45話──グリント
「じゃ、俺は先にギルドに戻ってるぜ。Aの奴らに要請しないといけないからな」
そう言って、ギルドマスターであるラルトは一足早く民家を出ていった。
「ではゼット様、わたくしたちも準備に向かいましょう。不足している物がございましたら支給いたしますのでなんなりと」
「ありがとうございますビリーブさん。でも戦いのための俺の装備とかは全部宿に揃ってるので、そこに帰ったらすぐ俺もギルドに行きます。なのでビリーブさんはビリーブさんの準備をしてくださって大丈夫ですよ」
ビリーブとゼットも、ラルトに続いて民家から出ていく。
そして部屋に残ったのはリドリーとジェルデミア。
「一時間後にギルド集合で良かったんですか?」
ジェルデミアが切り出した。
「リドリー様的には今すぐにでも向かってほしかったんじゃないですか?なんならこの会議すらもじれったいのでは?」
「それは……ジェルデミアの言う通りだ。だが、急く心のままに行動したところで、犠牲を増やすだけだとわかっている」
「……なんでリドリー様って貴族なんですかね」
「知るか」
「リドリー様みたいな人が貴族なのは私としては嬉しいですけど、貴族合わないですよ?」
「何度も聞いた。酒の場でも聞いた言葉だ。……はぁ」
硬い木製の椅子の背もたれにぐったりと体重を預けているその姿からは、先ほどまでの貫禄が僅かにしか感じられない。
「さっきのは、もうゼット君のことが気に入ったってことですか?」
「……」
「まだ会ってから一時間も経ってないじゃないですか」
「あの素直な生き方に好ましさを感じた。それだけだ」
「……ちなみにセイジ君に関しては?」
「さっさと行け」
「私に準備は必要無いって、リドリー様なら知ってますよね。まだ話す時間はありますよ」
「……先に一つ聞きたい」
「なんでしょか」
「知っていたな」
「まー、この資料作る中で怪しい情報がいくつかあったのでね。なので疑いを持ってただけですよ?ゼット君の発言で初めて確信に変わりました。というかアリス様の外出を黙認していたのはリドリー様ですよ?誰かとそういう関係性を築く可能性も考慮するべきでしたね」
「……アリスにとって、少しでも肩の荷を下ろせる環境であったのならば良かったと思う。アリスの役目は他貴族に嫁いでもらうことだ。だが……はぁ」
想いを馳せ、天井に阻まれた空を仰ぐ。
「一番はグリント家の繁栄より、アリスの幸せだ。稀人という事実には引っ掛かるがな」
「ちなみにビリーブさんも知っていたっぽいですね。多分ですけど、アリス様の外出を陰から見守っていて、その過程で知ったんでしょうね。それでも報告せずにいた」
「ビリーブはアリスに甘過ぎる」
「人のこと言えないと思いますよ?」
「……さっさと行け」
「はいはい。それでは行ってきますので、帰ってきたアリス様を甘やかす準備でもしておいて下さいねー」
そして、ジェルデミアもこの場から去っていった。
残ったのはリドリーただ一人。
貴族の当主を一人残すことは普通に考えておかしいことだ。その身になにかあったらどうするんだという話になる。
しかし、ダンプもビリーブも、ジェルデミアすらも、その心配をすることなくリドリーの元から離れた。
そんな彼らの行動からわかる通り、リドリーは彼らに劣らない強さを持つ。
「……クソ。……クソ。……クソ」
だからこそリドリーは、自分自身がアリスの元に行けないことを悔やんでいる。
それは己に対する怒りへ昇華するほどの激情だった。
「誰も悪くない。誰にも責任を押し付けてはならない……ッ」
彼は、人前ではとにかく貴族らしく振舞おうと、冷静を保とうとしていた。しかし、一人になったことで抑え付けていた反動が出る。
握り締めた拳は、振り下ろすことすらせずに机をへこませていく。
メキメキと、木が悲鳴を上げる音がする。
「アリス……」
行き場の無い激情が、リドリーの中で暴れまわる。
「アリス……」
ひたすらに真っ直ぐな娘への愛情が、怒りへと変換されていく。
「アリス……ッ」
──バギッ!!
遂に、リドリーの感情を支えきれなくなった机が破壊された。拳の周囲はへこみ割れ、そこから真っ直ぐ伸びた木目に沿って真っ二つになっていた。
「あぁ、やってしまった……」
後悔しても、壊れた物は直せない。修復はできたとしても、完全に元通りには戻せない。
壊れた者も、治せない。死んでしまっていれば、どうしようもない。命があっても、身体の傷は治せても、心の傷は治せない。
「不自由な世界だ」
リドリーの拳には、砕けて尖った木片が突き刺さっていた。
血が木片を伝って雫となり宙へ放たれ、やがて床へと染み込んだ。
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