31話──男とセイジ3
「……そうか。ありがとうな」
「なんでだ?」
男にいきなり感謝され、訳が分からず理由を聞いた。
「なんでもだ」
「……」
男は俺の質問に答える気はないようで、残ったバットウと口に詰め込んだ。
「……ぅぇ……いへぇ」
「そりゃそうだろ」
俺は、一つ残ったバットウの欠片を口に入れ、男を尻目にミルクでふやかしつつ噛んで飲む込んだ。
「ところでさ」
「おうひは?」
多分、どうした?と言ったと思われる。きっとそうなんだろうと決めつけ、言葉を続ける。
「あんたの名前──」
「ッ……!」
そう聞くと、男は驚いた反応を見せた。そして、変に呑み込んでしまったのか自分の胸を叩く。
「んッグ……!」
それから手元のコップを持って、また机に戻した。
「……飲みかけ、いる?」
「ゥ……」
男は返事とも取れない声を漏らし、俺が差し出したコップを手に取って口に運んだ。
「……」
「──ッかぁ!」
「なにやってんだか」
「うるせぇよ。それに、前々から言ってんだろ。教えねぇぞ」
「……まぁ聞いてくれよ」
「なんだよ」
「ここ最近、あんたと会う度にふと頭に浮かぶんだよ」
「なにがだ?」
「……」
ここまで言っておいて、少し躊躇う気持ちが出てきた。
だが、さっきの反応を見せられ、やっぱりいいやと引き下がるのにも、少々躊躇いが生まれていた。
だからここは掘り込む。その選択が正しい道だと信じて。
「一つの単語なんだよ。それも、意味のある単語じゃない。仮に意味があるとしても、俺の知らない言葉だ」
「だからなにがだよ」
「……レラティブってさ」
「────それは…………それで……?それがどうしたんだ……よ」
男は俺の言葉を聞いた瞬間、俺の目を凝視して固まった。
声は掠れて震えていた。
「同様し過ぎじゃないか?」
「…………すまねぇ」
男は目を伏せて呟いた。抑揚のない声だった。
「なにがだよ……。はぁ……」
男の反応を見て、一つの結論に行き当たりかけていた。
それを確信にするために、俺は男から目を逸らさない。
「だったら、俺からも言わせてくれ」
「なにも、言わないでくれ……ッ!」
歯を食いしばり、怖いほどに手を握り締めていた。
「でもな」
それでも俺は、男のその頼みを拒否する。
「俺の考えてることがあってるなら、本当なんだとしたら……ご──」
「お願いだ!!」
周囲の人間が驚いてこちらに注目した。
先ほどまでは他人からすればただの環境音となっていた俺たちの会話も、こうなってしまうと一言一句聞かれてしまう。
俺はあまりこの状態で会話をしたくないが、男は注目されていることにすら気付いていない様子だった。
「俺に謝らないでくれ……ッ!俺は……そんな事のためじゃ…………そんなんじゃない。違う、違うんだ!」
顔を上げて懇願してくる男。
まるで悪魔を見たかのような変わり果てようだった。
これほど動揺して声を荒らげるこいつの姿は見たことがない。
「今の話は……無かったことにしよう」
「……助かる」
「気にするな。じゃあ、またな」
俺は金だけ置いて立ち上がった。
視線は少しずつ減っているが、未だ注目を浴びていることに変わりはない。
それにこれ以上話を続けても、無駄に、必要以上に責め立てることになるだけだ。
だから終わりにする。
この話は、もっと時間を置くべきなんだろう。
もしくは墓まで持っていくべき問題で──
「すまねぇ……」
「──ッ」
それは、去り際に聞こえた言葉だった。
一言だけ。
たった一言の言葉だったが、それでも俺が確信を持つには十分な一言だった。
「…………お前こそ、俺なんかに謝るなよ……」
─────
「グリーブ……」
男のその呟きは、誰にも届くことは無い。
やがて空へと薄れていった──
思い付いたばかりでまだ構成練ってる最中なので更新は遅いですが、評価ブクマ感想で速度バフが付くので良ければお願いします!
ちょっとでも続きが気になれば!是非!!




