27話──ランク
アリスとのデートから一週間。
セイジは無事にゼットからの借金も返すことができ、いつも通りの日常に戻った。
元々良好だったその体は、一週間も経ち完全に回復したと言える。
アリスに関してはなんのコンタクトもないから、まだ忙しいのだろうと思いながら過ごしていた。
とりあえず、今のセイジには特段やることは無いため、冒険者の仕事に取り組むことにしていた。
「そこッ!」
セイジは腰に装着していたナイフをスッと取り出して、目の前に立ち塞がる標的に投げ付けた。
「──!」
奇妙な鳴き声で痛みに喘ぐ生き物、バブベアーは攻撃された痛みに怒りを覚える。獲物に痛手を与えようと、覆い被さるような形でその巨体で潰そうとした。
「……」
しかしセイジは冷静に、更に一本腰からナイフを引き抜き、容易く読むことのできる動きの流れを狙って見事に鼻先に差すことに成功する。
「──ッ!」
「目を狙ったんだけど、まだまだだなー」
攻撃を止めて仰け反るバブベアー。
セイジは、敵を前にしてそんな間抜けな行動をしている奴に対する情けなど持ち合わせていない。
先日の雨で緩んでいる地面を蹴り出し、バブベアーが立て直すよりも先に速攻。
両手にナイフを掴み、両足の筋を切り裂くように突き刺す。
次なるバブベアーの行動は、予想だにしない痛みを感じて暴れ回るか、その痛みに集中して足元を攻撃するか、勝利を諦めて逃げるか。そのどれかだとセイジは予想する。
まさか俺を正確に狙って攻撃するはずがない。そうセイジは確信に近い推測をしていた。
このバブベアーは、あの時の罠を使うほどの知能のあるバブベアーには到底及ばない個体だった。
他より劣ってはいるわけではない。一般的な個体だ。
そんな一般的な個体であるバブベアーは、既にセイジの敵ではない。
「……」
ヒントを与えないように、セイジは無言で立ち止まる。音が出せばバブベアーが突撃してくるだろうと考えたからだ。
当のバブベアーは、やはりセイジの予想の一つにあった行動、足元を集中的に攻撃するように腕を振り回し、ぐるぐると足を動かしていた。
目に当たっていないのだから視界は平常のはずだが、目元を攻撃されたことによりその恐怖から目を閉ざしているようだ。
普通の獣ならばその恐怖よりもセイジを食い殺すことに集中するだろうが、バブベアーの良くも悪くもない微妙な知能のせいで自ら視界情報を遮断してしまっていた。
ならば、セイジの敵ではない。
対等な殺し合いをしていたバブベアーは、単なる獲物に成り果てた。
「それじゃ」
背中の、腰より少し上あたりに右手を回し、本命の武器を取り出した。
これまでのナイフより二回りほど大きい短剣だ。
セイジはその短剣を、絶対に落とさないようにギュっと握り締め、背を向けるバブベアーに突き刺すような視線を向ける。
既に狙いは定まっている。
セイジはナイフを投げた後に拾い上げた三センチほどの石を、右奥の木に投げ付けた。
──コンッ!
軽く跳ねるような音がして、バブベアーの意識はそちらに釘付けになった。
「ッ!」
その瞬間を狙い、今まで音を出さないように動きを止めていたセイジは駆け出す。
バブベアーが足音に気付き、セイジを視認するよりも早く。
「じゃあな」
バブベアーの側面から、その太い首に短剣を突き刺し、引き裂いた。それは、丁度バブベアーの頚椎に当たらない位置であり、血管や喉を切る動作だった。
「──……!」
自らの血に溺れるような、鳴き声とも呼べないような音を喉から鳴らし、最後の足掻きで一矢報いようと暴れるバブベアー。
しかし、既にセイジは射程外。
いくら腕を伸ばそうと、爪を立てて裂き願わんとしようと、セイジには届かない。
僅かな灯となった命を全力で燃やすが、願いは叶わない。
「……!」
段々と弱々しい動きになり、縄張りの主の威厳を失っていく。
「……」
やがて、視覚も聴覚も、なにのかも感覚が薄れ消え果てていき、新たにグリント付近の森を支配していたバブベアーはその生涯に幕を下ろしたのだった。
─────
「随分楽に倒せるようになったな」
周囲警戒しつつ、バブベアーを解体していく。
初めと比べると超絶的な成長だ。
まぁ、一から百になったら百倍だけど、五十から百になったら二倍だというだけの話。
成長はしたけど、平均的な強さになったまで。
それでも俺にとっては喜ばしい成長であり、確かな自信に繋がっている。
「そろそろDランクを目指すべきなのか?」
バブベアーはDランク指定の生き物だ。
それを倒せるのなら、Dランクのへの昇格試験を受けてみてもいいかもしれない。
ちなみに、Eランクの冒険者がバブベアーを依頼として討伐することはできないが、個人的なものであれば自由だ。だから俺は、練習の一環としてバブベアーの縄張りを見つけたら踏み込んでいた。
「うーむ」
俺が悩んでいるのには理由があった。
それは、Dランクに上がってしまうとFランクの依頼を受けることが出来なくなってしまうからだ。
依頼はその者のランクと、その前のランクのものしか受けることが出来ない。
これは、高ランクの冒険者が低ランクの冒険者の仕事を奪い、初心者育成に繋がらなくなってしまうからだそう。
Eランクの依頼はほぼほぼクリア出来る自信はある。
だが、いつまでも体調が万全で居られるのか。それが悩みの種となっていた。
戦闘行為ができないくらいの怪我や病気になってしまった時、遂行できる依頼はFランクの依頼くらいしかないだろう。
それに、それほどの怪我や病気だと他のところでも雇ってもらえるかわからない。
だから俺はFランクの依頼を保険として残しておきたいと思い、Dに上がることを渋っていた。
Dに上がっても、Cに上がっても、薬草採取や荷運びを職にしていけはするが、依頼としての賃金のかさ増しが無くなるのと、
でも、いつまでもこのままではいけないとも理解していた。
現時点では、俺一人が生きていくにはなんとかなる収入だ。だが、老い先生きていくための貯蓄をしていくとなると厳しい。
それに、
「……家族を養っていくとなると、もっと必要か」
安定重視の逃げの思考が許されるのは、家族の支えがある者のみ。それも、日本のような平和な国だけ。
「挑戦……するかぁ。変わるって決めたんだもんな……うわッ!」
集中力が欠けてしまっていたせいで、間違って内臓に刃を入れてしまった。
生暖かい液体が飛び散る。
「ミスった……」
服に掛かってしまった。
汚れが染みつくし、時間が経てば匂いもキツくなる。
「今日はもう終わるか……」
さっさと帰って脱ぎたい。
思い付いたばかりでまだ構成練ってる最中なので更新は遅いですが、評価ブクマ感想で速度バフが付くので良ければお願いします!
ちょっとでも続きが気になれば!是非!!




