29話──男とセイジ
「……」
昼下がり。
俺はいつもの店で人を待っていた。
酒を飲んで待っていてもいいが、今日はなんとなく気分じゃなかった。腹を満たすための肉と、硬いスジを流し入れるための水を頼んだ。
運ばれてきたそれを五分ほどで食べ切る。
昔から食べるのが早いと言われるが、俺自信早食いしている自覚は無い。普通に噛み、普通に呑み込んでいるだけだ。
だから何と言われようと変わらない。
早く食べれば食べるほど、空き時間を増やせるしな。
「……おう、遅かったな」
コップに残った水を飲み干すと同時に、待ち人が到着した。
「そうか?時間通りだと思うんだが」
「ま、そんなことどうでもいい。なんのようなんだ?」
「どうでもいいって……はぁ。大したことじゃないんだけど、あんたの考えを聞いておきたくてな」
聞きたいこととは一体なんなのだろうか。
大したことじゃないということは、あれとは関係の無いことなのだろう。そうであってほしいものだ。
「相変わらずテラス席なんだな」
「風の通りが良いからな。ま、とりあえず座れよ。なにか頼むか?」
「昼食は済ませてきたし……いや、適当になにか食べながら話すか。退屈になるしな。その皿を見るに、あんたは食べたばかりか?」
「あぁ」
「余裕は?」
「あるな」
「じゃあ適当につまめるもの頼もうか」
「しょっぱいもの以外で頼む」
「わかった」
そいつが頼んだのは、バットウ。元から硬めのパンを重しでギュッと押し固め、その状態で火を入れ、それに甘味料をまぶして完成する、ザクザクとした食感のお菓子のようなものだ。
それと、ミルクを二つ。
「わかってるじゃねぇか」
「美味しいんだけど、これがないとパサつくし口の中ボロボロになるからな」
こいつとは好みが近く、かなり気が合う。
「それで本題なんだが、今の俺ってどこまで通用する?」
「どこまで、とはなんだ?」
バットウをつまみながら聞く。
「今の俺の実力は、この先のDランク、Cランクに届いてるか?」
「……難しい」
「難しいのか」
「あーいや、質問が難しいって意味だ」
こいつの実力に関しては誰よりも詳しい自信がある。
だから、こいつが戦って勝てる奴か勝てない奴かは、大体予測できる。
「正直、今のお前はCくらいなら一人でもいける」
「マジか?」
「ただな、結局は相性の問題だ。Cの中にはお前が楽に狩れるような奴はいるが、不可能なレベルの奴だっている。状況によってはB指定の奴にも勝てる」
「そうか。ならDはどうなんだ?」
「それも一緒だ。相性によっては勝てない奴だっている。一人でやってる時点で避けられない問題だ」
「……やっぱりパーティーを組むべきって事か」
「魔術が使えるってんなら一人でも幅は広げられるけどな。お前は使えねぇんだから、C以上を目指すんならパーティーを組むことも視野に入れることだ」
「うーん」
「……でもな、俺は二人でやってんだが、そいつと組み始めたのはBに上がった後なんだ。だからよ、不可能ってわけじゃねぇ。お前一人でも努力次第でBに上がれる。なんならA、Sも目指せる。適当言ってるわけじゃねぇからな?前例があんだ」
「前例?」
「パーティー組まずにSランクになった奴がいるって話だ。それも一人だけじゃねぇ。これまでに何人も出てるって聞くな」
「夢物語じゃないってことはわかったけどさ、それってめちゃくちゃ才能がある人に限るだろ」
「そりゃな。Aですらパーティー組んでも困難な世界なんだ。Sのソロは化け物の集まりとしか言えんな」
「そうか……」
バットウをつまむ手が止まっている。見れば、ミルクも俺と比べて減っていない。
相当悩んでるなこいつ。
「前も言った気がすることだし、これが希望になるかはわからんが……」
と、前置きをしてから身を乗り出して顔を近付け、周りに聞こえない声で告げる。
「その化け物のほとんどが稀人だ」
「……噂じゃなくか?」
同じような姿勢になり、小声で聞いてきた。
「ソロのSランク冒険者となると、Sランクパーティーより注目が集まるのは必然のことだろ?その分確実な情報が流れんだ」
「嘘じゃないのか」
「本当の情報を隠すことより、嘘の情報を真実に見せかけることの方が難しいからな」
「ふん。稀人か……」
背もたれに体重をかけたのを見て、俺も同じように元に戻った。
稀人。
この単語は大っぴらに言いたくないらしい。
理由は深く聞いていないが、やはり稀人を好ましく思わない奴も一定数いるからだろう。
だから、今回のように稀人について話す時は、周りに聞こえないようにしていた。
ただ……
「あんま意味無かったか?」
わざわざ気を配って話をしたが、反応は芳しくない。
「もうな、その肩書きに可能性を感じないんだ」
「なんでだ?」
「夢を感じてたから良いもんだと思ってたんだよ。でも現実は違った。俺に特別な力は無かった。となるとだ、嫌厭されるデメリットしか残ってないじゃないか」
「……そうだな」
無駄に励ましたところで、こいつは更に虚しくなるだけだろう。
素直に肯定するしかない。
「まだ気付けてないだけでもしかしたら力が秘められてるかもって思ってもさ、それって宝くじを買って当選確認せずに持ってるのとなにも変わらないだろ?はりぼての夢を持っててもな……」
「そうか」
そのタカラクジがなんなのかはわからないが、言いたいことは理解できた。
凄い人。なんでもできる人。そんな期待を背負って生きることの辛さは、嫌なほど知っていた。だから、僅かながら共感できる。
それに、責任も感じている。
「……マジに言うが、お前の才能は凡人を超えてるぞ」
ミルクを飲もうとしたが、既に空っぽだった。
机に戻すと、コトンという軽い音がした。
「あんなド素人から、数ヶ月で今だ。あのバブベアーだって殺せるようになってんだ。並大抵のことじゃねぇ。たった一人の戦果にしちゃ上出来過ぎる。お前はお前自身を過小評価し過ぎなんだよ」
「そうか……?」
あまり納得いっていない様子だ。
本当に、手間のかかる奴だ。
「あとなこれは俺の推測なんだがよ……」
再び前傾姿勢になって告げる。
「成長速度が早いってのが、お前のスキルじゃないのか?」
思い付いたばかりでまだ構成練ってる最中なので更新は遅いですが、評価ブクマ感想で速度バフが付くので良ければお願いします!
ちょっとでも続きが気になれば!是非!!




