3話──強くなりたい
「強くなる……なにもかもド素人の俺一人でどうにかできることじゃないな。師を探すべきか?」
いつまでも今の仕事を続けるわけにはいかない。それは理解している。
だから、強くなろうとする行動から始めないといけない。
個人的には魔術が使いたい。やはり魔術はロマンだ。
でも、保有魔力を測れるっていう道具を冒険者ギルドで使わせてもらった時は、ほぼ無反応。
ゼロに等しいくらいの、最低な魔力量だった。
この世界に来て、初めての挫けだった。
熊のあれは挫けじゃなくて諦めだから別ね?
「……魔術が使えないとしても、それは地球なら当たり前のこと。ゼロがゼロになったんだから、どうってことない…………はぁ」
ため息をつくくらいはタダだよな。
「俺が頼れる人ってなると、あの人くらいか。でもタダで教えてくれはしないだろうなぁ。でも金は無いし……このサソリのシッポを売って金にしたところで、その金を使って教えてくれってのも変な話だ。これは武器にするしかないかなー」
さて、この街はかなり賑わっている。
なにしろ、口の中心部である王都に二番目に近い街らしい。もう名前は忘れた。プリンとか、クリスマスとか……そんな感じの名前だった気がする。
まぁとにかく、つまりは人の往来も相当なものと見込めるわけだ。
「必要なのは情報。聞き耳立てるだけでもまあまあ知れる。後は真偽の自己判断だ」
ちなみに全部あの人の受け売りだ。
メモする紙とペンはある。
紙は錬金術なるもので量産できるらしい。見覚えのあるものと比べると品質は相当悪い。触り心地最悪だし、斑模様で黄ばんでるし。
ペンはスライムから絞り取った黒い液体を焼き固めて加工したものとのこと。
新米錬金術師の練習で作られた紙はくそ安いし、ペンも原料となる生物が雑魚だから安い。
「ありがたいな」
ただ、この世界の文字を覚えられるはずもないのでもちろん日本語で書く。
この行為に意味があるのかは知らないが、とりあえずやってみる。
後はもう、町の入口近くの壁沿いに位置取ってただただ耳に入ってくるそれらしい言葉を、意味が分からない物はカタカナに変換しつつ、ひたすらペンを走らせた。
「価格上昇、バリウルフ、毛皮……トウモロコシが不作、小麦も怪しい……教会に新しい神父、グリートの娘の才能……いやグリートって誰だよ。これ必要ないだろ……」
消しゴム的な物はないから二重線で誤魔化す。
「新しいSランク、ドラゴンスレイヤー、稀人かもしれない、オーク、デンタ……?……ゴブリン、少なくなってる。ポーション高い。最近腰痛い……いや知るかよ」
─────
「……こんなもんかな」
時間は午後五時。草摘みの日課を急いで終わらせて、午後三時から始めたから二時間ほどやっていた。
でも書いてみて思った。あんま意味なくね?……と。
そもそも勉強とか苦手で、昔からノートに書いても全然頭に入ってこなかった。五回くらい繰り返してやっと記憶できていた。
段々とその努力もしなくなったが……あの時頑張ってれば楽に覚えられる頭ができてたのかねー?
「……帰るか」
なにもかも都合よく上手くいくわけじゃないし、そもそもこの世界にきて上手くいった覚えがない。
正直なところ、劣等感って奴に苛まれてる。
別に今の俺の生活がこの世界における最底辺じゃないことはわかってる。
悪事に手を染めざるを得ない状況ではなく、こうして仕事をできているんだから贅沢を言うなという話ではある。
稀人は強いんじゃなかったのかよ……
人生辛い。
「あー……会いたいな~」
それから少しだけ歩き進めると、とある一つの建物の前に辿り着く。
「ただいまー!」
誰の姿も見えなかったので、奥の方まで聞こえるように声を張り上げた。
すると、どしどしと重い足音が聞こえてきた。
「おう、セイジか。おかえり」
「ただいまジャスさん」
足音に合った体格をしている彼はジャス。俺が住まわせてもらってる宿の管理人だ。
ここの宿は一つの部屋に面識のない複数人が泊まる代わりに、その分低価格で利用できる。シェアハウス的な感じになっている。朝晩の食事も提供してくれ、なんと彼一人作っている。時間内に出しさえすれば洗濯だってしてくれるし、仕事の情報もくれたりする。家事全般できてその他の雑用もなんでもできる。主夫の鏡みたいな男だ。
「飯は後一時間ちょっとかかる。部屋に居ればいつも通りまとめて呼びいくからな」
「わかった」
個人的に、彼は兄貴のような存在だ。
ここの宿で知り合った人たちの中には兄貴って呼んでる人も多い。
俺も心の中では兄貴って呼んでたりするが、本人の前でそう呼ぶにはまだ早い気がして、名前呼びのままだ。
とにかく頼れる。
大抵の困りごとは嫌な顔一つせず相談に乗ってくれたり、なんとかしようと動いてくれる。きっと来世はハーレムでも築いているだろう。
ちなみにジャスさんにはヘレナと言う奥さんがいる。今は実家に帰省しているとのことで、俺はまだ出会ったことが無い。
普段は二人で切り盛りして運営しているらしいが、そんなわけで今はジャスさん一人で動かしている。
その分人数制限を前よりも狭めているから大丈夫だとジャスさんは言っていたが、俺からしたらただただ凄いと称賛するしかない。
「ただいまー」
部屋に戻ると、まだ帰ってきていない人はいるものの、既に帰ってきている人もいた。
「今日はなにかあった?」
「別に何もなかったよ」
「そっか。俺も特にないや」
「ないんかい。そういう話題振るときってなにかあるもんだろ」
「強いていうならEランクに上がったことくらいだな」
「ッ!?……マジ?」
「大マジ」
「凄いじゃんマジか!おめでとう!」
「へっ。俺は先に行くぜ。セイジもさっさと上がってくることだな!」
「上がれたらねー」
「セイジならきっと上がれるって」
「だといいねー」
こいつはゼット。俺と同い年の冒険者だ。
ただ、今の会話で出たように、こいつはEランクになった。戦う力がある凄い奴だ。
同い年で男で冒険者。親と離れ一人で頑張っている。
だから親近感はかなりあり、自然と気を許せる奴だ。
「遂に俺もEランクかー」
「Eって具体的になにが変わるん?」
「んんーーと、取れる仕事の幅が増えて、Eの仕事は金も良くなって、後はパーティメンバーが組めるようになるくらいかな。B以上になればギルドと連携してるところで優待を受けれたりもするけど、それはまだまだ先の事だね」
「パーティメンバーってのは?普通に協力するのと違うのか?」
「なんかあれらしいよ?メンバーとの報酬の分配をやってくれるとか。ちゃんとギルドで管理してる個人の貯蓄にね」
「それ自分たちでやればいいだけじゃない?」
「その場凌ぎの協力ってのもあるでしょ?偶然利害が一致して、親しくも無い人と仕事をするっていうね」
「なるほど。それのいざこざを無くすためってわけか」
「Fは仕事内容的に協力する必要がないし、人数も一番多いからギルドは関与してこないけどね。それと、メンバーを組んでれば一つの仕事でメンバー全員の評価も上がるね。組まずに協力したら仕事を受けた一人だけ上がるし金もその人だけに渡される」
「まぁ、それなら必要ではあるのか」
納得できる理由ではある。メンバー管理やらにお金を使っても、起こり得る冒険者同士の争い事が減れば結果的にプラスになるだろうし。
言ってしまえばそうしないと駄目なくらい野蛮な人も存在するってわけだが、幸いこの宿はジャスさんのお眼鏡にかなわなければ入れないので良い人ばかりだ。
「じゃあ明日にでもパーティメンバー組むのか?」
「いや、俺はDになってから作るつもり」
「またそれはなんで?」
不利益はないのだから組むだけ得な気もするが。
「報酬の分配はきついからな。FからEになったところで二倍三倍になるわけじゃないし、とりあえずEの中でも簡単な仕事をやっていこうかなと。それなら一人でもできるだろうし」
「確かに報酬が減るのはきついのか。だからって一日にいくつも仕事を受けるのも大変と」
「そゆこと!後は個人的にすぐメンバー作っちゃうと戦いの基礎を作れないかなって思ってさ」
「というと?」
「メンバー組めば連携を取る練習にはなるし、いずれ一人じゃどうしようもなくなるからメンバーを組むことは確定してるけどさ。でも戦いの中で仲間が倒れちゃったら?一人で戦わないといけなくなったら?って思うと、こういう期間も必要かなって」
「……ゼットでも、色々考えてるんだな」
「でもってなんだよ!でもって!!馬鹿にしてんのか!?」
「いやいやそんなわけないって」
この言葉は本当だ。
ゼットに対する尊敬とか、憧れの気持ちがあることは否めないし、Eに上がった話を聞いて更に強まった。
本人にこの事を言うつもりは未来永劫無い。すぐ調子乗るからだ。
「あと一時間くらいで夕飯できるってさ」
「おー了解。ちなみになにかわかる?」
「そこまでは聞いてないわ。知りたきゃ自分で聞いてこい」
「お?Eランク様にそういう態度取っちゃうか?」
そう。こうして調子に乗るのだ
─────
「急にどうした?」
「お願いできませんか?」
「うーん。別にそこまで頭を下げられなくても断りはしないんだが……他の奴じゃ駄目なんか?」
「このことについて、一番俺が頼れるのは誰だって考えた。そしたらあんたが浮かんだんだ」
俺はあの男の元に訪れていた。
頼れる信用できる人と言ったら、この男しか思いつかなかった。ジャスさんではない。あの人は別ベクトルで頼れるが、冒険者として強くなるためとなるとこの男だ。
「強くなりたいって言われてもな。俺は対して強くねぇぞ。冒険者はやってるけどよ、この見た目だぞ?ロクに稼ぎもねぇんだわ」
「でもこれくれたじゃん」
男に見せたのは、以前くれたサソリの尻尾だ。もうただのサソリの尻尾ではないことは知っている。
宿の同部屋の人が、Aランクの素材だって教えてくれたのだ。
「あー……運が良かったんだよ。偶然出くわしちまって、逃げる足もねぇから挑んで、運よく小さい個体だったから勝てた。それだけだ」
「でも実際に大怪我をすることもなく生き残ってる。でしょ?」
「……俺一人の成果じゃねぇよ。ほとんど仲間のおかげだ」
「じゃあなんで持ってたの?その仲間のおかげだったんなら、仲間が持ってるべきだったんじゃない?」
「……」
「でも実際はあんたが持ってた。それはあんたがそれだけ貢献したってことか、リーダー的な存在だったってことでしょ?」
「お前、ちゃんとしてんな」
「この生き方を教えたのはあんただよ」
「……俺はまだBランクだ。ぶっちゃけAの親切な奴を探した方が今後の為になると思うぞ。ここで俺流を教えても絶対良くなるわけじゃない。そもそも俺の戦い方は自己流なんだ。上の奴らから見たら無駄も隙も多いだろうよ。んで、それが癖になっちまったらなかなか直せねぇもんよ。それでもいいんか?」
「もちろんだ」
こういう謙虚さのあって、自己肯定感が低めもしくは自分の力量をよく理解できている人にこそ教えてもらいたい。
変にプライドがある人間ってのは、自分自身を理想の像にするものだ。
そして、理想的な自分が教えるのだから、教える対象に理想を求めてくることももちろん。
己の経験全てを美化し、無意識のうちに誇張し、普通じゃない努力を強いてくる。
だから、そのような点でもこの男から学びたかった。ただの強さだけでなく、生き残る為の術も教えてくれるだろうとも思えたからだ。
教えを乞う相手に対して、勝手に分析して良いとか駄目とか考えるのは失礼だとはわかっているが、もしこのことを打ち明けてもこの男は笑って許してくれるだろう。そう思えるくらいには心を許しているし、かなり良く思ってもらえてると自負している。
「あーわかった。わかったよ。お前に声をかけたのは俺だ。最後まで面倒見てやるって!」
「流石!そう言ってくれると信じてたよ!!」
「どうせ頷くまで何度でも来てたくせによ……まぁいい。んじゃ、今回の飯は奢れ。そしたら後は俺に任せろ。すぐ稼げるようにしてやる」
「わかった」
この男はきっと、ここで奢らせることでケジメを付けたいんだろう。俺にも、己自身にも。
完全な無償では無くすることで、こちらの申し訳なさだとか貸し借りとかの曇りを軽減する。
そして己自身にも、無償ではないんだから途中で放棄したりせず最後まで付き合うという戒めを作る為。
この二つは俺の勝手な想像に過ぎない。もしかしたらなんの考えも無く奢れと言っただけかもしれない。
だが、この男はかなり賢い。もし男の言葉が真実で、本当に弱いんだとしてもそれはそれで一つの強さだ。弱いにも関わらず大きな怪我を負うことも無く、Bランクまで登り詰めているのだから。賢い生き方をしてきたということだ。
「とりあえず今日はもう休め。明日から鍛えてやる。肉体的にも、メンタル的にもな」
「お、おう」
男はちょっとにやけてて、明日が怖く感じた。
……大丈夫だよな?
「覚悟しとけよ。いつ死のうが関係ないんだろ?もしくたばっても文句言うなよ」
大丈夫じゃないやこれ。
─────
そして翌日。
「……雨か」
「……だな」
「よし。今日は中止だ。明日からにしよう」
「……」
大丈夫か?
マジで。
─────
改めて翌日になり、俺は男と森に来ていた。
目的はもちろん、俺が強くなるための特訓だ。
「いいか?前も言ったが、情報ってのはなによりも大事だ」
昨日までは不安だったが、男はちゃんと教えてくれていた。
「情報さえあれば、力量差が分かる。戦っても勝てないと知れる。ならば逃げの一手を選択できる。大袈裟だが、命を失わずに済むってわけだ。この道で生きる理由で、貢献したいからって言う聖人みてぇな人間はほぼいねぇ。俺も、お前だってそうだろ?」
「まーな」
「改めて聞くが、お前は何の為に冒険者をやるんだ?これしか仕事が無いだとか、変に取り繕う必要はねぇからな」
「生きる為だ。生きてあの子に会う為」
「そうだろ?もうちょい浅く言えばどうだ?」
「……金の為だな」
「そうだ。報酬の為に冒険者という仕事をする。例えばだが──」
男は辺りを見回すと、「お、あったあった」と一本の木の根元に向かい手を伸ばした。
「これ、食えるか?」
手に取ったのはキノコだった。
「……」
毒があるかどうかということか?
見た目は普通のキノコ。色と大きさはエリンギみたいで、形はシイタケみたいだ。変な汁とかも出てないし、萎れてたり異様に膨らんでたりもしない。
食えそうだ……いや、わざわざこうして問題にするんだ。明らかに食えそうな物だけど実は食えないってパターンもあるだろう。
それに──
「俺は食わない」
「ほう?それは何故だ?」
「正直、火を入れさえすれば食えそうだとは思った」
「ならなんで食わない?もしお前が遭難していて食料も尽きているときに見つけても、お前は食わないのか?」
「食わない。食えると確信できないものには手を出さない。食えるか食えないって聞かれるなら、俺はそもそも手を出さないって答えさせてもらう」
「そうか」
……どうだ?
「やるな。正解だ」
「よし」
「食えるか食えないか悩んだ時点で危険だ。そもそも触れるだけで蝕んでくる毒だってあるんだからな。ま、こんな感じでこのキノコの事について知っていれば、食える食えないの判断ができる。食えるものだと知ってれば食料にできる。生存率を上げれるってわけだ。些細なことでも、情報……知識って大事だろ?」
「あぁ」
「んで、なんでお前は手を出さないって言ったんだ?ただそういう考えに至ったってわけじゃないだろ?」
全て見透かしているように、自信気に聞いてきた。
この人には敵わないな。
「真面目に考えるってよりは、あんたならこういう問題にしそうだって思っただけだ。問題自体じゃなくて、出題者の裏を読んだ」
「ハッ!ずる賢いじゃねぇか」
「すまん」
「んいや、冒険者にはぴったりだ」
男は満足げに笑っていた。
「ちなみにこれは生で食える」
そう言って、男はキノコの表面をサッと拭うと丸かじりにした。
「まずはこういう知識から叩きこんでやる。お前の世界じゃどうなのかは知らんが、ここじゃ情報ってのは金になる。俺の持つ情報をくれてやるんだから、ありがたく思えよ?」
やっぱりこの男は頼りになる。
「その草、濃い緑の……とげとげしてる草あるだろ?」
「あるな」
「それは触ると刺激臭がある液体が出てくる。五日は取れないから気を付けろよ。後そのツタ。小さい棘があるんだ。ツタ自体に毒とかはねぇんだが、だからって油断してると痛い目に遭うから避けてけ」
「なんでだ?」
「たまにリコザルってんが毒を塗ってる時がある。ツタを利用した狩りだな。毒がある植物ばかり気にして、意識外に行ってしまったらアウトだ。ちょっとした切り傷でもその毒が体に入る。そのリコザルが使ってる毒物にもよるが、十分もすれば動けなくなることがほとんどだ。その後はリコザルの集団にリンチされて死ぬ」
「……エグいな」
「だろ?ま、そのツタは綺麗な状態だから大丈夫だろうが、用心するに越したことはない」
男の隣を歩いて、森の奥を進んでいく。
ここまで深く入り込んだのはあの日以来だ。
「お前を襲った熊、バブベアーはかなり縄張り意識が強い。木の傷を見れば大体の縄張りはわかるから、勝てる自信が無いんなら良く観察して入らないようにすることだ」
「相当逃げ続けたけどずっと追いかけてきたぞ?」
森の中は方向感覚が掴めずぐるぐる回ってしまったりすることもあるらしいが、そうなるにはかなりの距離を進まないといけないだろう。回るとしても、自分的には真っ直ぐ進んでいるつもりなのだから、大きな円を描くはずだ。
つまりその円全てを覆えるほどの範囲を縄張りにしていたということなのでは?
「そんなに縄張りの範囲が広いのか?」
「あいつはな、縄張り外に出ても追い続けてくるんだ。森の中から出ない限りは永遠に執着してくるぞ。弱い癖にな」
「俺、その弱い奴に殺されかけたんだぞ?間接的に俺も傷つくんだが……」
「悪ぃ悪ぃ」
「ちなみにそのバブベアーって何ランクに値する奴なんだ?」
参考までに聞いておきたい。知っておきたい。自分の目標を、あの子の強さを。
「個体にもよるが、EからDの間ってところだな。強さ的にはDってところだが、繁殖期以外は群れないからな。その点からギルドはEランクだって判断してる。Eの上位だな」
あれでEなのか。
「つくづく、俺って弱いんだなって思うよ」
「励ましになるか知らんが、初めは誰だってそういうもんだ。あんま気に病むなよ」
そうは言われてもな……
「ま、その気持ちは否定しないぜ。努力する原動力にできるんならな。ただ、過度に自分を追い込まないようにな」
「あぁ」
「さ、次だ。変に盛り上がってる土があったら教えてくれ。それについて話したい」
「わかった」
「見つかるまでは……その丸っこい草について教えてやる。これは結構良いやつだ。スイソウって言うんだが、こうして上の方を切ると……見えるか?水が入ってるだろ?煮沸さえすれば飲料水にできる。ただ、スイソウに似てるイスイソウって草もあるんだが、それは毒がある。即効性のある毒だ。飲んですぐ呂律が回らなくなって、体が動かなくなって、そのまま衰弱死。んで、その死体は毒のせいですぐ腐って、イスイソウはその養分を吸い取る。これで死んだ奴を何人も見てきた。お前も気を付けろよ」
「見分けるには?」
「いいぞいいぞ。そういう探求心が、冒険者としての心を育てるもんだ」
男は嬉しそうに笑う。
「プロじゃないと見た目だけじゃ判断が付かないもんだ。マジでそっくりだからな」
「じゃあどうするんだ?」
「適当に虫を捕まえて、水に入れるんだ。虫にも効果のある毒だから、動かなくなりゃイスイソウだ。あとイスイソウの毒水は揮発性が高い。覗き込もうと顔を近づけるくらいならまだ大丈夫なんだが、すぐ離れないと酒を飲んだみたいにふわふわしてきて思考がまとまらなくなってくる。死にはしないが、馬鹿になるせいで別の要因で死ぬ危険性が高まる。他には──」
この日教えてもらったことを、全て吸収できたわけではない。
だが、可能な限りメモはしたし、特に重要なところ、生死に直接関わるようなことは頑張って頭に叩き込んだ。
後は復習あるのみだ。
ちなみに明日も明後日も、雨が降らない限りは森に行くとのこと。生活費に関しては、森を歩く中で売れる言われた草とか木の実とかを採っていたから、なんとか凌いでいけそうではある。
奥に進めば進むほど他の冒険者の手が付いていないところが増えていくから、その分金になるとのこと。
本当に感謝しかないや。
思い付いたばかりでまだ構成練ってる最中なので更新は遅いですが、評価ブクマ感想で速度バフが付くので良ければお願いします!
ちょっとでも続きが気になれば!是非!!