っていたら、一度入れた水を捨ててしまい、今度は少しだけ水を入れるとコップの中をサッと洗い、それから再び水を入れて持ってきてくれた。
「ほらよ」
「ありがとうございます」
水を一口飲む。
普通の水だ。
「……」
「どうした?」
「今日は酔ってないんですね」
「いつも酒ばっか飲んでるわけじゃねぇからな!?」
「そうですよね。すみません」
「ったく。それで、何用なんだ?……あいつのことで進展でもあったか?」
「あいつって、セイジのことですか?」
「そうだ。……その顔じゃ、正解らしいな」
「そんな顔に出やすいですか?」
「あからさまに変わってるからな。で、なんだ?」
僅かに伸びた髭を触りながら聞いてくるセイジの師匠。
「確定したわけじゃないんですけど、ほぼ確定でセイジの場所がわかったそうです。それで、アリス・グリント様も一緒に連れ去られてるみたいで、これからその場所にギルマスとかと一緒に行ってきます」
「そうか」
セイジの師匠の反応は想像と違って、ずっと淡白なものだった。
もっと喜んでくれるかもと思っていたけど……
「それはジェルデミアって奴から聞いた話なのか?」
「ジェルデミア……あ、イアさんのこと知ってるんですか!?」
自分の中でイアさんと呼んでいたからすぐに思い当たらなかった。
「あぁ。今朝家に来てな」
「イアさんはなんと?」
「さっきお前が言ったことと同じようなことだな」
「え……」
「調べてく中で俺がセイジと関わりがあったことでも知ったんだろうな。だから聞き取りも兼ねてうちに来たんじゃねぇか」
「そう、だったんですか……」
「セイジについて色々聞かれたな。それと会議に参加してくれないか、的なこともな。もしかしてあれか?お前も聞かれたのか?」
「俺はビリーブさんという人が来て……その会議でセイジのことについて聞かれたり、知りました」
「そうか。場所ってあれだろ?北の方の岩山だろ?」
「はい。そこまで聞いてたんですね」
それなら教えに来る必要は無かったのか。
……でもなぁ。
「あぁ。行かねぇって言ったら教えてくれたな」
「なんで行かなかったんですか?」
「なんでってなんだよ」
「セイジがヤバいかもしれないんですよ?アリス・グリント様だって。なのになんで!」
「お前は俺になにを求めてんだよ」
セイジの師匠はめんどくそうに、そう答えた。
「え……?」
「救いたきゃ勝手にやってろ。俺は……あいつの親でもなんでもない。勝手に俺の行動を決めるな」
「……わかりました」
なんでなんだろう。
「水、ありがとうございました」
なんでそんな冷たいんだろう。
「そろそろギルドに行かないといけないので、失礼します」
家を出る直前、一言だけ聞こえた。
「俺の分も、どうかあいつを頼む……」
「……」
じゃあなんで冷たいんだよ。
その言葉はなんとか胸に仕舞った。
本当に心配ならイアさんの呼びかけに応じるはずだ。
俺も行かせてくれとか言ってくれてもいいじゃないか。
でもそうじゃない。そうしてくれない。
なのに、
『俺の分も、どうかあいつを頼む……』
なんて言う。
「……」
『救いたきゃ勝手にやってろ。俺は……あいつの親でもなんでもない。勝手に俺の行動を決めるな』
勝手なのはそっちの方じゃないか……
思い付いたばかりでまだ構成練ってる最中なので更新は遅いですが、評価ブクマ感想で速度バフが付くので良ければお願いします!
ちょっとでも続きが気になれば!是非!!




